1996年4月発売
聡明で強い呪術の能力を持ちながら、出世の野心なく、貧しい人々の住む陋巷に住み続けた顔回。孔子の最愛の弟子である彼は師に迫る様々な魑魅魍魎や政敵と戦うサイコ・ソルジャーだった…息づまる呪術の暗闘、政敵陽虎との闘争、影で孔子を護る巫儒の一族。論語に語られた逸話や人物を操りつつ、大胆な発想で謎に包まれた孔子の生涯を描く壮大な歴史長編、第一部。
時は寛永八年、徳川家光の時代である。対朝鮮外交を一手に握る対馬藩の家老、柳川調興が突然、所領の返還を申し出た。調興の訴えは幕府を揺るがす一大スキャンダルに発展していく。朝鮮王と徳川将軍の間で交わされた国書が対馬藩の中で偽造されたり改竄されたりしていたというのは本当か。そして調興の真意は一体何なのか。…史実を基に大胆な発想で描く時代法延ミステリー。
鬼怒川沿いの大きな宿場町、阿久津。行き交う多くの人々で賑わいを見せているが、何かと事件も多い。川船の仕事一切、宿場の管理も請け負う河岸問屋を舞台に、日々の出来事の中から拾い上げられたホロリとさせられるような人情話が花を咲かせる。若い船頭・喜作と薄幸の娘・ユリとの悲恋を語る「鬼怒の船唄」、その喜作が子持ちの後家と山雀師の縁を結ぶ「鬼怒で鳴く鳥」等連作9話。
死の床にある父に古びた十字架を示され、これをジュネーブに亡命中の元ソ連反体制指導者、ウォルコフ教授に渡してほしい、と遺言されたルーシー。ロシア革命時に破壊されたと思われていたその十字架は、ウクライナ人にとっては指導者の証であるという。ジュネーブへ飛びウォルコフに会ったルーシーには、思いがけない運命が待ち受けていた…。ソ連邦崩壊を背景に描くサスペンス。
スター女優のキャット・ディレーニーは、心臓移植手術を受け、成功。だが彼女は華やかな世界には戻らず、地方局で恵まれない子供に養子縁組の道を開く番組を始めた。恋人もできて、順風満帆に見えた新生活だったが、彼女と同じ日に移植手術を受けた者たちは次々に不慮の事故で死亡していった…。全米ベストセラー作家が『私でない私』に次いで世に問う、濃密なラブ・サスペンス。
東亜総合病院産婦人科部長の飾摩秀樹と研修医の綿引淳一。好色な二人は診察に訪れる美女たちを舌なめずりして待ち構えていた。罠に嵌まった代議士の秘書、瑞々しい女子高生、肉感的な美人女優たちは、まるで蟻地獄へ落ちた虫のように身悶えるが、醜い男たちに診察台に固定され、晒された下半身を巧みな指づかいや舌によって弄ばれると、とろけるような感覚に堪えきれず歓喜の声をあげてしまう。
八百屋の娘・お貞と宮司の妹・お民は仲のよい幼友だち。ふたりはともに器量よしを見染められ、本郷の加賀藩上屋敷へ奉公にあがる。お民は子供の頃から加賀百万石の側室になるという夢を持ち、厳しい作法の仕込みに耐え、着々と側室への段階をのぼりつめていく。一方、お貞は偶然出会った若侍とのままならぬ恋に身を焦がす。加賀藩のお家騒動で揺れ動くなか、ふたりの娘も数奇な運命にもてあそばれていく。
本書はミラーの伝記的研究、あるいは作品の分析にとどまらず、ミラーの伝記映画についての批評、そしてカリフォルニアで開催されたヘンリー・ミラー生誕百年祭の記録などを補足することにより、論文の形式だけではとらえきれない作家ヘンリー・ミラーの解明を試みている。
白い夏椿が咲きこぼれる大塚の家で、高梨圭介は、夏江恭司郎の訪れを恐れ、あきらめ待つ日々を送っていた。帝大の二年生である圭介は、三十一歳の銀行家恭司郎に全てを奪われ、拘束され、-息もできぬほど愛されていたのである。
切れ長アーモンドアイが愛らしい幹泰は、一回り年下の従兄弟の高校生、森生依人しか見えない。依人が好きで好きで、大好きでたまらないのだ。でも、傍若無人なまでに魅力的でノーテンキな依人は、この恋愛に対してイマイチ真剣味に欠けて-。
人を生かす、組織を動かす。日本人の忘れもの。明治維新という回天の大事業を支えたものは何か。-「義」であり「金」であった。幕末長州藩をリストラし、維新を成功に導く基を築いた男、感動の長編。村田清風は、長州藩の藩校明倫館の秀才として藩主側近に取立てられたが、彼の直言は老職には受け入れられず、不遇の時を過ごすことが多かった。しかし難題で起用されると必ず解決して実力を蓄え、遂に就任早々の若い藩主に、一代家老として改革の旗頭に任ぜられ、蛮勇をふるい、艱苦をのり越えて改革に成功する-バブル後の再建に懊悩する日本人必読の本である。
目の前で剽軽な笑顔を見せる木下藤吉郎に、半兵衛は次題に心ひかれていく自分を感じていた。「この男と、もう一度戦場に立ってみるのも悪くはない。あるいは戦火の絶えた世の中が実現できるやもしれぬ」。-名利を求めず、ただ天賦の軍略の才を縦横に駆使して秀吉を勝利に導いた男、竹中半兵衛。名誉よりも人生に美学を求め、三十半ばで夭折した名軍師の生涯を描く長編歴史小説。
デュラスが、自らの創造力のなかからつくりあげた「白骨の西洋」-海と空にひらけた、砂と風の町、S・タラ。「海」であり「死」であるこの町を舞台に、「旅人」や妊娠した狂女といった名前のない登場人物が繰り広げる物語は、デュラス文学の極北であると同時に、『ロル・V・シュタインの喪心』『副領事』と同じ背景をもち、その世界の核となるものである。
凍てつくような冬の夜、数千年の重みを背負わされた架空の町シュタットを舞台に、四人の登場人物が直面する、死刑執行という極限のドラマ…。デュラスが寓意と象徴の技法を駆使して、六八年五月革命の衝撃を、離散の民の自立性を保ったまま普遍的な存在にたどりつけるのか、というユダヤ人の悲劇的な問いかけに重ね合わせるように描き出した問題作。