1994年発売
黒人の少女クローディアが語る、ある友だちの悲劇-。マリゴールドの花が咲かなかった秋、クローディアの友だち、青い目にあこがれていたピコーラはみごもった。妊娠させたのはピコーラの父親。そこに至るまでの黒人社会の男たちと女たち、大人たちと子供たちの物語を、野性的な魅惑にみちた筆で描く。白人のさだめた価値観を問い直した、記念すべきデビュー作。
野心家の須藤恭介と、純朴そのものの津村良太は幼馴染みである。二十二歳で上京した良太はバーの経営者・山脇に傾倒し、一方の恭介は極道と接触し、傍若無人の渡世を送っていた。運命のいたずらか、恭介の会社が推す地上げ工作が山脇の許に及び、抵抗する山脇は暴力団による放火の犠牲となってしまう。正義感の強い良太は暴力団の一人を刺殺し服役することになる。その間、持ち前の運とずる賢さで着実に青年実業家としてのしあがっていく恭介は、金儲けに執着するあまり、次第に精神が蝕まれ、人間性を失っていく…。
賭博場に似た熱気とともに歯切れよい英語が飛びかってオークションが進行している。「次は…」黒漆に金で鳥獣、唐草、花雲を散らした鞘と把頭・鐺には碧瑠璃や緑瑠璃が嵌まった刀剣だった。おそらく隋唐の皇帝の佩刀であろう。激しい競りのあと、遂にそれを手にしたのは若き香港富王ビンセント・青だった。小切手を切りロールスロイスに乗ると、ビクトリアピークの斜面を滑昇してゆく。「あのときは、まだこれも輝いて…」古剣の感触を確かめるビンセントの意識は、千四百年の歴史を遡りはじめた。戦乱の隋唐に翔く傑作。
唐は玄宗皇帝の治世。開元の治とうたわれた名君も政に倦み、楊貴妃にうつつをぬかす始末。悪宰相・李林甫の死因に毒殺説が流れ、警備にあたっていた方術士・葉法善に嫌疑がかかった。汚名をすすいでほしいともちかけられたのは詩仙・李白だ。宮廷を追われ、江南を旅していた詩人は再び長安の土を踏み、調査に乗りだす。厳重な護衛下にあった宰相を誰がどうやって殺害したのか。折しも安禄山の乱が王朝を震撼させる。殺人事件の背後に、唐を滅亡へと導く大陰謀が隠されているとは。酒豪詩人・李白の名推理。
主人公は矢島敏之、36歳。職業、刑事。監察医、向井玲子との結婚を間近に控え、同僚・石神と厄介な連続殺人事件の捜査に乗り出していた。悲劇は、激しく雨の降る夜、ペニスを鋭利な刃物で切断された全裸の男の死体が発見されたところから始まる。監察医・玲子の検死の結果、先月の被害者と同じ殺害方法と判明。いずれの被害者からも直腸から精液が検出され、犯人はB型血液の男と断定された。これらを手掛かりに、矢島と石神は捜査を開始する-。
PKO軍団がタイム・スリップした幕末の世は、断末魔の獣のように、不気味にのたうっていた。争乱の世を、晋作が駆ける、龍馬が吠える。PKO軍団は、あの恐るべき餓狼の集団・新選組と遭遇。沖田総司が伊達軍団長に挑み、土方歳三ら隊士はPKO軍団に襲いかかる。やがて-血気に逸る新選組は、池田屋において、尊皇討幕の志士たちを惨殺した。その悲報は、長州藩を激昂させた。復讐の念に燃え、諸隊は続々と京を目指し、包囲して突入の機を窺う。PKO軍団もその近くに野営、一触即発の危機が迫る。歴史の荒波に翻弄されるPKO軍団、彼らは何処へ。筆者渾身の傑作第二弾。
一八七四年。両親を亡くしたピュティアは、伯母アイリーンのもとに身を寄せていた。その頃、侵略の危機にさらされていたバルカンの小国バルターニャでは、救国の策としてイギリス女王の縁者を王妃に迎えることが画策されていた。白羽の矢がたてられたのは、女王の血をひくアイリーンの娘、エリナだった。だが、エリナには恋人がいた。困りはてたエリナは、ピュティアにとんでもない頼みごとをもちかけてきた…。
著者は知人の家で池の中にかきつばたの狂い咲きを見た。が、見たものはそれだけではなかった。水面には女の死体が浮いていたのだー終戦時の混乱を描いて鬼気迫る「かきつばた」。早稲田の貧乏学生の著者は田舎の兄に送るつもりだった無心状を、あろうことかレポートと取り違えて敬愛する師・吉田絃二郎に提出してしまったーほのぼのと心なごむ青春回想記「無心状」。名品全15編。
海の下の、奥の奥で眠っている神の夢。大地をうごめき、すべてを食い尽くす不快なブガン。アステカの怪しげな薬草に酔って義経がみる昔日の幻。満月の夜にとらえた人魚を食べてしまった男たちのゆくえー。天地の創造、人類の誕生など語りつがれてきた物語が、いま奇抜な着想で生れかわる。あなたを空想の小宇宙へ誘う、幻想的で奇妙な味わいの52編のワンダーランド。
幕府直轄、長崎貿易会所の多額の赤字は薩摩の手による抜け荷が原因なのか。香取神刀流の達人、神楽八郎太、兵馬は公儀隠密として長崎に潜入した。薩摩の不審な帆船を追って山陰、北陸、松前と探査は進む。執拗に襲いかかる謎の暗殺剣。やがて、薩摩の陰に潜む強大な策謀を掴むのだが。幕末の日本海を舞台に伝奇、冒険、推理と小説の醍醐味をふんだんに盛り込んだ時代小説の決定版。
「教祖来る。神と出会う集会開催」手渡された一枚のチラシ。そして、目前で実演される感動的な奇跡。うぶな和夫は、インチキを信じ教団職員となるが、そこに宗教はなかった。初代教祖が亡くなると、実権を握る総務主管・司馬は、二代目教祖に和夫を抜擢した。彼は教祖の聖性を否定し、自らの力で完璧な唯一神を創造しようとしていた。「現代の教祖」が、神への試練に挑んだ長編小説。
日露戦争のさなか、欧州にあって背後から帝政ロシアを崩壊させるべく暗躍した日本人がいた。陸軍大佐明石元二郎は、フィンランドの独立を夢見る革命家コンニ・シリアクスと共に策動してロシア革命の火付け役となった。諜報活動に於いて常に後れをとってきた日本では希有の、大物スパイの実像に迫る。歴史を動かした男たちが、全欧州を舞台に繰り広げるスリルに満ちた情報工作記。
英国情報機関内にどうやら「もぐら=二重スパイ」がいるらしい。情報工作本部長サミュエル・ベルは、自らの部下の内偵という屈辱的作業を強いられ、組織内での孤独感を深めてゆく。窮余の一策としてベルは部下の信頼度を試す「秘密指令」を作成。指令の遂行過程に組み込んだ巧妙なプログラムは、見事スパイを突き止めたかに思えたが…。連作短編に挑んだフリーマントルの異色作。
失明によって鋭敏になった独特の聴覚を頼りに、誘拐された姪を救出した元音響技師ハーレック。事件から一年が経ち、平穏な生活を取戻しつつあった彼の元に、衝撃的なニュースが入った。服役中の誘拐犯スタークが脱獄したのだ。復讐に燃える男は殺人機械と化して、刻一刻と迫ってくる。悲劇は再び繰り返されるのか。斬新なアイディアで好評を博した『音の手がかり』の続編。
シェイクスピアが、原始人が、ローマ兵士が。天国も地獄も定員過剰になり、死人がおれたちの世界にあふれてきた。いま、やつらに実体はないが、そのうちに…。天地開闢以来の死人という死人が戻ってくる恐怖を描くマキャモンの「幽霊世界」。他にキャンベル、グラント等17人の精鋭が悪夢の世界を描きだすモダンホラー・アンソロジー。