1993年7月発売
『じゃじゃ馬ならし』は、妻が夫に隷属することを賛美した、男性上位主義者のための作品よ。-シェークスピアの授業で生徒のひとりから出された意見を思い出しながら、英語教師のアマンダは女性虐待について書かれた本を手にとった。手頃な値段の古本だから、あの生徒に買ってあげたら喜ぶかもしれない。だが、本をひらいた途端、そんな考えはどこかにふっとんでしまった。ベージの余白に、夫の家庭内暴力に悩む女性の書きこみがあったのだ。夫に殺されるかもしれないと訴える人妻は、いったい誰なのだろう?なんとか探しだして、救いの手をさしのべてあげたい。アマンダは人ちがいをくりかえしながら、ようやく被害者の身元をつきとめた。だが、時すでに遅く、被害者の家を訪ねたアマンダは、そこで死体を発見するはめに…。おっちょこちょいだけど人一倍正義感の強い美人英語教師が素人探偵に挑戦する、好評シリーズ第三弾。
イタリアの大富豪が建てた浜辺の別荘で、当の富豪を含む四人の男女が惨殺された。別荘には最新の警備システムが張りめぐらされ、敷地内は巨大な密室ともいえる状況だった。刑事警察のゼンは事件の調査を命ぜられるが、やがて彼自身の前に謎の殺人者の影が…。英国ミステリ界の次代を担うと期待される新鋭の英国推理作家協会賞、ヨーロッパ・ミステリ賞受賞作。
太平洋戦争末期、阪神間大空襲で焼け出された少年が、世話になったお屋敷で見た恐怖の真相とは…。名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、日本恐怖小説界に今なお絶大なる影響を与えつづけているホラー短編の金字塔。
白内障にかかった自分の目玉をプラスティックの人工水晶体にとりかえる大手術。その模様を、焦燥とも悲愴感とも無縁な、子供のような好奇心でクールに眺める作家の視線ー。読者の意表をつき、ユーモアさえ感じさせる表題作のほか、鋭利な感性で研磨された過去の記憶が醸しだす、芳醇な吉行文学の世界。7編収録。
腹違いの弟を殺害した罪により、大阪で服役していた竹原秋幸が、三年ぶりに故郷に帰ってきた。しかし、その紀州・熊野の地にも都市化の波が押し寄せ、彼が生まれ育った「路地」は実父・浜村竜造の暗躍で消滅していたー。父と子の対立と共生を軸に、血の宿命と土地の呪縛が織りなす物語を重層的な文体で描く、著者渾身の力作。『枯木灘』『鳳仙花』に続く紀州神話の最高到達点。
〈ある種の感染症〉により、放尿時の異常な痛みに苦しむ男、フレッド・トランパーは、古代低地ノルド語で書かれた神話を研究する大学院生である。将来の見込みは殆どない。しかもスキーのアメリカ代表選手ビギーを妊娠させたことで父の逆鱗に触れ、援助を絶たれてしまう。息子コルムも生まれたものの、トランパーの生活はいっこうに落ち着かない…。ファニーで切ない青春小説。
トランパーは遂に家出し、旧友メリルに会うためウィーンへ飛ぶが、行方不明だった彼はドナウ河で水死していたことがわかる。その上、帰国してみれば、妻ビギーはトランパーの親友と結婚していた。傷心のトランパーはニューヨークで映画製作に加わり、トゥルペンという女性と暮らし始めるが…。現実から逃げ続けてきたトランパーに救いは訪れるのか?コミカルな現代の寓話。
アンソニー・コルトは環境汚染ゆえに妻子を失い、復讐に燃えるテロリストとなった。彼の最大の標的となった化学薬品のメーカーのトップは、合衆国当局との秘密会議に臨むため、ワシントンへと向かう。コルトの策謀を探り、迎え撃つFBI捜査官ダギットも、かつて肉親を奪ったコルトへの復讐を誓い、苛烈な大追跡劇の末に国際空港で最後の決戦を挑むー。『深層海流』につづく待望作。
「ぼくは殺される」-。心理カウンセラーのエイリーンが託された少年の訴えは、単なる妄想なのか?少年を観察するうちに、彼はまぎれもないわが子ではないかと疑念を抱くエイリーン。彼女には、混乱が支配する60年代、誤って胎児を死亡させた悲惨な過去があった。現在と、過去、現実と幻想が錯綜し、読む者を果てしなきトリップに誘う注目のアシッド・サイコ・サスペンス登場。
いまなお人種差別の色濃く残るアメリカ南部の街クラントン。ある日この街で、二人の白人青年が十歳の黒人少女を強姦するという事件が起きた。少女は一命をとりとめ、犯人の二人もすぐに逮補されたが、強いショックを受けた少女の父親カール・リーは、裁判所で犯人たちを射殺してしまう。若いけれど凄腕のジェイクが彼の弁護を引受けたのだが…。全米ベストセラー作家の処女長編。
カール・リーの弁護を務めるジェイクの周辺では、庭先に燃える十字架を立てられるなどのいやがらせや脅迫が相次ぐ。才気煥発な女子学生エレンと共に準備を進めるが、確信犯ともいえる犯罪で無罪を勝ち取るのは不可能に近い。公判が始まり、黒人と白人の対立が頂点に達するなか、ついに評決のときを迎えたがー。アメリカの裁判の雰囲気をリアルに伝える、第一級の法廷サスペンス。
『誹風柳多留』の板元二代目・花屋二三が馴染みの女の部屋で偶然目にしたそれは、かつて見たこともないほどの強烈な役者絵だった。しかも役者は大坂で行方の知れない菊五郎。だれが、いつ描いたのか…。上方と江戸を結ぶ大事件を軸に、浮世絵、芝居、黄表紙、川柳、相撲、機関等江戸の文化と粋を描ききった力作。
捕縛された隠れ切支丹が囁いた“ガラシア・オラショ”とは何を意味するのか。天童・天草四郎との関係は?細川藩が放った男女の密偵が切支丹一揆の真っ只中に潜入するが…。島原の乱を斬新な発想で描く、書下し長編時代小説。
E・M・フォースターが死んだ日に霊感を受けた女性作家、女家主の事故死した子供の幽霊を見てしまった男、母が亡くなって後ひそひそと先祖の話し声が聞こえる隣部屋。大作『ポゼッション』でブッカー賞を受けた英国きっての知性派女流の短篇には、いかにも英国的な、繊細で不気味な雰囲気が滞う。