1994年7月発売
ラグビーのチームメイト・宏樹を狂おしく想い続ける隆之、18歳。20歳の年上のカメラマン・北崎との関係に傷つく都、18歳。それぞれの悩みを共有しながら、ピュアな生を疾走する、みずみずしく切ない青春小説。
個性尊重の全人教育を唱え、昭和の初めに創立された玉川学園。園内に住む少年の眼がとらえた開戦前夜から終戦までの日々。都市部から離れているため、どこかのどかなところのある学園にも-戦闘機の空中戦、陸軍の装甲車の駐屯、農家への買出しや疎開-戦争は次第に、そして確実に忍びよってくる。幼き戦争体験を軽やかに描く傑作長篇。
駿河湾沖海戦で、アメリカ艦隊を撃破した藤原ら日本の自衛軍だが、双方の被害は甚大であった。さらにアメリカ側の巧みな情報操作で日本国内の世論は、自衛隊に対する非難も強まっていた。そうした四面楚歌の中で、藤原たちはアメリカ側の反撃を確信しつつ、新鋭戦闘機ランをスクランブル待機させていた。やがてアメリカは、状況打波のために、遂に核ミサイルを使うという噂が流れ出した。日米間は最悪の状況を迎え始める-。
サファイアの青のイメージで彩られた、西欧とオリエントの幻想的なからみ合いを描く表題作の他に、ユルスナールの実父の新婚旅行に想を得た「初夜」、イタリアを舞台に、地中海世界の呪縛からの解放をテーマにした「呪文」の三編を収録。初期の未発表短編を詩人の清新な翻訳でおくる。
OL三年目にして会社を辞めた麻子は、旅先で美しく有能な女性・ヨーコに出会う。同い年でありながら仕事も結婚もスマートにこなすヨーコは、麻子の自慢の親友に。ところが、そのヨーコが妻子ある男との不倫に溺れはじめた。しかも相手は口先だけの男。次々と繰りだされる嘘にこりもせず一喜一憂し、次第にボロボロになっていく…。“愛さえあれば他に何もいらない”彼女の涙を前に、麻子はうんざりしながら思う-一体それは愛なのだろうか?
1799年、イギリス。ヘザー・シモンズは17歳になったばかりだというのにすでに両親はなく、冷酷な伯母のもとで辛く希望のない日々を送っていた。そんな折、伯母の弟ウィリアムがやってくる。アイリシュの血をひいた美しいヘザーをみるなり、好色な彼は甘言を重ねてロンドンに連れ出した。罠と気づいたヘザーに襲いかかるウィリアム…もみ合ううちに胸にナイフが突き刺さる。「私は人を殺してしまった。」背後から呼びかける追手の声にすべてを諦めた彼女だったが…。
1968年秋、東京・京都・函館・名古屋にまたがる連続射殺事件は「広域重要108号」と指定された。犯人は19歳の無口な少年。逮捕後、彼は20余年の法廷闘争を展開して「永山則夫」としての生を生きることになる。厖大な公判記録を読破して再構築した著者畢生のノンフィクション・ノベル。
水平社結成から2年、秀昭や和一は全国に広がった運動の中心となって奔走している。小森の人々の意識も、根底から変わりつつあった。刈入れ前の稲を差押えようとする地主に対抗し、孝二ら青年たちは夜の稲刈りを決行する。一方、運動に対する理不尽な弾圧は強まっていく。皇太子狙撃事件の顛末を息をつめて見守る、孝二たちの憤りと憂いは尽きない。20年ぶりに書下ろされた待望の続編。
家康の正室・築山殿と嫡男・信康はなぜ殺されたのか。歴史の闇に隠されていた家康の出自とハトリ一族とは…。服部半蔵を首魁とするハトリの陰謀に敢然と立ち向かう信康の遺児・静耀之介。結城秀康、真田昌幸、本阿弥光悦ら京の町衆を巻き込んで繰り展げられる天下を賭けた決死の攻防。
一地方の政財界を牛耳る闇将軍黒川蓮雲斎の姦策に嵌められ素肌のかぎりを曝す令夫人九条紀子。「なぶるに理想的な資格」と黒川から揶揄される官能的な肉体を、全身ロープにくびられながら前後の恥穴を貫かれる狂乱の日々は…。
旅の夜に妖しく迫って消えた蔭のある女のかぐわしい香りが、巨大な白鯉のひそむ沼から流れる…みいられた名人釣り侍の危機(妖鯉)/嵐に死んだはずの謎の女毛鉤師が愛児を連れて…甦る炎の夜(女毛鉤師の恋)/元禄の女は哀し…ある愛の道…(浪人竿師)/生気まさに消えなんとするとき…(釣道無心)/武家の二、三男に生きる場を与えない幕府。川釣りの技と道具づくりに活路を-。華の釣り文化を拓いた「はみだし侍とその時代」を描く入魂の釣り時代小説。
王子なくしては幸せを手に入れることができなかったおとぎ話のヒロインが、現代、あまたの困難に直面しながら、自らの生き方を模索しはじめた。古典的おとぎ話における「ヒロイン」の条件とは。また、それらを下敷きにして創作する作家たちの意図と、描かれ直されたヒロイン像を追うことで、女にとって「自立」とは何かを問う。