1990年4月発売
ひとり娘の女子大生・亜矢子が、伊勢・志摩に旅行に出たまま、帰ってこないー。元国務大臣で太陽薬品社長の平山から相談を受けた警視庁捜査一課の十津川警部は、元刑事だった橋本豊に捜索を依頼する。橋本は伊勢市内の旅館で、亜矢子が西尾あや子という偽名を使っていることをつきとめる。その夜、旅館のおかみと女子従業員が何者かに殺された。十津川警部の推理が冴える長編ミステリー。
岡山から倉敷へ向う新幹線「ひかり」の中で、女性の死体が発見された。死因は青酸中毒。被害者の右頬から胸にかけて古い火傷の跡が。所持していたセピアがかったモノクロ写真の意味するものはー。たまたま同乗していたOL・加奈子は、事件に興味を抱くが、その推理を嘲笑うように加奈子の周辺で第二の殺人事件が。昭和四十年代の青春の光と影を背景に展開する長編ミステリー。
ポルティモア・ワシントン国際空港に降り立つと同時に、日本人刑事ニッキはグロテスクでアラベスクな殺人事件にまき込まれる。「アッシャー家の崩壊」「ベレニス」「黒猫」そのままに展開される連続殺人事件。犯人も被害者も共にポオの熱狂的愛続者なのか?最もデュパンに近づいた子孫ニッキの宝石のように明晰な頭脳が光る。本格推理長編小説。
ルースは身長185センチ、体重90キロの大女。夫のボッボより10センチも背が高い。黒髪で目はぐっと引っ込み、長く突き出た顎に毛の生えたホクロが3つ、見事な醜女だ。有能な会計士であるボッボは、若気の過ちで彼女と結婚したことを、もちろん後悔している。ロマンス小説のベストセラー作家、メアリ・フィッシャーが原因だ。彼女は美しい金髪で、ボッボより15センチも背が低い。夫は彼女との愛の生活にのめりこみ、海が見える灯台の塔の家に住む。ルースはくやしい。しかし、どうすることもできない。ある日、夫がへまばかりのルースに怒りを爆発させ、「おまえは魔女だ!」と怒鳴る。その瞬間、ルースはメラメラとめざめた。もしわたしが魔女なら、わたしはなにをしてもいいんだ。ふたりに対するルースの復讐がはじまる…。フェミニズム文学の最高傑作。
夢の木坂駅で乗り換えて西へ向かうと、サラリーマンの小畑重則が住み、東へ向かうと、文学賞を受賞して会社を辞めたばかりの大村常賢が住む。乗り換えないでそのまま行くと、専業作家・大村常昭が豪邸に住み、改札を出て路面電車に乗り、商店街を抜けると…。夢と虚構と現実を自在に流転し、一人の人間に与えられた、ありうベき幾つもの生を深層心理に遡って描く谷崎潤一郎賞受賞作。
深淵の底から、現実という水面に湧き出る、交錯した夢と記憶。コンクリートのマンションに住む人間たちと、森に棲む生き物たちとの密かな交感ー。子供たちに見せるため、別れた男と会いながら、奇妙な沈黙が続いてしまうその光景を、山の男と村人との物言わぬ物々交換、すなわち黙市に重ね合わせる川端賞受賞の表題作等、この世にひっそりと生きる者たちの息遣いに耳澄ます11編。
高層ホテルの用地買収に応じて、一家は住み慣れた西新宿の家を手放し、ホテル完成とともに地上18階の一室を故郷とすることになった。大都会に生きる人間にとって、土地とは、故郷とは、いったい何なのか、変貌してゆく東京の姿を平凡な家族の姿に託して描く、芥川賞候補の表題作ほか、故郷の島に取材した「入江の宴」など、著者の文学世界の豊かな広がりを示す珠玉作、全4編。
米ソ二大国の軍縮交渉が進展するなか、西独首相ルーデルは「強いドイツの復活」を主張していた。ソ連最高幹部は彼の失脚を狙って、まず外交ルートからの脅迫、そして側近がKGBスパイであることを暴露する。しかしルーデイは辞任せず、続く暗殺計画も失敗すると、いよいよ最後の作戦が発動されたー。軍事史専門家である著者が豊富な知識を生かして描く、迫真のヨーロッパ未来像。
モントリオールへ向かうアムトラックの車内で男が変死した。血友病の兆候もないのに、小さな切り傷がもとで失血死したのだ。事件に興味を持った放送ジャーナリスト、ハガティは身辺に迫る危険を感じながら、マイアミの血液売買ルートを追う。事件の焦点はグアテマラに暗躍する一人の男だった。ハガティは全てを解明すべく、謎のの美女エヴァと共にグアテマラへ飛ぶ…。
今夜、僕は君を抱かない。たとえ僕の体が破裂してしまっても、抱かない-もう1人の誰かへの愛と友情のために、あるいは自らの理想のために、抑えがたい情念を制御しあうことで競いあうかのような、ひたむきな三角関係。かつて描かれたことのない紺青の深海を背景に、2人の男性と1人の女性の宿命を美しい悲劇に結晶させた、渾身の力作。
古代ギリシア、中国から現代まで、世界文学のすべてを集約。旧版を全面改訂、新項目1451を加えて全4711項目、多彩な情報を満載した四大付録。新編集の“便利な世界文学百科”。
スマートさからほど遠かった青春の終わりに、男はただ一人愛した娘の面影を抱いてシチリアへ、伝説のロードレースに漕ぎ出す-。かたくななまでに一途な男と、無気力なほど屈託ない箱入娘。’80年代を悼む少数派恋愛小説。
橋の向こうにあるのは青春の夢か現実の悲哀か。身を切るような冬場の水仕事、朝の早い錦市場への買い出し、修業中の大店の息子の陰険さ、下働きの娘のほのかな恋…、京の料理茶屋に奉公する若い男女の哀歓を描く時代長篇。
ローマでもっと古い家柄を貴族の息子と、富裕な事業家の娘、若く美貌の2人の婚約は、文句のつけようのない良縁と思われた。だが花嫁の母ヘルウィアは、夫がとりまとめてきたこの縁談に、頑強に反対していた。花婿となるルキウスのよからぬ噂が耳に入ってきていたうえに、どうやらこの結婚は、花嫁の持参金目当ての色合いが濃かったのである。母親の心痛をよそに、婚礼の準備は着々とすすめられていった。そしてついに、両家の親族が初めて顔合わせをする祝宴の日が訪れた。ところがその席で毒殺事件が発生し、容疑はヘルウィアにかけられた。紀元前ローマの絢爛たる貴族社会で起きたスキャンダラスな殺人事件。弁護にのりだした不世出の雄弁家キケロが、虚偽と中傷からひとだしてみせた論理的帰結とは?