1996年6月発売
平安時代後期、建礼門院に仕えた右京大夫。栄華を極める平家の若き貴公子・資盛を愛し、年上の芸術家・隆信に愛され、絵巻のように華やかな日々を過ごした彼女には、悲歎と怨嗟の後半生が待っていた…。源平の合戦という歴史の波に翻弄された生涯を哀しくも鮮やかに描いた、女流文学の珠玉。
少年時代に眼にした法師蝉の羽化の情景。僅か十日ばかりの残された時間を過ごすために幼虫の固い殻を脱ぐとき、蝉は体内のすべてが透けて見える儚げな姿をしていた。人もまた、逝く時が近づくと淡く透きとおった様子になってゆくものなのだろうかー。平穏な日々に忍び込む微かな死のイメージを捉えた表題作ほか、人生の秋を迎えた男たちの心象を静謐な筆致で描く短編9編を収録。
南洋の島国ナビダード民主共和国。日本とのパイプを背景に大統領に上りつめ、政敵もないマシアス・ギリはすべてを掌中に収めたかにみえた。日本からの慰霊団47人を乗せたバスが忽然と消えるまでは…。善良な島民たちの間でとびかう噂、おしゃべりな亡霊、妖しい高級娼館、巫女の霊力。それらを超える大きな何かが大統領を呑み込む。豊かな物語空間を紡ぎだす傑作長編。谷崎潤一郎賞受賞作。
私の衝動的なプロポーズに対して、長い沈黙の後とかげはこう言った。「秘密があるの」-。幼い頃遭遇したある事件がもとで、長い間目の見えなかったことのあるとかげ。そのとかげにどうしようもなく惹かれてゆく私。心に刻まれた痛みを抱えながら生きてきたカップルの再生の物語「とかげ」。運命的な出会いと別れの中に、ゆるやかな癒しの時間が流れる6編のショート・ストーリー。
レコード会社の制作ディレクターの僕には、時々幻聴が聞こえる。不規則な生活を十年も続けているのが原因だろう。好きな音楽の仕事だが、ストレスはある。恋人ともうまくいかない。そんな時、音に宿る神を探し求める男に出会ったー。世界のシステムがアナログからデジタルに変わった現在、本当に人の心に響く音とは。孤独を抱え癒しを求める青年を繊細に描いた表題作他一編。
入水自殺を図った若い女性は、記憶を失っていた。恋人だった青年は遠洋マグロ漁船の上にいる。二人の間に一体何があったのかー。運命をあらかじめ知っている人間はいない。しかし、はっきりとした確率があるとしたら。偶発的に誕生した遺伝子が特別の意味を持った時、恋人達はある宿命を背負い、日常の裂け目には一つの危うい人間関係が生じた。気鋭の作家が描く新しいミステリー。
バブルで破壊される前の麻布、白金周辺をよく知る人々が慈しんで語る“変な話”。夜桜見物に乗り込んだ水上バスで、髷を結った侍姿の男に話しかけられ不思議な目に逢う「花見の人」、廃業した銭湯に一人残って暮らす三助あがりの元経営者が、昔語りを聞かせる「タイル絵」等、古き良き時代の東京を垣間見させつつ、読者を違和感なくお伽話の世界へ誘い込む、現代の“奇譚”7篇を収録。
女子大生ローリーは教授殺しで逮捕された。凶器からは彼女の指紋が検出されたが、彼女には何の記憶もない。幼い時、誘拐され、虐待され、深く傷ついた彼女の心は、あまりに辛い現実を生き延びるために多重人格を形成していた。犯人は教授に夢中な彼女の別人格なのか。法は彼女を裁くことができるか。そしていまだに彼女に執拗な愛を抱く誘拐犯人の魔手…心理サスペンスの逸品。
天才的ヘリ・パイロットのプロスは、旧知の美人諜報員に連れだされた夜の湖畔で、英国が極秘に開発した最新最強の戦闘ヘリ“ハマーヘッド”に試乗しようとしていた。が、突如ミサイル攻撃に遭い、テスト・フライトは地獄の実戦飛行と化す。いったい誰が、何の目的で。ヘリの機密はいつ洩れたのか。だがそれは、国際的な規模でくリ広げられる策謀の、ほんの序幕にすぎなかった…。
霧がすべてを覆う街・ゲシ。巨大企業“ダムラグ”が研究開発中のバイオロイドが何者かに奪われた。その捜索にあたった特務室員・空偽はパートナーのリセルと出会い、“犬”である自分に向けられるその真摯な想いに戸惑うが…。野梨原花南が放つ本格派HARD・ロマンス、全編書き下ろしでBBN初登場。
アリデベルチ・ローマ、両親を殺され、財産を横取りされた薄幸の少女は失意の中でローマを去る。四年後、復讐心を胸に、街に戻った彼女を待っていたのは予想もしていなかった事態だった。“王女”なるが故の過酷な運命。パリで、ニューヨークで、サンフランシスコで、美貌が巻き起こす魔法の出来事。意外な展開の連続に、九百ページがあっという間に過ぎて行く。
アリデベルチ・ローマ、両親を殺され、財産を横取りされた薄幸の少女は失意の中でローマを去る。四年後、復讐心を胸に、街に戻った彼女を待っていたのは予想もしていなかった事態だった。“王女”なるが故の過酷な運命。パリで、ニューヨークで、サンフランシスコで、美貌が巻き起こす魔法の出来事。意外な展開の連続に、九百ページがあっという間に過ぎて行く。
高松を20時36分に出発した寝台特急『瀬戸』は一路、東京を目指した。偶然に個室の向かいあう席に坐った高校時代の同級生の若い男と女。その女が死体となって発見されたとき、列車は、走る“鋼鉄の柩”と化した。女蕩しの民間調査員鏑木一行が、美人の不審死体からバイオレンスな手法で隠れた犯人を割り出す。
元法務大臣・榎木雪夫の孫が誘拐された。1億円の身代金奪取のため犯人が仕掛けた巧妙狡猾なトリック。もうひとつの悪辣怜悧な陰謀。雪夫の義父で“昭和最後の怪物”と呼ばれる政界の重鎮・大河原善造一族の封印された過去が翳を落とすなか、事態は元秘書・平岡道義の業火の記憶と交錯していく。
官兵衛が荒木村重のいる有岡城に入ったまま出てこない、と聞いた信長は、裏切られたと思い、直ちに「官兵衛の子、松寿丸を殺せ」と秀吉に命令した。しかし官兵衛を信じる秀吉は竹中半兵衛と謀り、秘密裡に松寿丸をかくまうのだったー。秀吉の信任厚く、天下統一に向かって縦横無尽の活躍をした黒田官兵衛。敵将からもその人徳を称えられた名軍師の生涯を描く。
女が我に返った時には、自分の右手に青銅の花瓶をしっかりと握っていた。床には頭から鮮血を流して倒れている男の姿があった。-翌朝、殺人事件の第一報が入り、ただちに警視庁捜査一課は現場に急行した。死体は大型デスクの上に置かれ、殺害場所から動かされていた。奇妙な殺人現場。そして被害者は家具販売会社の専務、戸井村吉継、次期社長の有力候補だった。流しの犯行か怨恨か。捜査は難航し、更に次の殺人事件が。八木沢警部補の「謎を解く鍵は伊豆修善寺に」の推理は果して…。
二十一世紀初頭、多様化、凶悪化する犯罪を未然に防ぐため、日本政府は探偵を国家公務員、即ち「国立探偵」として採用する制度を確立。江戸川乱子は、この難関を突破した現役女子高生にして最年少の国立探偵であるー。全国に展開する多摩総合学園の専属となって二件目の事件は、まだバンカラの気風が残る盛岡の男子校。ひとりの転校生によって学生同士が二派に分かれて対立しているという。一乗寺理事長の強い希望で、乱子は詰襟の学生服に身を包み、男として乗り込むことに…。
チェサピーク湾は「新世界」の揺籃。この地に生きる6家族の400年の営みを描いたミッチナーの長編歴史小説(全4巻)。ある日突然、平和に暮らすインディアンの地に白人入植者があらわれた。「旧世界」の食いつめ者、あばずれたちと、信仰のために故郷を棄て、永住の地を新大陸に求めて大西洋を渡ってきた人たちである。希望と絶望が交錯する「新世界」の黎明。