1995年5月発売
夫の癌との闘病時に回復した関係がいままたあやふやになっている五十代の夫婦のある種の喪失感を伴った日常を軸に描くそれぞれの惑い。忍び寄る老いを感じつつも、なお恋の妄執にとらわれつづける男や女たち。
江戸幕藩体制の危機管理はいかにしてなされたか。一揆、大火災、反乱、殺人…、数々の危機に、深慮と英断をもって対処した名君、会津藩主保科正之の実像に迫る、直木賞作家の傑作時代小説。
リュウ・アーチャーやフィリップ・マーロウやマイク・ハマーや、とにかく、その種の探偵小説を読んでいると、そこに自分の願望と人生の理想がうっとりするほど投影されているのだった。長い間夢に見てきた日々が、木野塚佐平氏の六十年の人生において、ついに現実のものとなりつつある。…新宿に『木野塚探偵事務所』を開き、電話を引き、秘書の募集広告をした。そして、応募してきた秘書は、華奢な首と、丸いとぼけたような大きい目を持ち、女子高生のアルバイトとみまがう痩せた女の子だった。木野塚氏はこの梅谷桃世と難問にとりくむことになる。
ロゼッタ石に刻されたエジプト文字の研究に打ち込むシャンポリオンを主人公に、解読という行為に憑かれたひとりの人間の運命を描きだす。ボルヘスの短篇を思わせる不思議な筆致によって浮かび上がるのは、書物に埋もれたエジプト学者ではなく、いわば古代エジプト人の最後の生き残りなのである。
容姿端麗、頭脳明晰-とにかくすこぶるつきのいい男。なのに性格は意地悪で皮肉屋で人の三倍くらいヘソ曲がりで…。その名をシャルル・アジャンというこの男、ルポライターとは世を忍ぶ仮の姿。じつはコードネーム〈白虎〉こと某国諜報部員なのである。そして、俺…ハルキ・カゲヤマ、19歳。一介の学生だったのに、なんの因果かこのシャルルの奴に見初められ、情けないことにメロメロにされたあげく部下にさせられちまった…。
世界中から美男美女を吸い寄せ、彼らの人生をメチャメチャにしてしまう華麗な魔界、ハリウッド。そこに君臨するスーパー・スターは、スーパー下衆男だった。過去を捨て、名前を変えて、ハリウッドに出るジョゼフィンを待っていたものは…孤独な中でついに出会ったひと組の男女の運命を、天上の星たちは“吉”と定めるか“凶”と書くか。殺人は事故になるか。宿命の男女を乗せて、豪華客船がいま出帆する。
騒々しかった休戦記念日の晩、ピーター卿はベローナ・クラブを訪れた。戦死した友人を悼む晩餐会に出席するためだったが、なんとクラブの古参会員、フェンティマン将軍が、椅子に坐ったまま死んでいる場に出くわしてしまう。しかもことは、由々しき問題に発展した。故人には縁の切れた妹がいた。資産家となった彼女は、兄が自分より長生きしたならば遺産の大部分を兄に遺し、逆の場合には被後見人の娘に大半を渡すという主旨の遺言を作ったいたのだが、その彼女が、偶然同じ朝に亡くなっていたのである…。謎が転調に転調を繰り返す長編第四弾。
今日は小雪ちゃんとのデートの日だ。ルージュの唇もなまめかしい小雪ちゃんはとっても魅力的で、円くんは思わずホテルのカクテルラウンジに誘ってしまう。そして現われた、魂を奪う絶世の美女“黒衣の貴婦人”とは…。円くんの周囲にはあまりにも奇妙な現象が頻発し、物語はいよいよ佳境に入っていく。大上円を執拗につけ狙う見えない敵対フォース…ますます深まる謎の中で、ホタルとの恋はどこへ行くのか。
青年医師が、治療に、殺人事件の解決に、存分の腕を揮う「ローマ詩人の死」、美貌の助産婦が連続殺人の真相に迫る「アテナイの惨劇」ほか、「ベルリンに消えた女」「ロンドン・霧の底の殺人」を収録する異色作品集。
ウィルミントンの町に秋がきて、僕は11歳になった。映画も野球も好きだけど、一番気になるのはガールフレンドのジルのことなんだ…。アメリカ育ちの大介の日常を鮮やかに綴った代表作「こうばしい日々」。結婚した姉のかつてのボーイフレンドに恋するみのりの、甘く切ない恋物語「綿菓子」。大人が失くした純粋な心を教えてくれる、素敵なボーイズ&ガールズを描く中編二編。
台湾一の名料理人の父親・朱氏と恋に揺れる三姉妹-。敬虔なクリスチャンで奥手な長女・家珍、キャリアウーマンで美しい次女・家倩、お茶目な大学生の三女・家寧-が繰り広げる、美味しくも心温まる恋物語。カンヌ映画祭で大絶賛を浴び、世界を魅了したアン・リー監督の作品を中華料理の達人が小説化。
波瀾万丈の歴史・時代小説楽しさと感動の26編。ダイナミックな人間の営みである歴史のひと齣に、冷徹な作家の眼と鋭利な筆致で迫り、魅力あふれる充実の作品として提供する、他の追従を許さない自信の年度版アンソロジー。