1993年11月発売
飽きっぽい性格のため、何度も職を転々としていた志村兼次郎は、持前の腕力、胆力の強さから、いつの間にか横浜の盛場でハイダシ(ユスリ・タカリ)集団の不良仲間の首領として、徐々に幅を利かせるようになっていった。そのあまりの無鉄砲さに「鉄砲兼」というアダ名をもらっていた兼次郎だが、強きを挫き、弱きを扶けるという精神だけは生涯変わることはなかったー。「鉄砲兼」の喧嘩人生痛快譚。
高尾山中の白樺山荘が全焼との急報を受け、八王子分署の江頭検視官補はじめ国分部長刑事、百瀬刑事の三人が現場に急行した。異様な臭気に噎せ返る焼け跡から男五人、女五人の無残な焼死体を発見。事故か殺害かー。ほどなくして、当夜山荘に集まった男女のメンバー表が発見された。そこには男五人、女六人の氏名が記されていた。もう一人は何処に。八王子分署の個性的な刑事達の活躍を描く書下し長篇。
業界最大手である関東証券の河津一郎は、高卒入社以来抜群の業績を挙げ続けていた。妻の美香とは見合結婚だが、会社一筋の河津を美香は愛せず、かつて求婚された名倉冬樹との不倫に溺れた。やがて河津は出世コースの支店長に栄転、しかし、業績が落ちてしまう。焦る河津に、株暴落の中で無謀ともいえるノルマが課せられた。証券業界の実態を赤裸々に描き会社人間の苦悩を活写した力作企業長篇。
国際刑事警察機構の派遣職員の身分で警視庁から出向、CIAの助っ人として早や三年が経つ。中学三年生だった長男は大学受験の時期となった。父親の役割を演じてやらねばと思っていた。ちょうどそんな時、CIA長官から「国連直属の特殺隊長として世界中の悪の根を絶て」との命令を受けた。黒人娘マンディ、日本娘仁井本清美らの美女を部下に。
はんなり風に舞う桜、粋に咲くのは紅朝顔、ひそやかに揺れる野の小菊、華やぐあだ花寒椿…。二十五種の花々が、江戸の町を彩り咲き競う。四季おりおりに、ベテラン・井口朝生が描く市井の人々の恋模様。
道原は、部下の伏見刑事の耳に口を近づけた。「テントの中で死んでいた男が、このナイフでザイルを切ったとしたら、どうだろう?」「殺人ですか?」伏見は屏風岩を振り仰いだ。北アルプスの屏風岩で二人の登山者が死亡した。しかし、その死因は不可解で謎に満ちていた。事故か、殺人か。現場に急行した刑事たちがそこに見たものは。(「白銀の暗黒」)など、道原伝吉の名推理が冴える六つの事件簿。
夢と現実のあわいに浮び上る「迷宮」としての世界を描いて、二十世紀文学の最先端に位置するボルヘス(一八九九ー一九八六)。本書は、東西古今の伝説、神話、哲学を題材として精緻に織りなされた彼の処女短篇集。「バベルの図書館」「円環の廃墟」などの代表作を含む。
信濃追分で“かわいい魔女”を売る土産物店「ひいらぎ」。ある冬の夜、店の前で見知らぬ男が死んでいた。一人暮らしの女主人一枝にはまったく見覚えのない顔。信濃のコロンボこと竹村警部が捜査に乗り出した。一方そのころ、東京、本郷の「八百屋お七の墓」でも男の変死体が発見される。本郷はかつて本郷追分といわれたという。こちらでは、警視庁の切れ者岡部警部が捜査を開始した。二つの「追分」の事件に、二人の“名探偵”が挑む。そして、謎は北海道にまでおよぶ…。
一九七六年五月。八月の民主党全国大会で副大統領候補に推されるはずの上院議員が、行方不明のわが娘を捜し出してほしいと言ってきた。期限は大会まで。ニールにとっての、長く切ない夏が始まった…。プロの探偵に稼業のイロハをたたき込まれた元ストリート・キッドが、ナイーブな心を減らず口の陰に隠して、胸のすく活躍を展開する。個性きらめく新鮮な探偵物語、ここに開幕。
広告業界で成功し、言葉だけで他人を思い通りに動かせると自信に満ちていたシャルル。が、「部屋貸します」の看板に誘われ入った古いアパルトマンで、突然エレベーターの中に閉じ込められてしまってからは、目の前を通り過ぎる未亡人、家政婦、郵便配達夫等、助けを求めた人々との会話はすべて擦れ違って…。エレベーターで飼われた男の物語。フランス小説ならではの小粋で皮肉な会話で綴る奇妙な三週間の体験。
ベッドで隣に横たわる妻のめそめそした泣き声を聞きながら、ピップは怒りと苛立ちを必死に抑え、寝たふりをつづけた。なぜこの女はセックスで愛を繋ぎとめようとするのだろう。透けたネグリジェを着ても、こちらの嫌悪感を掻きたてるだけなのに。彼が心を寄せる人は別にいた。魅力的な肢体をもつ、天使のような娘。だが、妻がいるかぎり、彼はその娘の愛を知らずに終わるだろう。殺意は一瞬のうちに形をとり、鮮明な光景となって脳裡に広がった。やるならいまだ…。弁護士ヘレン・ウェストは事件の報告書に腑に落ちないものを感じた。健康な中年女性が、原因もなしにある日突然就眠中に死ぬだろうか?検死では毒物は発見されず、死体を発見した夫ピップにも不審な点はなかった。だが、ヘレンの与り知らぬところでピップは若い娘への異常な愛を募らせ、自らの欲望を満たそうとしていた。英国女流の鬼才が放つ英国推理作家協会賞受賞作。