1995年5月発売
女性作家ベネットが愛児を急病で失い、ショックで倒れてから何日過ぎただろう。葬儀の手配などに煩わされずにすんだのは、母モプサがいてくれたおかげだった。だが、心を病むモプサは、ベネットのために他人の子ジェイを誘拐してしまった。罪悪感のかけらもない母への憤り、虐待されてきたらしいジェイへの愛…心の揺れるベネットが選んだ道は…。英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞に輝く、傑作心理サスペンス。
頑固一徹の強引な捜査ぶりがたたって、警察を辞職した元警視ピーター・ダイヤモンド。ロンドンのハロッズ・デパートに警備員として雇われたが、閉店後に鳴った警報ベルが、ふたたび彼を失職させることになった。夜の家具売場で発見された日本人の少女は自閉症らしく、まったく口をきかなかった。少女がもぐりこんでいるのを見逃したためにクビになったダイヤモンドは、誰ひとり身内が名乗り出ない少女の境遇に同情して、親捜しに乗り出す。ところが、ダイヤモンドに少し心を開したかに見えた矢先、少女は母親と名乗る女性によって、預けられていた施設から誘拐されてしまった。怒り狂ったダイヤモンドは、ロンドン巡業中にこの話を聞いて助力を申し出た力士、山形をスポンサーとして、誘拐者を追いニューヨークへ飛ぶ-。
ロンドンのシティで活躍する美貌の外国為替ディーラー、セーラ・ジェンセン。彼女はある日突然、イングランド銀行総裁から呼び出され、インサイダー取引の極秘調査を依頼される。シティ内の不正を内密に処理したいというのだ。疑惑の対象は大手アメリカ系マーチャント・バンク、ICBの外為部門。新しいチーフ・ディーラーが着任して以来、収益が異常に伸びているという。好奇心をかきたてられたセーラは任務を引き受け、外為ディーラーとしてICBに潜入する。だが、じつは、総裁は裏でMI6の麻薬犯罪局局長と密約をかわしていた。彼らの真の目的は、インサイダー取引に関与していると思われるイタリアン・マフィアのトップ、フィエリの尻尾を捕まえることだったのだ。そうとは知らないセーラは、ディーリング・ルームなどに盗聴器を仕掛け真相を探っていくが、疑惑の渦中にいるチーフ・ディーラー、ダンテ・スカルピラートとはからずも恋に落ちてしまう…。元敏腕女性ディーラーが、虚々実々の金融界を背景に描いた、英米で話題沸騰のサスペンス。
水城寛太郎、32歳、巨根。昼はエレベーター専門の電機メーカー「ニュートン」の営業マンだが、夜は母親が経営する渋谷円山町のラブホテルを手伝う。ある日の夕方、社長室の美貌秘書・星峯沙夜香に誘われた寛太郎は、社長室のソファでラブ・プレイ中、檜垣社長にふみこまれた。馘首を覚悟した寛太郎だったが、檜垣から奇妙な特命をうける。会社の関係者で、クリトリスを二つもった女を何としても捜し出し、その女が奪った極秘資料を取り戻せというのだ。沙夜香の協力を得て、俄然、奮気した寛太郎だが…。
一九九X年末、日本の登録外国人が初めて百万人を超えた。その後もさらに増え続け、遂には単純外国人労働者の入国が認められ、東南アジアから百万人を超す労働者が入ってきた。その結果、慢性的な不況にあえいでいた日本では、失業者が増え続け、産業の空洞化がそれに拍車をかけた。日本経済は沈没寸前であった-。アジア旅行社に勤める古賀茂は、台湾経済視察団を取り込んだ必殺の儲け技を思いついた。それがやがては、官僚機構から知識人までをも巻き込む大騒動に発展するとも知らずに…。近未来経済パニック小説。
アンジェロは、大仕事を終えたヴェロッキオ工房の徒弟仲間がはしゃぐ酒場の喧喋を後に、一人帰途につく。-ふと気付くと見覚えのない街並み。彼は異界の闇に紛れこんでいた。異形のものが襲いかかる。一閃のもと、それを倒した剣士は「君の味方だ」と言あ残すが、以来頭に響く声。『思い出せ』…何を、自分が何を知っているというのか。失われた記憶。メディチ家。巫子。異世界へと続く「扉」-開くのは神か、悪魔か。十五世紀イタリアを舞台に、一つの物語が紡ぎ出される。フィオレンツァの、それは天使の物語。
燃えつきようとするわが家を、アリーナは弟のゲリーと共に呆然と見つめていた。召使いの不始末による火災だった。いまや姉弟には、隣のメルドン・ホール以外頼るあてはない。しかし、地主のメルドン侯爵の評判は、かんばしいものではなかった。二人が意を決してメルドン・ホールへ行ってみると、長い間不在のはずだった、メルドン侯爵本人がいた。
本書は、欧米で絶賛を浴びた傑作長篇小説。愛児殺害等の罪で英国市民を震憾させた主人公サイラス・サイラスは超自然的な脱獄をし、後には「自伝」が残されていた。上巻では、インドの賤民としてレイプされた母親から生を受けた幼年期から、バングラデッシュの内戦、フリーセックスを奨励するアメリカのカルト宗教での修行。英国でのフェミニズムの左翼活動と官憲による弾圧までが語られる。愛と悽惨な離別、さすらいと、神秘体験と、性の記録。唯一者への信仰と、東洋的なアニミズムのせめぎ合う坩堝のような哲学、痛烈な社会批判、卓越したブラック・ユーモアとストーリー・テリングが重層的に読む者を眩惑する。