1994年1月発売
ガブリエルのもとにその手紙が届いたのは、聖アン祭の朝のことである。英国国教会の神父として完璧な人生を送る彼に、匿名の差出人は、過去のある事件を材料に聖職を放棄するように迫っていた。苦悩のあげくガブリエルは昔の恋人に助けを求めるが、調査の途上、事態は謎めいた変死事件へと発展した…。皮肉と悲しみ、そして生と死の交錯が感銘を呼ぶ、大型新人のデビュー編。
迷宮から帰ってきた冒険者たちは、束の間の休息をもとめてリルガミンのボルタック酒場に今日もつどう。二百年生きているともいわれている店主のドワーフから語られる武器やアイテムにまつまる冒険の数々。冒険文庫初の短編集。
乳白色の大気におおわれた世界アプロス。そこには精霊石が産み出すアームの力に支えられ、大空を浮遊するいくつもの大陸があった。人々は飛空船や飛空装甲に乗って大地の間を行きかう。そんな世界を舞台に、若き女法術師キースリンと、精霊石を産み出す天の巣で育てられた謎の少女ムタアの物語がはじまる。ログアウトが送り出す新進気鋭の作家、人魚蛟司の記念すべきデビュー作。
保根治(ほねおさむ)・男・三十六歳・高校教師。突然、彼のもとへかかってきた電話の主は、いるはずのない“弟”だった。空を飛び、スプーン曲げを職業とする、自称“弟”。いったい、その目的は…。死後、愛用したワープロのフロッピー・ディスクから発見された長編。
人気大関、横綱昇進を辞退。前代未聞の騒動に困惑する角界をよそに、当の大龍は死んだはずの父の姿を求めて街をさまよっていた。彼の身を案じる幼な馴染の恋人、親友。そして彼らの集団就職を世話した恩師の死体がー。貧困の故に薄汚い欲望の犠牲となって翻弄される彼らの悲劇と、未解決事件の犯人逮捕に異常な執念を燃やす老刑事の姿が交錯する、出色の相撲ミステリー。
臨床医として腕を磨きながら大学院に進んだ高村伸夫は、アイソトープを使った骨移植の動物実験に打ち込み学位論文にいどむ。初めて大きな手術の執刀者に指名された日の興奮と緊張。そして死と常に隣合わせている病院で患者達が示す、ほかでは決して表に出すことのない様々な態度に接し人間への理解を深めるとともに、看護婦・土屋和子との愛を育む。希望にみちた日々を描く第三作。
助手として医局で順調な歩みを続ける高村伸夫は、他方で、自分が医師として体験し目撃した事柄を小説に書き表したいと思うようになる。そうして診療の合い間に書いた作品が思いがけなく同人雑誌新人賞を受賞し、続いて芥川賞の候補作となる。周囲の驚きの中で、その直後、伸夫は同期や先輩を飛びこえて母校の講師に任じられる。医学か文学か、再び訪れた戸惑いの季節を描く第四作。
マルタの島ゴッツォで暮らす元傭兵クリーシィの平和は、爆弾テロによって破られた。愛する妻子を乗せたパンナム103便が、テロリストによって爆破されたのだ。クリーシィは復讐に立ち上がった。孤児マイケルを引き取り、自分の右腕にするために人間兵器として徹底的に鍛え上げた。一方、動きを察知した犯人側も、クリーシィ包囲網を徐々に狭めつつあったー。迫真のサスペンス。
二億ドルという巨額の保険金の掛かった競走馬が死亡した。保険調査員ブレイニーは死因確認のため牧場を訪れ、女性厩務員から、見慣れぬ人間が馬の首に注射をしていたという話を聞く。直後、彼女は事故で重傷を負い、ブレイニーも何者かに襲われた。一方馬主の富豪ガラティが資金不足だという噂が…。徐々に正体を現わすガラティの隠された過去と陰謀。大スケールの冒険ミステリー。
コヨーテに襲われた少年を助ける犬、戦闘中にやむなく殺された犬、家族に内緒で捨てられてしまった犬…。現代の英米文学を代表する作家たちによる、犬が登場する物語だけを集めた傑作選。ここに登場する犬は、チワワ、グレーハウンド、プードル、チャウチャウ、ゴールデン・レトリーヴァー、ブルテリア、グレートデーンetc.。犬に対する愛着と人間への愛情に満ち満ちたアンソロジー。
再婚した私に、ゴールデン・レトリーヴァーを連れて会いにきてくれた娘。自分の前世がコリー犬だったと信じている男。プードルのビンキーと暮らす101歳のグレタetc.。ジョーン・アップダイク、レイモンド・カーヴァー、アン・ビーティ、T・コラゲッサン・ボイル、マディソン・スマート・ベル、ドナルド・バーセルミなど、同時代の短編小説の名手たちによる、犬と人との物語。
NY市警麻薬取締責任者のジョーは多忙で、妻のメアリーは満たされぬ日々を過している。ふとしたきっかけで息子の野球チームの監督とかりそめの愛を交わすが、その時思わぬ悲劇が起きた。密会の場に見知らぬ男が闖入し、レイプされたのだ。自責の念と屈辱感に苦しむメアリー、裏切った妻への反感と犯人への憎しみに引き裂かれるジョー。敏腕のレイプ専門女性検事が活躍する問題作。
上陸し給え。高温と湿気と秘密をはらんだ熱帯の町…、奴隷航路を遡る。楽園を、自由を、革命を、世界の果てをもとめ逃亡する。パレンケの遺跡でセイロンの夜明けを想い、インド洋の照り返しに目を細め、タンジェのイタリア料理店でミラネーザを注文し、シァブ・マミを聞き、シァブ・ハリを聞く。気鋭の作家が誘う幻想と官能の冒険物語。
慶長八年六月のころ、相州厚木から江戸へ向かう街道を二人連れの浪人者が歩いていた。二十三、四歳に見えるほうが宮本武蔵であり、十七、八歳に見えるほうがその弟子の向坂陣太郎であった。二人は荏原郡世田ガ谷本宿で木賃宿に泊まったが、陣太郎は人相の悪い男から女を買わぬかと誘われた。大切な父の形身の刀を女の代わりに、鳶沢甚内という悪い奴に騙し取られた陣太郎を、甚内とその仲間が取り囲んだ。牡丹屋敷のお姫さま由香里がそんな陣太郎を救ってくれた。当時、江戸は家康が首府と決したため大変貌を遂げていた。道三河岸銭瓶橋の風呂屋に現れた坊主頭の豪傑は、ひょっと斎利太と名乗る前田慶次郎であった。豪傑連がまき起こす波瀾に満ちた物語。
豪傑坊主前田慶次郎は捕えられる前に、鳶沢甚内が悪い奴とは知らず、向坂陣太郎と奈美の二人を預けてしまった。その時、慶次郎は二枚の絵図面を陣太郎に持たせてやった。牡丹屋敷のお姫さま、勝気な由香里は相変わらず、父の仇として家康の首を狙っていた。天正十八年十一月中旬、江戸入り以来、家康が待ちに待っていた鷹狩りが催されることとなり、家康の警備陣はさらにいっそう厳しいものになった。この間隙をぬって宿所の寺院へ忍び込んだのは、由香里と車善七郎に向坂陣太郎であった。台所から突然発火した大騒ぎにも、家康お気に入りのお槍奉行大久保彦左衛門と金鍔組が活躍して大事には至らなかった。由香里姫の打倒家康の悲願の行く末は…。長編傑作。