1994年7月発売
有能な教師にして模範的市民のコンラッドの運命は、あの夜から大きく狂いはじめた。ほんの気晴らしにヒッチハイクの娘を拾ったのがいけなかった。別れた直後に娘が何者かに殺され、殺人の容疑をかけられてしまったのだ。しかも醜聞を恐れて警察についた小さな嘘から、コンラッドは予想もしなかった窮地へと追いつめられていくー緻密かつ巧妙なプロットで描く、英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞の傑作サスペンス。
エリツィンに代わりタカ派の大統領が就任したロシアは、ドニェストル地域の独立をめぐってモルドヴァとの対立が深まり、それに関連してウクライナとも緊張状態が続いていた。そして1995年初頭、領空侵犯したロシアの爆撃機隊をウクライナの戦闘機隊が撃墜する事態が発生した。ロシアは核ミサイルを発射し、ウクライナの軍事施設を破壊した。壊滅的な打撃を受けたウクライナは、臨時政府をトルコに移し、ロシアに対して宣戦布告をする。アメリカの対応は微妙だった。むやみに軍事介入し、ロシアとの核戦争を誘発してはならない。しかも大統領は、兵力削減を推進していた。かくて、数隻のフリゲートと、予備役の一個RF-111G偵察機部隊がトルコに派遣されるが湾岸戦争でいわくつきの極秘任務に携わった経歴をもつメイス中佐、アメリカ初の女性戦闘機パイロットのファーネス少佐らが、ウクライナ空軍の若き英雄トゥイチーナ大佐と共に、不利な状況下で戦闘を繰りひろげる。そして、ロシアの強硬な姿勢に、アメリカ大統領が最後に下した決断とは…。リアルな筆致で描く衝撃のシミュレーション小説。
チューリヒの名門ホテルのイギリス人ナイト・マネジャーであるジョナサン・パインは、雪の夜、忘れることのできない過去と遭遇した。貿易商リチャード・ローパー。その夜ホテルを訪れた彼こそ、ジョナサンが愛した女ソフィーを、自らの手で死に導いてしまう元凶となった男だった。おりしも、イギリスの情報部から独立した新しいエージェンシーを任されたレナード・バーは、ローパーを仕留めるべく網を張っていた。世界中に武器を売りさばいて巨利をむさぼる死の商人であるローパーを、同じイギリス人として許せなかったからだ。ジョナサンの存在を知ったバーは、ローパーの違法取り引きの証拠を握るために彼をリクルートしようとする。愛国心から、そしてソフィーへの贖罪の気持ちから、ジョナサンは危険な任務を引き受け、経歴を偽ってローパーに接近していく。軍需産業に骨ぬきにされた英米政府の思惑と妨害のなかで孤軍奮闘するバーの新エージェンシー、そしてただひとり死の商人の懐深く潜入していくジョナサン。冷戦後の真の敵を見据え、エンターテインメントの醍醐味を堪能させる最新作。
グラマンF6F72機がトラック島東北東から迫りつつあった。海戦の主役が空母から航空機に移った昭和十九年、日本海軍創設以来、最も長い悪夢が始まった-横山信義『我、奇襲に成功せり』。慶応四年、新政府に江戸城を明け渡した徳川幕府の陸軍部隊が、武器を携って消えた。激戦の宇都宮攻防戦を描く-大山格『アッカラケ』。最強のファイター・パイロット三名が太平洋上でベイルアウトする事故が発生。その瞬間、異常な体験に襲われたイーグル・ファイターの極限風景は。-佐藤大輔『晴れた日はイーグルにのって』。書下し競作ヒストリカル戦記。
修道院で育った天涯孤独の美少女・山崎紫苑は、完璧な殺人マシーン。神の名の下に組織に純粋培養され、政府の要人らを始末する日日を過ごしていた。そんなある日、完全防備のはずのマンションの部屋に何者かが侵入し、殺されかける。さらに好意を寄せていた管理人も、実は紫苑を狙う暗殺者であった。いったいなぜ。不安と絶望のさなか、偶然出会ったフリーのカメラマン・伊東から、初めて現実世界を知らされる。伊藤を愛するようになり、自我が芽生えた紫苑は、次第に組織と自分との存在に疑いを…。
「李修龍。君は本日をもって、粉嶺辺区警察に転属になった」狂龍というあだ名をもつ男は拳を握りしめた。たった今まで彼は皇家香港警察の湾仔総部重案組(特捜隊)を率いる幇弁(警部)だった。最精鋭のO記で組織犯罪と三合会(正統派黒社会)を専門に捜査するのが任務だった。そりぁ、軌道をはずした強引な捜査をしなかったとはいわないさ。にしても九広鉄路が通う国境の街へ、なぜ左遷されなきぁならんのだ。若い散仔を相手にケチな事件を追うと考えると、意外にも。痛快無比。笑殺ハードボイルドの新浪潮傑作。
一九六六年、第二次大戦の戦後処理特殊部隊として結成された“ロジャーズ・ラフネックス”のメンバーの一人、藤巻誠二も四十三歳をむかえようとしていた。東西冷戦、ベトナム戦争という世界情勢を背景に未曽有の高度経済成長を遂げようとしていた日本で三児の父となり、そろそろ退役かといった彼の元へ飛びこんできたのは、かつての戦友、ロジャー・ボングの絶体絶命の危機の報せであった。誠二はロジャーの愛娘・ジェニファーとともに彼が捕らわれているカシミールへとむかうが…。刮目の軍事冒険アクション第三弾。
偶然出会った男・松岡弘樹と淫蕩な日々を送るOLのみゆき。優しい舌戯と愛撫に満たされ、みゆきは官能の世界に溺れていく。弘樹に金の無心をされ、全財産を貢ぎ込んだ挙げ句、サラ金に手を出してまで弘樹をつなぎ止めようとするが、遂にSMクラブに売られてしまう。特異な性戯を調教され、新たな肉欲に目覚めるみゆき。その時、弘樹は密かに悪計を練っていた。
先輩の代理で前衛華道のパーティに出席した村尾栄進は、岡庭理恵子と名乗る女と知り合う。会場を出て二人きりになった時、村尾は理恵子から、自分は不感症で、感じさせてくれる男を探している、と打ち明けられる。不安と期待が交錯するなか、村尾は理恵子をラブホテルにいざない、理恵子の願いを叶えようと白い女体に挑むが…『薔薇の滴り』。ほか六篇を収録。
社交界にデビューしたばかりのヴァレリアに、フランス人公爵との縁談がもちあがった。ヴァレリアはかれのシャトーを訪れることになり、兄のアントニーとともに南フランスへ向かう。ところが、アントニーは妹を強引に説きふせ見合いの前に、評判のカンカン見物をしようとピアリッツに立ち寄った。変装をして出かけたダンスホールで、ヴァレリアはレイモン・サヴァンと名のる伯爵に出会う。