1994年1月発売
友だちの恋人が謎の失踪を遂げた。だが、あまりにも唐突な悲劇の輪郭はぼやけていて、誰もがほんとうに起きたことのような気がしない-。当事者たちの証言を集める〈私〉に向けて、記憶の集積はやがて真相を語り始めた。女の秘められた過去とは?曖昧な悲劇は確かな『出来事』になるのか?野心的手法と緻密な構成による傑作長編小説。
俺は、完璧な逆玉に乗ったはずだった。この家の秘密を知るまでは…(ママは何でも知っている)清潔好きで、家中に規則を設けた家族たち。黴菌扱いされた父親は…(ルール)会社は大人の時間、家に帰れば子供の時間。楽しい二重生活が、ある日…。(僕のトんちゃん)家族さえもレンタルできる現代。やがて、本物と区別がつかなくなって…。(出前家族)ある晩、デートから帰った長男の車には、なぜか助手席に死体が…。(団欒)若手実力派が描く、五つの世紀末的家族の肖像。人ごとではない恐怖が迫る、シテイ・ホラー小説集!
お前を刺すのは憎いからじゃない。愛したいから。わかりあいたいから…。孤独のメロディが流れる真夜中の東京で、凄惨きわまる死体がひとつ、またひとつ…。第6回日本推理サスペンス大賞優秀作。
ルイスバーグ・スクェアに豪邸を構えるボストンの名家の女主人が通り魔に殴り殺された。犯人を挙げられない警察に業を煮やした当主のラウドン・トリップは、私立探偵スペンサーを選んだ。殺された妻オリヴィアを心から愛していたラウドンの苦悩は深く、なんとしても殺人犯を捕らえ、厳罰を下したかった。だが、依頼を受けたスペンサーはしっくりしないものを感じていた。いくら家庭を大事にしていたといっても、彼らの息子や娘はなにか問題を抱え、殺された妻には夫の知らぬ秘密がありそうだった。一見非の打ちどころのない幸せな家族-、それは大いなる幻影だったのではないのか?この事件の担当刑事は恋人をエイズで失ったゲイの青年リー・ファレルだったが、スペンサーは彼の協力を得て次第に事件の背後にあるものを嗅ぎとっていく。そして、被害者オリヴィアの出身地サウス・カロライナへ赴くが、そこには彼女の出生にまつわる意外な事実と、調査を妨げようとする巨大な圧力が待ち受けていた…。シリーズ中もっともプロットに凝り、高く評価された第20作。
慶長16年5月10日…、一人の嫖客が、江戸大橋の柳町を典雅な風情で歩く。豊臣・徳川の天下わけ目の戦いは東軍の勝ち。西軍の将は千々に身を処していた。岩見重太郎も、大坂城の茶々を偲びつつ諸国を歩き、やがて嫖客の歩みに合わせるが、その先にこそ。大御所・家康を睥睨する錬金術師と重太郎の不動剣が真田の六連銭とおり重なって時代に舞う。
弁護士の妻に前科が。若き弁護士・花吹省吾は驚愕した。妻の玲子によれば近所の奥さんに誘われて軽い気持ちで歌謡ショーを見に行きケーキとジュースを出されたという。ところがこれが巧妙に仕組まれた選挙の事前運動で、饗応の罪に問われたのだ。はからずも妻の弁護をすることになった花吹は必死の法理論を展開するのだが…。傑作法廷推理集。
休暇と家族サービスを兼ねて、林は秋盛りの日光中禅寺湖畔のホテルを訪ねた。彼は十年前の同じ季節に今の妻とは別の女とこの湖へやって来た。その旅は山湖の秋色を探るためではなく、許されぬ結婚を嘆いての心中が目的だった。結局は未遂に終わった、その熱烈な情愛の経緯をホロ苦く思い出しながら、ホテルのロビーでコーヒーを啜る林の隣りに座った女は。果たされぬ愛と殺意が名勝で繰り広げる傑作ミステリー。
「除夜の鐘を一緒に撞きませんか」の誘いに大晦日、警察庁直属の捜査官、宮之原昌幸は京都へ出かける。ところが、その鐘が何者かに盗まれてしまう。誰が何のために。深夜、とおくちかく除夜の鐘がひびくなか、寺の住職が殺される。真相を追う宮之原の前に現れる芸妓・染弥。そして、染弥のかつての恋人である有名な画家が死体で発見される。鐘に秘められた過去と連続殺人の謎に宮之原警部の推理が冴える。
小豆相場は天候によって左右される。体を張って気温変化を知ろうとする相場師“森玄”の調査を手伝った木塚慶太は、赤いダイヤ=小豆の魔力から逃れられなくなった。そして“森玄”に対して戦いを挑んできた松崎辰治の卑劣な手段。慶太を巻きこんで、「買い」と「売り」の壮絶な仕手戦がはじまる…。資料を駆使し相場のカラクリを暴く経済小説。