1993年発売
大坂夏の陣が終結して一年後の元和二年-。かつて伊賀一と忍びの技をたたえられた滝野右近のもとに、さる大名の使者が訪ねて来た。使者は右近の腕を見込み、徳川家康が所持している名物茶器初霜肩衝を奪って欲しいと頼む。そのころ、茶器は家康の亡骸とともに柩におさめられ、久能山の仮殿に安置されていた。徳川家に忠誠を尽くす服部一族との死闘の末、右近はついに家康の柩をさぐり当てる。だが、棺の蓋をあけた右近がそこに見たものは…。
化粧品メーカーに勤務する魚住晋一は、立山で遭難しかけ、若い女性に助けられた。だが、女性は翌朝、忽然と姿を消した。後日、見合い結婚した魚住は、新妻・夕紀子がその時の女性ではないかと思い、妻の過去を探り始めた。その魚住の行動は、周囲に波紋を投げかけ、思いもかけずそれぞれの隠蔽されていた忌まわしい過去を白日のもとにさらけだすことになった…。
札幌の陸上自衛隊北部方面総監部が、ソ連極東戦域軍の動きに北海道侵攻の意図ありとの情報を入手。首相官邸に呼び出された防衛研修所の柳瀬の元へ、時を同じくして石狩湾にF級ソ連潜水艦が強行突入し坐礁との報告が入る。いやが上にも緊張が増す中、柳瀬達はこれらが極東戦域軍によるクーデターの一連の動きと分析するが、米国はその動きを黙認する。これは脅しか、それとも最高度の政治的謀叛戦略なのか?
北アルプス常念岳の山中で、丸めた新聞紙だけを詰めたザックを持って死亡した登山者が発見された。荷物の中身が古新聞だけという前代未聞のケースに疑問を持った豊科署の名刑事・道原伝吉は、男が持っていた手書きの地図を手掛りに雪解けを待って捜査を開始。その地図に明示された印の地点から、死後数年を経た白骨遺体と空のジュラルミン製トランクが出てきたことから事件は意外な方向に展開を見せ始めた。
平家一門が檀ノ浦の海に滅んでから、はや十五年の歳月が過ぎ去っていた。京都神護寺の僧侶・明恵は、手を触れずに物を動かす力や、空中浮揚といった神異の力を操ることができた。ある日、琵琶湖の竹生島で夢見の術の修業をしていた明恵は、伊吹山方面に邪悪な影を感じとった。聖徳太子がはるか未来のことを書き記したという、南都秘宝中の秘宝『太子未来記』が奪い去られた事件と関わりがありそうだ。淫道外法により『未来記』の封印を解かんとする、北条政子のもくろみとは。鬼道妖変、超歴史大河ロマン第一弾登場。
市助には8人の子がいた。その子らが夜ごと寝間をぬけだし、朝までタンスの上に坐っている…。「箪笥」など、能登を舞台に軽妙な語り口で綴る恐怖と戦慄の不思議な物語9編。(解説・郷原 宏)
『じゃじゃ馬ならし』は、妻が夫に隷属することを賛美した、男性上位主義者のための作品よ。-シェークスピアの授業で生徒のひとりから出された意見を思い出しながら、英語教師のアマンダは女性虐待について書かれた本を手にとった。手頃な値段の古本だから、あの生徒に買ってあげたら喜ぶかもしれない。だが、本をひらいた途端、そんな考えはどこかにふっとんでしまった。ベージの余白に、夫の家庭内暴力に悩む女性の書きこみがあったのだ。夫に殺されるかもしれないと訴える人妻は、いったい誰なのだろう?なんとか探しだして、救いの手をさしのべてあげたい。アマンダは人ちがいをくりかえしながら、ようやく被害者の身元をつきとめた。だが、時すでに遅く、被害者の家を訪ねたアマンダは、そこで死体を発見するはめに…。おっちょこちょいだけど人一倍正義感の強い美人英語教師が素人探偵に挑戦する、好評シリーズ第三弾。
イタリアの大富豪が建てた浜辺の別荘で、当の富豪を含む四人の男女が惨殺された。別荘には最新の警備システムが張りめぐらされ、敷地内は巨大な密室ともいえる状況だった。刑事警察のゼンは事件の調査を命ぜられるが、やがて彼自身の前に謎の殺人者の影が…。英国ミステリ界の次代を担うと期待される新鋭の英国推理作家協会賞、ヨーロッパ・ミステリ賞受賞作。
太平洋戦争末期、少年が屋敷で見た恐怖の真相とは!? 名作中の名作「くだんのはは」をはじめ、日本恐怖小説界に今なお絶大なる影響を与えつづける、ホラー短編の金字塔。
白内障にかかった自分の目玉をプラスティックの人工水晶体にとりかえる大手術。その模様を、焦燥とも悲愴感とも無縁な、子供のような好奇心でクールに眺める作家の視線ー。読者の意表をつき、ユーモアさえ感じさせる表題作のほか、鋭利な感性で研磨された過去の記憶が醸しだす、芳醇な吉行文学の世界。7編収録。
腹違いの弟を殺害した罪により、大阪で服役していた竹原秋幸が、三年ぶりに故郷に帰ってきた。しかし、その紀州・熊野の地にも都市化の波が押し寄せ、彼が生まれ育った「路地」は実父・浜村竜造の暗躍で消滅していたー。父と子の対立と共生を軸に、血の宿命と土地の呪縛が織りなす物語を重層的な文体で描く、著者渾身の力作。『枯木灘』『鳳仙花』に続く紀州神話の最高到達点。