1994年7月発売
かつて人類が植民し、のちに忘れさられた世界、サパ星系ー3431年、その衛星コニアーズからテラナーの子孫が、核戦争の悲劇をのりこえ、大宇宙をめざしていた。フラマン・パンタローネ船長率いる四段式宇宙船《ヴァンガード》が打ち上げられたのだ。だが、目的地である惑星フィルマーでは、独裁帝国ダブリファがサパ侵略計画を着々と進めていた。ようやく宇宙への第一歩を踏みだしたサパ人たちに帝国の魔手が迫る…。
パリ、ワルシャワ、ジュネーヴ。ヨーロッパの国際都市を舞台に、三つの色が奏でる三つの愛の物語ー愛する夫と娘を車の事故で失ったジュリーは、すべてがブルーな色合いの中で自己を回復できるのか。雪のように白い肌のドミニクは、ポーランド人の夫の愛がもの足りず離婚裁判に持ち込むが…。優しい赤がよく似合うモデルのヴァランティーヌは、盗聴マニアの元判事に魅かれてゆく…ユニークな構成で贈る連作小説集。
夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々-江神部長や有栖川有栖らの一行を、予想だにしない事態が待ち構えていた。矢吹山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、一瞬にして陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われでもしたように出没する殺人鬼。その魔の手にかかり、ひとり、またひとりとキャンプ仲間が殺されていく…。いったい犯人は誰なのか。そして、現場に遺されたyの意味するものは何。
辺見圭一郎は、中堅モデルクラブの社長。彼は面接と称して、必ずモデル志望の女の娘の肉体を試食することにしている。OLからの転職を希望する22歳の由香利もそんな一人だった。その夜さっそく、由香利の味見を実行した辺見だが、あどけない表情とは裏はらにベッドでの彼女は、なめらかな肌のうねりや、男を貪るようにヒクつく淫蕩な内奥の蠢きで彼を翻弄して…。
三十三年余の短い一生に、珠玉の光を放つ典雅な作品を残した中島敦(1909-42)。近代精神の屈折が祖父伝来の儒家に育ったその漢学の血脈のうちに昇華された表題作をはじめ、『西遊記』に材を取って自我の問題を掘り下げた「悟浄出世」「悟浄歎異」、また南洋への夢を紡いだ「環礁」など、彼の真面目を伝える作品11篇を収めた。
所はのどかなハーフォードシア。ベネット家には五人の娘がいる。その近所に、独身の資産家ビングリーが引越してきた。-牧師館の一隅で家事の合間に少しずつ書きためられたオースティン(1775-1817)の作品は、探偵小説にも匹敵する論理的構成と複雑微妙な心理の精確な描出によって、平凡な家庭の居間を人間喜劇の劇場に変える。
オースティンにとっては「田舎の三、四軒の家族こそが小説の恰好の題材」なのだという。ベネット一家を中心とする恋のやりとりを描いたこの作品においても、作者が最も愛したといわれる主人公エリザベスを始めとして、普通の人々ひとりひとりの個性が鮮やかに浮かび上がる。若さと陽気さと真剣さにあふれた、家庭小説の傑作。
最初で最後となったビートルズ来日の年、横浜の山の手に全寮制の新設校が現れた。期待と不安を交錯させながらも入学にのぞむ第一期生。どこか幼さを漂わせる彼らの中にも、少数ではあるが、ロックという異分化に強烈な共感を覚える連中がいた-鋭敏な感性と自由な精神を闊達に描いた、新鋭がおくる青春長編。