1995年発売
たわしのような頭髪と顎髭、くたびれた衣鉢。下手な俳句を読みつつ旅する雲海。獅子父路で弁当を分けて貰った大学生・加賀の危機を救ったことから、謎の轢き逃げ事件と背後の策謀の解明へと乗り出す。行く手を阻むのは、柔剣道からテコンドーまで格闘技の猛者が集まる寄居道場。生臭坊主だが、少林拳の達人の雲水探偵と青年たちの爽快な活躍を描く武道冒険小説。
吉永直美。学生時代に四年連続日本空手チャンピオンの栄冠に輝いたバリバリの体育会系単細胞である。三流大学出身にもかかわらず、強運にも超一流企業のアジア電気に入社したばかりか、入社三年目にして突然、花形と呼ばれる少数精鋭の頭脳集団・宣伝部に配属された。香港の世界的キーボード奏者のウイリアム・ボーのコンサートを東京、大阪、神戸、福岡、そして香港の五カ所で開催するという大きな仕事を担当させられた矢先、公演直前にボーとマネージャーのコーが失踪し…。背後に渦巻く利権と謀略の嵐とは。
18歳のロザモンド・ヴィヴィアンはイギリスの小さな島で、愛情のない祖父と二人きりの孤独な生活を送っていた。ある日、祖父のもとを大金持ちのフィリップ・テンペストが訪れる。ロザモンドは自分の倍近い年の、どこか陰のあるテンペストと恋に落ち、二人は結婚してフランスへと旅立つ。しかしやがてロザモンドは、その結婚が罠であり、テンペストの恐るべき秘密に気づき始める-。
第二次世界大戦のさなか、アーサー王と王妃グィネヴィア、円卓の騎士ラーンスロットらが疾駆し、ナチがパリを占領してヒトラーがナポレオンの墓を訪れ、エズラ・パウンドがローマから反ユダヤの宣伝放送する。アメリカ小説の鬼才が遺した、史実と英雄騎士伝説を超えた物語、待望の翻訳。
ロズ・ハワードはアメリカの英文学新進女性助教授。かねてからイギリスの詩人で造園家としても名を馳せたレディ・ビオラに憧れていた。ビオラの死後発見された手紙と日記の整理編集を依頼され、天にも昇る気分でイギリスに渡ったのだが…。
横田一真は、恋多く女だった母親譲りの美貌ゆえに、周囲の男を惑わせてしまう。本人は、それを望みなどしないのに。会社を追われた一真の前に、同じ母親を持つ、しかしそれぞれ父親の違う弟達が現れ、一真は彼等と関係してしまう。それを知った彼等の父親達までが訪ねてきて…。鎖に繋がれ、四人の男の愛を受ける生活。-山藍紫姫子が描き出す愛欲の多角関係。短編『ワンダフルナイト』も併録。
黄巣の乱直後、滅亡の足音がする洛陽で活躍する泥棒、項郎と相棒。偶然に項郎と出会ってから、平凡な少女楊明珠は、共に秘宝の在処を捜すことになった。手掛りは、曹操の息子曹植と、兄の妻洛妃との許されぬ恋を秘めた「洛神の賦」のみ。自称白楽天の玄孫、白睦蓮、翠蓮姉妹、悪徳官僚・李衡佶と彼と組む大商人・陶恭、項郎たちを追う恵武らが入り乱れる。秘宝は一体誰の手に…。謎の核心は、洛神の賦。稀代の大泥棒、盗跖公項郎が狙う次なる獲物は、魏の「洛妃の宝珠」。時を超え、唐末の洛陽に蘇る悲恋…。波瀾万丈冒険時代活劇の復権。
烈しければ烈しいほど、その愛は、人を裏切り、自らを傷つけてしまう。-30歳になる絵本作家の静香を姉のように慕う挑発的な瞳の17歳の美少女、蛍。単身赴任で八ケ岳にやってきた40歳の男を二人はそれぞれのやり方で愛しはじめた。蛍の不可解な言動に当惑する静香。蛍との一切を沈黙する男。やがて蛍は一冊の日記を残して失踪する。錯綜する愛情とその切なさを紡ぎだす恋愛長編。
夢の中の幻の息子、旧約聖書の預言者の謎めいた言葉、死んだ旧友が繰り返していたという奇妙な仕草…うつろう折節の事どもの内に、密やかに重なりあう生と死の諸相。生涯をよろぼう人々の心に、常に在る「楽天」。老いや死への思いと共生するように暮らす作家・柿原の、そぞろに揺らめく想念を軸に、私小説的な手法を用いた自在な筆致で人間の精神を深奥へと掘り進む長編小説。
私の髪を憮でる、その指で、その腕で、彼女のことを抱くのですかー出会った日から22歳の今日まで、ミヤコは彼だけをみつめ続けてきた。そんなある日、偶然ひき合わせた親友が、一瞬にしてふたりの歳月を飛び越えて…。きっと、だれの心の底にも沈んでいる、冷たい恋の化石を胸に、何も言えず、ただみつめるだけのせつない愛。ひそやかな片想いのゆくえを描くラヴ・ストーリー。
叔父に連れられて入った森の奥には“何か”が潜んでいた。風の匂い、魚の影、樹の枝の音、獣の気配…。でも僕らが感じていた何かは、焚火を消した時に凄いスケールで空に姿をあらわした。表題作「星の降る森で」を始め、死の瞬間から大きさ、形、重さを刻々と変える熊の最期を写し取った「星屑のような命」など、森羅万象の底に流れる“静謐な激しさ”を見事に伝える9つの短編小説。
息子一家宅に居候中のおばあちゃんは、嫁に嫌味半分聞かされた、姥捨野とやらに想いを致しては、その奇妙な響きを反芻してみる。デンデラ野、デンデラ野、と…。老人問題、妻の蒸発、家庭内暴力といった、現代人の日常に忍び込む、ごく今日的な出来事に材をとりながら、生きてあることの不可解さ、哀しさ、滑稽さ、そして黒々と深い一瞬の闇を、鮮烈かつ軽妙な筆致で捉えた傑作3篇。
ボンの政府機関で働くエルケは有能な秘書で、38歳の独身。私生活での話し相手はペットの犬だけ、という孤独な彼女に、ある日ひとりの男が近づいてきた。KGBのセックス・スパイであるオットーは、ジャーナリストと身分を偽っていた。彼の任務はエルケを籠絡し、ドイツのあらゆる機密情報を手に入れることなのだ。オットーは巧みにエルケに近づき、その心を捉えたのだったが…。