1994年7月発売
サファイアの青のイメージで彩られた、西欧とオリエントの幻想的なからみ合いを描く表題作の他に、ユルスナールの実父の新婚旅行に想を得た「初夜」、イタリアを舞台に、地中海世界の呪縛からの解放をテーマにした「呪文」の三編を収録。初期の未発表短編を詩人の清新な翻訳でおくる。
OL三年目にして会社を辞めた麻子は、旅先で美しく有能な女性・ヨーコに出会う。同い年でありながら仕事も結婚もスマートにこなすヨーコは、麻子の自慢の親友に。ところが、そのヨーコが妻子ある男との不倫に溺れはじめた。しかも相手は口先だけの男。次々と繰りだされる嘘にこりもせず一喜一憂し、次第にボロボロになっていく…。“愛さえあれば他に何もいらない”彼女の涙を前に、麻子はうんざりしながら思う-一体それは愛なのだろうか?
1799年、イギリス。ヘザー・シモンズは17歳になったばかりだというのにすでに両親はなく、冷酷な伯母のもとで辛く希望のない日々を送っていた。そんな折、伯母の弟ウィリアムがやってくる。アイリシュの血をひいた美しいヘザーをみるなり、好色な彼は甘言を重ねてロンドンに連れ出した。罠と気づいたヘザーに襲いかかるウィリアム…もみ合ううちに胸にナイフが突き刺さる。「私は人を殺してしまった。」背後から呼びかける追手の声にすべてを諦めた彼女だったが…。
1968年秋、東京・京都・函館・名古屋にまたがる連続射殺事件は「広域重要108号」と指定された。犯人は19歳の無口な少年。逮捕後、彼は20余年の法廷闘争を展開して「永山則夫」としての生を生きることになる。厖大な公判記録を読破して再構築した著者畢生のノンフィクション・ノベル。
水平社結成から2年、秀昭や和一は全国に広がった運動の中心となって奔走している。小森の人々の意識も、根底から変わりつつあった。刈入れ前の稲を差押えようとする地主に対抗し、孝二ら青年たちは夜の稲刈りを決行する。一方、運動に対する理不尽な弾圧は強まっていく。皇太子狙撃事件の顛末を息をつめて見守る、孝二たちの憤りと憂いは尽きない。20年ぶりに書下ろされた待望の続編。
家康の正室・築山殿と嫡男・信康はなぜ殺されたのか。歴史の闇に隠されていた家康の出自とハトリ一族とは…。服部半蔵を首魁とするハトリの陰謀に敢然と立ち向かう信康の遺児・静耀之介。結城秀康、真田昌幸、本阿弥光悦ら京の町衆を巻き込んで繰り展げられる天下を賭けた決死の攻防。
一地方の政財界を牛耳る闇将軍黒川蓮雲斎の姦策に嵌められ素肌のかぎりを曝す令夫人九条紀子。「なぶるに理想的な資格」と黒川から揶揄される官能的な肉体を、全身ロープにくびられながら前後の恥穴を貫かれる狂乱の日々は…。
旅の夜に妖しく迫って消えた蔭のある女のかぐわしい香りが、巨大な白鯉のひそむ沼から流れる…みいられた名人釣り侍の危機(妖鯉)/嵐に死んだはずの謎の女毛鉤師が愛児を連れて…甦る炎の夜(女毛鉤師の恋)/元禄の女は哀し…ある愛の道…(浪人竿師)/生気まさに消えなんとするとき…(釣道無心)/武家の二、三男に生きる場を与えない幕府。川釣りの技と道具づくりに活路を-。華の釣り文化を拓いた「はみだし侍とその時代」を描く入魂の釣り時代小説。
王子なくしては幸せを手に入れることができなかったおとぎ話のヒロインが、現代、あまたの困難に直面しながら、自らの生き方を模索しはじめた。古典的おとぎ話における「ヒロイン」の条件とは。また、それらを下敷きにして創作する作家たちの意図と、描かれ直されたヒロイン像を追うことで、女にとって「自立」とは何かを問う。
反核活動家エリザベスは破壊工作中に事故にまきこまれ、50年まえの世界にタイムスリップしてしまった。行きついた先は1943年のアメリカ。そこではマンハッタン・プロジェクトが着々と進められ、いままさに世界初の核兵器が開発されようとしていた。なんとか開発を阻止しようとするエリザベスの行為が思わぬ結果を招き、やがてナチスの手に核兵器が握られることに…期待の共作コンビによるサスペンスあふれる傑作SF。
アメリカ大統領を誘拐せよ。アメリカによる空爆に激怒したリビアの指導者カダフィ大佐は、報復のため大胆な命令を下した。その実行者として白羽の矢を立てたのは、ジー・ハーディ。元アメリカ海兵隊の名パイロットで、今は密輸機を飛ばす彼は、戦争体験と息子の死によってアメリカ政府に深い憎しみを抱いていた。だが、大統領誘拐は超難事。はたして頭脳明晰な彼が考え出した天才的な作戦とは。面白さ満点の航空冒険。
誘拐作戦の一端をになうシリア人パイロットがアメリカに入国したことで、FBIとモサドが動き出した。FBIのウェアターとシリア人の顔を知るモサドのメルニックは〈ダラス〉という言葉を手がかりにパイロットの足どりを追う。しかし大統領専用機を狙うハーディの目論見までは知るよしもなかった。亡命キューバ人や日本人狙撃者を動員したハーディの大規模な作戦は、大統領がカリフォルニアを訪れたとき、ついに動き出す。
ウィーンの英国大使館に勤務する情報部員ピムが、忽然と姿を消した。父リックの死を告げる電話を受けた直後の出来事だった。事態を憂慮した情報部は、ただちにチームを派遣、ピム宅でチェコ製の写真複写機を発見する。そのころピムは英国の田舎町にある隠れ家で、これまでの半生を憑かれたように書きしるしていた。彼のペンは一人のスパイの驚くべき人物像を描きだしていく…。自伝的色彩も濃厚な巨匠の集大成的傑作。
ピムは希代の詐欺師だった父のもとで、幼いころから二重生活を送り、しだいにスパイの適性を身につけていった。やがて情報部員となった彼は、大戦後のオーストリアでかつて心ならずも裏切った友に出会う。今は東側の謀報員となっていたその男の提供する情報によって、ピムは情報界の寵児となる。だが、それは彼をからめとろうとする巧妙な罠の一部だった。戦後英文学の最高作と評され、スパイ小説の枠を越えた畢生の大作。