1992年5月発売
同じアパートに住む証券アナリストのサロメが、浮かない顔をしていた。シティで彼女の扱う情報が外部に洩れており、おまけにその犯人にもされかけていたのだ。しかし、疑惑を晴らすための調査に出かけた彼女は転落事故で瀕死の重傷を負う。ことここに至って、エンジエルとは名ばかりのわたしも、漏洩経路を突き止めるべく敵陣深く乗り込む決意をする。英国推理作家協会賞ユーモア賞を受賞したロンドン無責任男の第2弾。
ジョフリーはなにをやっても愚図でいじめられっ子の中学生。ある日彼は、走り去る輸送車の後部から血がしたたっているのを目撃した。仲間に懸命に訴えるが誰も取り合ってくれず、逆に嘘つきだと先生から大目玉をくらう始末。だが、ひとり不安に怯える少年の背後に奇想天外な強奪作戦を企む男たちの魔手が迫っていた。悪党どもに立ち向かう少年の奮闘ぶりを軽快に描く、英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞作。
楽しみにしていたハネムーンもおあずけだった。ミステリ専門書店を経営するアニーとマックスの結婚式の当日、なんと町の嫌われ者が殺されたのだ。しかも、容疑者はアニーの親友イングリッド。アニーとマックスは新婚気分も返上で犯人探しに乗り出すが…。前作『舞台裏の殺人』に続き、二年連続でアンソニー賞を受賞した話題の本格ミステリ・シリーズ第二弾。
ポーランド系ユダヤ人のハリーはニュージャージーで実業家として成功しているが、実は第二次大戦中、ナチの強制収容所へ送られるところをイタリアへ逃げのび、米国へ亡命したという過去がある。そのとき彼を救ったのが、ブロードウェイの一流興行師ビリー・ローズが指揮する地下組織ベラローザ・コネクションだった。戦後ハリーは命の恩人を捜し求める…。奇妙な味わいの佳品。
フリーの記者の津田は、フィリピン・バーから救って同棲していたマイラが自ら姿を消したことを知った。どこか謎めいていた彼女の行方を追ううち、津田はフィリピン女性売春斡旋組織と松江で起きた火事を結ぶ、戦後から現在にいたる秘密の糸に辿り着く。だが、その糸をたぐることが、思いがけぬ人物を追いつめることになろうとは-。雄大な構想、迫力あふれるアクションの、ハードボイルド・サスペンス登場。
札幌の歓楽街ススキノで探偵まがいの仕事をしている〈俺〉は、今夜もバー〈ケラー〉の扉を開ける。待っていたのはいつもの酒と胃腸薬、そして…。酒場で拾った事件は、大学の後輩の失踪した恋人捜しだったが、それが思いがけずデートクラブ殺人の調査へと発展。〈俺〉は、アルバイト売春娘やチンピラ少年団をかきわけ、二日酔いと闘いながら真相に肉迫していく。北の街に、新しい軽快ハードボイルど誕生。
〈第三眼〉を持つカミス人は人工衛星カミスに設置した事象制御装置アスタートによって、惑星リンボスの世界を制御していた。アスタートの操作に携わる理論士イシスの恋人は、詩人である弟のアシリス。だが、カミスでは姉と弟の恋愛は禁じられている。そこでイシスは自分の理論士としての立場を利用し、カミス人の理論の実験場でありリンボス世界を改変することにより、カミス世界をも改変させ、弟との恋を成就しようとしたが…。言葉が世界を紡ぎ出す神林長平の魅力をあますところなく伝える本格SF。
ベルは死んだ、フラッドは行ってしまった。傷心の日々を送るバークのもとへ、かつてのムショ仲間ヴァージルの妻レベッカが訪ねてきた。いとこに頼まれて預っていた少年ロイドが連続狙撃事件犯人の容疑をかけられ、ヴァージルとともに逃亡したという。おれの問題の答えを出せるのはバークしかいない、というヴァージルのことづてを聞いたバークは、ニューヨークを離れインディアナへ向かう。そこでバークは狙撃事件で妹を殺され復讐を誓う金髪女ブロッサムに出会い、ヴァージル一家とともに真犯人に罠をかけるべく、計画に着手する…。家族の絆、少年の自立をモチーフに、住み慣れた街を離れ仲間と別れて狙撃犯を追うバークの行動を描く。新境地を拓くアウトロー探偵バーク・シリーズ最新作。
「4つの村から神が来る花咲、鳥啼、風吹、月影『四神』たちの崇りなり我、秘密を知り過ぎたり」。10年前の夏、謎の首吊り自殺を遂げた父、耕之介が残したメッセージが、朝比奈耕作を不可解な事件へと導いた。郷土史家の耕之介が30年前に訪れていた鳥取県の山深き寒村、花咲村。舞い散る桜の花に覆いつくされた神秘的な山里で、身も凍る伝説が現実となってゆく…。錯綜する情念のはざまで朝比奈は、自らのルーツと父の影を追い求める。謎が謎を呼ぶ「惨劇の村」5部作第1弾。著者渾身の大河連作ミステリ。
総トン数一万二千トン、五ツ星の外洋豪華客船、洋華号はフィリピン内海をめぐるトロピカル・アイランド・クルーズに向った。ところがマニラ出航の翌日、ヌーディスト島に上陸した船客のうち、女子大生の松山美江子が全裸死体で発見された。ツアー・ディレクターの丸浜公一は、通訳の山本悠子の話から歓迎ディナーの深夜に美江子が売春ツアーに関った疑いを持つ。その後も奇怪な事件が…。長篇ミステリー。
源氏物語の完成に向けて苦慮し、藤原道長の強引な求愛に懊悩する紫式部。一方、式部の娘賢子は母の厳しい教育を受け、侍女らにかしずかれて成人するが、友人も少なく孤独の身であった。後見もいない賢子の将来を思いやり、母娘ともども皇太后彰子の許へ出仕するようになる。やがて、和泉式部、赤染衛門らとの交際が始まり、さらに、貴紳顕官の子弟たちの誘惑が待っていた…。長篇歴史小説。
百万に一つの失敗もないという“百万分の一のネコ”。畏敬と嫌悪のいり混じった通り名が、D種特務捜査官である彼女の勲章だ。存在自体が極秘扱いにされるD種犯罪者を狩り出す任務のため、ネコはグラビアという見棄てられた鉱業惑星に。獲物は二年前の惑星プレノリアで起きたテロ事件の首謀者“大鎌”。ネコと相棒ノイズに突如襲いかかる姿なき死の竜巻…。大鎌のサイ能力が炸裂する。サイキック長篇。
羽田空港の老入国管理官・的場の目前で、台湾人の入ったトイレが白煙を上げて吹っ飛んだ。一方、調布飛行場を飛び立った小型機の撮影した高精度の航空写真には死体らしき白い影が写っていた。連絡を受けた航空検察官の伊吹卓は、多摩丘陵に走り、身元不明の東南アジア人の死体を発見。マスコミを通じて的場から報告を受けた伊吹は同時に台湾から入国した四十代の東南アジア人を追う。航空サスペンス書下し。
武辺に生きる奥義を「五輪書」に託し、巷説、幾多の決闘譚を生んだ剣豪・二天宮本武蔵。真筆の襖絵は今日も墨痕鮮やかだが、その生涯に謎は多い。足利将軍家指南・吉岡憲法を蓮台野に屠り、洛東一乗寺村下り松で吉岡一門の挑戦を一蹴した“武蔵”像に、二つの若き影が重なる。播州浪人・岡本武蔵、作州浪人・平田武蔵。二人の剣客の交錯するところ、“武蔵”の足跡が記されていった。五味剣豪小説の代表的名作。
滝口康彦「春暗けれど」、山岡荘八「念志ヶ原の妻」、多岐川恭「異端の三河武士」、永井路子「関ヶ原別記」、戸部新十郎「放れ駒」、中山義秀「落日」、山田風太郎「羅妖の秀康」、菊池寛「忠直卿行状記」、新宮正春「介殿異心あり」、戸川昌子「千姫狂い髪」等十人の作家によって、戦国乱世の最後の勝利者であり、徳川三百年の幕藩体制の基礎を確立した武将、徳川家康と彼の周囲を彩った人間群像を描いた傑作アンソロジー。