1991年発売
「パパもママも帰って来ないの」5歳の少女が警視庁に勤務する坂口正二を訪ねて訴えた。姉夫婦になにがあったのか、若き刑事は不吉な予感に襲われた。義兄の死体は福島県石川町で発見された。また王朝時代の女流歌人〈和泉式部〉の研究家吉川は数日前に佐賀県有明町で義兄が歩いている姿を目撃したという。この離れた二つの町を結び付けるものは和泉式部の墓。そして、姪の証言から「イズミ」という謎の人物の存在が浮かび上がり、事件はがぜん美女伝説めいてくる…。余部鉄橋、天橋立股のぞき、猫啼温泉、旅情ゆたかに展開する傑作ミステリー。
都市に暮らす人々はいま、豊かな物質と過剰な情報の洪水の中で疲れきり、たしかな「自分」を見失っていはしないだろうか。「尋ね人の時間」は自分捜しの物語だ。失踪した鳥を探し求める鳥篭のように、失われたわれを求めて尋ねさすらうカメラマンと女子大生の哀しくも結ばれぬ関係ー。現代人の心の空洞を描く芥川賞受賞作。
貧しいが故に、自ら遊廓に身を売った一人の少女・雪子と遊廓の一人息子・陸男ー。物語は、戦後の混乱期から立ち直りかけた昭和32年から高度成長期の昭和50年代までを背景に、二人の運命的な出会いから別れ、そして再会…。その愛の姿をドラマチックに描く。
「石狩湾に大油田発見か?」のニュースにマンハッタンは揺れた。莫大な資金を投入し、暴落した原油の買占めを命じた謎のアラビア人投資家ガブリエル・ホールディングス社の正体は?そしてそのどす黒い野望は何か。「ウォール街の精油業者」の暗躍と原油先物取引の凄い内幕を描く傑作経済サスペンス。
流氷に埋めつくされた極寒の知床ー。番屋を守る宗吉老人が助けた男、間島勲は国後島の強制収容所を脱走、えん罪をはらすため決死の覚悟で流氷原を渡ってきたのだ。昭和維新を唱える塾頭、経済界の黒幕、彼らを操る影の人物ー、戦後日本の政治・経済・思想史を背景に壮大なるスケールで描く戦慄の復讐劇。
栄光から破滅へ。次期ニューヨーク商品取引所副会長を噂された石油取引の星スティーブ・オサリオの今日は債鬼に追われる身だ。油田発見の報とともに一気に売り浴びせたのは誰か?血で血を洗う石油取引の背後にうごめく各国政府の思惑、世界金融再編の底流、そして「七人の姉妹」を鋭く描く娯楽巨編。
大寺の家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。 大寺さんの家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村さん。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。
1925年、中国・上海で起きた反日民族運動を背景に、そこに住み、浮遊し彷徨する一人の日本人の苦悩を描く。死を想う日々、ダンスホールの踊子や湯女との接触。中国共産党の女性闘士芳秋蘭との劇的な邂逅と別れ。視覚・心理両面から作中人物を追う斬新な文体により不穏な戦争前夜の国際都市上海の深い息づかいを伝える。昭和初期新感覚派文学を代表する、先駆的都会小説。
時は後漢末、献帝を擁した曹操の権勢は絶大なものがあった。劉表より荊州を譲られた劉備は、諸葛孔明の進言により蜀に兵を進め、中国は魏・蜀・呉の三分するところとなった。天下盗りを狙う曹操は、馬騰を殺し、献帝を廃して皇帝となり、天下に号令せんとした。これに対し、関羽・張飛・趙雲・馬超らの勇将、孔明・徐庶・〓@70AA統の謀将を従えた劉備は、曹操討滅・漢の復興を目指して遂に兵を挙げた。魏の諸城は次々と陥落し、憂悶のうちに曹操は死ぬ。全ての「正史」はインチキだと主張する著者が、雄大なスケールと厳密な時代考証・見事な人間描写で綴る一大歴史ドラマ。
山の王国のガド王の命により、密書を携え海の王国を目指すシャルの一行。隊商の隊員に化けての旅の途中、自由都市ウィリー市で、誘拐された市長の娘の救出隊に加わることとなる。誘拐したのは仮面党となのる盗賊団。しかもその仮面党は、狩猟の民のシンボルであるエメラルドの原石「雫石」も奪い持っているという。狩猟の民の遺児であるシャルたちは、仮面党の本拠地を探しに山岳へと出発する。しかし険しい山中には、そこに生息する蛮族、ヤニハン族の襲撃が待ちかまえていたー。
ひと目惚れ!かくも胸躍らせる言葉があの時代にはあった。60年代のはじめ、場所はロンドン。クリフォード・ウェクスフォード。35歳、美男で独身でお金持ち、美術オークションの大会社レオナルドの実権を握ろうとしている。ヘレン・ラリー。22歳。額縁職人であり、ボッシュばりだが売れない絵を描く画家の娘。地味なドレスながら、有名人やきらびやかな衣装をまとった美女たちのなかでもひときわ輝く美しさ。二人はパーティ会場を抜け出し、甘く激しい一夜を過ごす。やがて、かわいい娘ネルが生まれるが…。
男心はこんなにもろいものなのか、そして女心は…?クリフォードとヘレンをとりまく男と女たち。大富豪の娘アンジー、つぎつぎと変わるクリフォードの愛人たち、ヘレンを愛する美男の黒人私立探偵、ヘレンの両親、クリフォードの両親、ヘレンの再婚相手のサイモン、そのほか大勢の人々が、男と女の心のゆき違いに悩み、傷つき倦みながら、また新しい出会いで人生が変わろうとしている。そして二人の間に生まれた娘ネルは、想像を絶する運命に弄ばれていく。乾いたユーモアと鋭い人間洞察で描くフェイ・ウェルドンの代表作。