1994年6月発売
このままでは日本に未来はない。オレは救世主アルマジロ王を何としても探し出すー流れ弾に当たって死んだ親友はそう書き残した。何処へ行ってもよそ者でしかなく、砂漠のような都市を永遠にさまようみなし子=堕天使たち。そんな彼らの孤独を癒し、守ってくれる幻の救済者アルマジロ王を追い求めて、ぼくは世界の果てまで巡礼の旅に出た…。愛と性と思想と放浪の物語7篇収録。
横断歩道に落ちていたミョウガ、消えたカミソリの刃、失われた指先、かんぬきを掛ける男。何でもない日常の事物にふと目をとめると、そこから世界は変容し始める。そんな違和感を描いた表題作「あるべき場所」。友人がタイから持ち帰ったいわくつきのナイフ。それを手にした者は誰を殺すのか。人間の心理に潜む恐怖をえぐる「飢えたナイフ」など、奇妙な味わいの5編を収めた短編集。
臆病な娼婦ベラ。可憐な女ベラ。男たちに蔑まれ、弄ばれ、怯えながら生きてきたベラ。ある朝を境にベラは生まれ変わった。華麗で、セクシーで、凶暴な女にー。女性の部屋を終日覗き、性的ないやがらせの電話を掛けつづける男、マゾヒスティックな性行為を強要する多汗症の太った大学教師、女性患者の体をつけ狙う高慢な歯科医師…。ベラは彼らに評決を下す。まったく無表情に。
弱冠22歳でグランド・ナショナルを制し、美しい婚約者にも恵まれたジョージ・ブレイン。それはまさに人生の絶頂だった。14年後、彼は酒と女と八百長に溺れ、当時の面影はすっかり失われていた。そんなブレインの前に忽然と現れた駿馬ヴァンテージ。騎手の本能が騒ぎ、再び誇りと自信、勝利への執念がよみがえってくるのを感じた時…。英国競馬界を描くシリーズ第一作。
1976年、ニューヨークで三人の日本人商社マンが殺され、冷凍死体が極秘裡に日本へ空輸されてきた。ロッキード事件を追っていたフリー記者の西村勝彦は、その情報を掴み取材を始めるうち、上海コネクションという組織の存在を知る。戦中から戦後にかけて、日本の政財界を裏から動かす上海人脈とは何か。恐るべき力を持つ地下帝国の実態を追う。
〈物語/歴史〉から逃れるために怪奇と幻想に満ちた作品を書きつづけ、音楽家・画家・法律家としても多彩に活動したホフマンの波乱の生涯。激動と興奮の時代背景の中にその全体像を活写。
井伏鱒二の色紙にある“捷平は愿人(げんじん)なり”のように、つつしみ深く、含羞のある、飄々たるユーモアに遊ぶ精神。掘り返された土に陽があたる田園や、父母や妻子の風景を、いわば“魂の故郷”を、都市の文明に決して汚されぬ眼で、こよなく暖かく描き続けた、作家・木山捷平の自由なる詩心。正に“人生を短篇で読む”絶好の初・中期珠玉の飄々短篇集。
山河に囲まれた地方の高校に通う女子高生、布施直見。平凡すぎるはずの少女の日常は、妖しの美青年不見知の一言により変貌した-「世界はあなたのものだからだ」。世界の崩壊とともに、六億五千万年にわたる二つの勢力の激闘が再開される。玉を持ち集まる「八犬士」とは何者なのか。そして少女直見の真の姿とは。
日本の軍用機共通の欠陥であった防弾無視の思想を転換し、一式陸攻を防弾タンクにした月山は、南太平洋で活躍した。しかし、しょせん改造は改造に過ぎない。米軍がさらなる新兵器をもって現われた時、改造機のもろさが露呈してしまう。昭和一八年、新鋭高速陸爆「銀河」が登場し、月山と共に戦う。そして、来るべき最後の決戦に備えて井上成美長官がうった作戦は、新鋭機「連山」の投入と、米本土爆撃機「富岳」の開発であった。はたして国防の根本である、攻めず、攻められずを可能にしてゆく井上長官の最終的太平洋防衛戦略がどのように展開するのか。中野次郎大尉たちの第一航空艦隊の熾烈な戦いが今はじまろうとしている。
「歴史」という大絵巻の中で、ひときわ鮮やかに輝く飛鳥時代。その飛鳥で、愛する者を守るために闘い、ついには自ら皇位を継ぐに至った一人の女性の生涯を描くー飛鳥のドラマがいまに蘇る本格歴史小説。
世界最高の医療水準を誇るボストンのホワイト記念病院で、奇妙な急患が出た。医学的所見から明らかに死亡と診断されたホームレスの女性。解剖されたその胸部から、おびただしい血とともにあらわれたのは、まだ拍動している心臓だった。患者は死んではいなかったのだ。誤診を犯した担当医の同僚エリックは、自分の診断した患者の中にも同様の男がいたのに気づく。しかもその男の“遺体”が、忽然と消えた。行方不明の兄を探す女性ローラとともに謎の解明に乗り出すエリックの前に、病院内にうごめく秘密結社〈ヘルメスの杖〉の恐るべき計画が浮かび上がってくる-。現役の医師が描く、迫真の医学サスペンス。
大黒不動産の宣伝課長の水橋は自他ともに認める漁色家である。今日も元スチュワーデスでイベント会社を経営している吉野朱実とラブホテルのベッドで彼女の秘部を指で弄んでいた。朱実が元同僚の沼田玖美の巨根願望を彼のイチモツで叶えて欲しいと相談してきたからである。それもプッシーではなくアナルへだという。複雑な事情を察して水橋はOKした…。
ペリー艦隊来航時、主席通詞としての重責を果たしながら、思いもかけぬ罪に問われて入牢すること四年余。その後、日本初の本格的な英和辞書「英和対訳袖珍辞書」を編纂した堀達之助。歴史の大転換期を生きた彼の劇的な生涯を通して、激動する時代の日本と日本人の姿を克明に描き尽くした雄編。
激動のうちに20世紀も暮れようとするなか、フランスの大富豪ピエール・ベナック男爵は私財を投じて国際科学オリンピックを開催した。アルプス山中のリゾートタウンは一躍、全世界のすぐれた頭脳を集めた科学の祭典の場となる。しかし、ある朝聖火台の炎に焼かれている科学者の死体が発見されるにおよんで、この世紀の大イベントは恐怖と迷信と死の交錯するおどろおどろしい悪夢に変貌するのだった。つぎつぎに起こる殺人事件。その残虐な手口と満月の夜に限られた犯行から、狼男への恐怖がつのっていく。そんななかで、アメリカから天才的素人探偵が事件解決に赴く。『ホッグ連続殺人』いらい、ひさびさのベイネデイッティ教授の登場である。
故郷アルトモア山から遠く離れ、非情なテロリストとして生きるジョン・ジョー。健気に留守を守るテロリストの妻。北アイルランドに潜入した若き諜報部員ブレン。彼を教育する“師”パーカー。弱さゆえ、密告者として敵に絡め取られた男…。さまざまな人生をはらんで、IRAと英国情報機関の戦いは今日も続く。IRA暫定派の活動拠点アルトモア山では、テロ活動の失敗が相次ぎ、密告者=売国奴がいるのではとの疑いが浮上する。この地では売国奴は死を意味する。山をあげての売国奴狩り。パーカーとブレンに操られた密告者は、発覚の薄氷を踏みながら、ジョン・ジョーを故郷に呼び戻す策を弄する。英国情報機関対テロリストの対決が迫る。