1994年2月発売
「ものにならなくてもいい、“あのひと”の弟子になって一度は芸人の世界に身を置いてみたい」-。気弱で目立たない青年が、一念発起、憧れの人たけしに弟子入りする顛末「あのひと」。高二の夏、女の子にもてたい一心で、ひたすら三浦海岸まで自転車を漕ぎ続ける少年の話「やじろべえ」。花火の音に喚起された少年の日の思い出「黒貌」など、小説家たけしが直木賞をねらった短編五編。
てめえがなんでやくざになって、二十年以上も足を洗わねえのか。時々、俺は考えてみるよ。どこか、やくざになりきれねえ。はぐれ者みてえなとこがあるのさ(「水の格子」)。獲物を狙う男の目線は、いつも猛々しい。しかし、所詮は棒っきれのようにしか生きられないやくざ者。やくざ者にしかわからない哀しみってものもある…。北方ハードボイルドの新境地を開く連作短編集。
映画監督コンスタンチンは25年ぶりにハリウッドを去り祖国ドイツの依頼で、ナチ占領下のフランスにいる。長年の夢「パルムの僧院」を映画にするため、愛すべき妻ワンダと若者ロマーノをまじえスタッフと共に南仏プロヴァンスで撮影に熱中していた。楽天家の彼に、忘れていた遠い昔の両親と自殺した姉の過去が去来する…。コンスタンチンと妻とロマーノの「愛と自由」への道を描く長編。
誰も私を愛してはいなかった…。みんな私を弄んでいただけ…。男はみんな同じ…。だけどもう一度だけチャンスをあげる…。それでも反省してないんだったら、私が息の根を止めてあげる…この白い刃であなたの頚動脈を愛撫してあげるわ…。マンハッタンを駆け抜ける狂おしい執念。刑事マックスは夫婦の不和にもめげず殺人鬼を追う。倒錯と官能のサイコ・サスペンス
「わたし」アーニーは成功した宝石商だが、外見には全く自身がない。ある日、唯一の親友レッゾが演劇学校をやめ、女友達のビリーを連れて、彼の家へ転がり込んできた。異様な集中力で戯曲を書きまくるレッゾ、甲斐甲斐しくその世話を焼くビリー、そして美男美女の二人をまぶしく眺めるアーニーの、奇妙な共同生活が始まったー。真実の愛の形を探ろうとする著者の、待望久しい第二作。
墜落事故の刹那に私は私でなくなったー。TVリポーターのエイブリーは辛くも現場から救出されるが、顔に重傷を負ったために、死亡した上院議員候補夫人と取り違えられてしまう。集中治療室で「夫を殺す」と囁かれた彼女は弁明の機会も与えられぬまま、夫人そっくりの顔へと形成手術を施される。記者魂を刺激された彼女は、真相を究明するまで夫人になりすまそうと決意した…。
幕末回天の大仕事、大老井伊直弼の斬撃を企図する水戸浪士たちの活躍は続く。前編に引き続いて、水戸浪人関鉄之介とその無二の心友浪人尾形新之丞の活躍はさらに興趣に満ちて展開していく。城昌幸が遺した幕末伝奇巨編『一剣立春ー桜田門外ノ変遺聞』後編。角屋嘉平の囲い者になっているいのの駕篭から岡っ引き留吉を追い払っていのを救ったのはいのの兄の天竺浪人、つるつる坊主の二本差しの男であった。その嘉平は黒川左京から十万両の御用金を命じられたが、それを断ったために左京から斬って捨てられた。京へ向かった七尾を怪しげな六部連が取り囲んだ…。七尾が落とした踏絵の裏面に書かれた「ゲースト・ウオルク・テンペル(霊魂と雲と社)」の謎とは…。
1906年の夏、17歳の美しい少女マリエットがニューヨーク州の修道院に入ってくる。厳しい禁欲生活が始まるが、彼女は神への献身ぶりで際立つ存在となる。そしてある日彼女の体に聖痕が現われる。院内は大騒ぎとなり、賛嘆と嫉妬と疑惑が渦を巻く。知的な面白さと官能性を備えた感動的な小説。
源義経最期の時、炎の持仏堂に魔風のごとき七匹の天狗が舞い降りた。それから四百余年、天下太平の徳川治世に、いま、大乱の予感。兇・禍・怨・恨・謀・邪・悪・乱-、八片の魔鏡が集う超伝奇ロマン。平成版八犬伝。
失業中の俳優に、仕事の選り好みは許されない。というわけで、食品会社の会社案内ヴィデオに出演する話がきたとき、パリスは一も二もなく飛びついた。役柄は倉庫で働くフォークリフトの運転手。芸術とはほど遠い仕事だが、演技することに変わりはないし、実入りもまあまあ。いうことなしに思えたが…。フォークリフトの運転-、これが意外と難物だった。しかも、昼休みで目を離した隙に、そのフォークリフトが暴走して、女子社員の命を奪ってしまったのだ。エンジンが掛かりっぱなしのところへ、何かの拍子でギアが入ったためだという。だが、パリスは撮影現場を離れるとき、たしかにエンジンを切った。もしかして、これは殺人では?俄然興味をひかれたパリスは、素人探偵を気取って、死んだ女子社員にまつわる噂を集めはじめた。社内の勢力争いと複雑な人間関係に隠された真相にパリスが挑む、ユーモアと皮肉たっぷりの英国ミステリ。
街に核爆弾が落ちた朝。男やもめのクリフォードは一念発起、恋人マーシャの家を訪れた。家出中の子供たちを連れ戻し、彼女と共に新しい家庭を築くことが彼の夢なのだ。だがなぜかマーシャの母親はこの結婚に猛反対。おまけに子供たちは怪しげなドラッグの作用で宇宙の彼方に飛ばされているらしい…。深刻化する核戦争もなんのその、あくまで家庭問題にこだわるクリフォードの奮闘を描くSFスラップスティック・コメディ。
24世紀アメリカ。生物兵器で文明が壊滅したのちも、人間工学研究所では文明の残滓をもちいて倫理を超えた生体実験が行なわれていた。ここで育ったウェンディは実験対象とされた結果、電極を介して人の心に潜入し、精神を擬体験する能力をもっていた。その能力に目をつけ武器として利用しようとする権力の魔手をのがれ、ウェンディは逃亡の旅に出る。行く手に待ち受ける数奇な運命も知らずに…。テクノゴシックの話題作。
ザルク宮廷でイノスと再会を果たしたのもつかのま、ラップは、皇帝アザクに捕らえられて投獄されてしまった。いっぽうアザクは、イノスを妃に迎えたものの、前皇妃ラシャの呪いのせいで花嫁には指一本触れられぬありさま。そこでアザクは、魔道師四人衆に呪いを解いてもらおうと、イノスを連れてインプ王国の王都フブに赴くことにした。イノスは幽閉されているラップの身を案じながらも、アザクと共にフブに向かうが…。