1996年発売
灼熱の太陽に喘ぐパリが漸く黄昏れた頃、不意にカケルを見舞った兇弾ーその銃声に封印を解かれたかの如くヨハネ黙示録の四騎士が彷徨い始める。聖書の言葉どおりに見立てられた屍がひとつ、またひとつと、中世カタリ派の聖地に築かれていく。ラルース家事件の桎梏を束の間忘れさせてくれた友人が渦中に翻弄され、案じるナディア。謎めく名探偵矢吹駆の言動に隠された意図は。
流浪の騎士・タウラッドに敗北したガーゼィの聖戦士クリスの姿は、メトメウス族の者たちを失望させてしまった。やはり予備校生が、救国の騎士として戦うことに無理があったのか。しばらくはこの世界から出られそうにないと覚悟したクリスは、この時代の戦術を学ぶことからはじめようとするのだが…。好評のシリーズ第3弾。
核燃料に関する取材で鳥取県を訪れた浅見光彦は、小泉八雲がかつて「地獄」と形容した宿で美人異父姉妹と出会った。ふたりに好意を寄せられた浅見は、切実な相談を持ちかけられる。それは、妹の父親が突然の死を遂げた真相を究明することだった。録音テープに残された“カイダンの道”という謎の言葉を手がかりに、浅見は調査を開始するが、今度は姉の父親が何者かに殺害された。ふたつの死に秘められた忌わしき過去。浅見はやがて、三十年前に起きた核開発闘争に事件解決の糸口を見出すのだがー。旧き良き日本の風土を叙情溢れる文体で描き、原発という現代の社会問題に鋭くメスを入れた長編文芸ミステリー。
クレア・マロイはよく事件に巻きこまれ、警察もいやがるほど見事に解決してしまう書店の店主。今度も娘のキャロンとともに亡夫の故郷ルイジアナへ、マロイ家の女当主である姑の八十歳の誕生祝いに赴くが、遺言書の発表を前に車椅子ごと沼にはまって当主は死んでしまう。警察は事故死とみるが、クレアは遺言書にからまる殺人事件だとして乗り出した。
「昭和」をひたむきに生きぬいた女の半生を、村と河の移りかわりとともに描く、名作『四万十川』の作者による、感動の大作。満州分村移民の隠された悲劇、その傷痕をのりこえて希望へ歩み出す女たち男たちの戦後。
『フィネガンズ・ウェイク』から『ユリシーズ』へ、全十八章の新訳抜粋(原文対訳)と豊富なダブリンの写真で構成するジョイス-ダブリン-ユリシリーズをヴィジュアルに読み解く本。
定職にもつかず、母親や祖母と、もたれ合うようにふらふら暮らしていた僕が、ニナとの結婚を期にデパートに就職した。しかし、その生活は相変わらず怠惰で、いいかげんで、宣伝部に籍を置いてはいるものの、上司に頼まれたスパイ行為が唯一の仕事といった毎日だった。そこに、社長交替の話が…新社長は出世街道をつき進んで来たやり手の大物。その彼に思いがけず抜擢されて、僕の生活は一変した。独身で謎めいた新社長ベルトラン、彼につき従う二人の部下。その仲間に入ることになった喜び、うって変わった宣伝部の活気、僕はただ、酔っていた。すべての時間は社長ベルトランのためにあった。社長が生活の中心となったのだ。彼のペースにすっかり巻き込まれた僕は、ニナも家族も、友人も…何もかもを失うという悲劇が待ち受けていることを、まだ知らなかった。ルノードー賞受賞作。
サム・レイナー、二十八歳。海軍航空基地所属の一等兵曹。妻への虐待を繰り返し、離婚訴訟のただ中にあるこの男は、十万ドルを越える金を貯めこんでいた。金の行方を探ってほしいというのが依頼の内容だったが、ある夜、そのレイナーが何者かに射殺されてしまう。疑われたのは妻。調査に乗りだしたわたしの目に、壊れた家族の肖像が見えてくる。自然体の探偵ジェリ、待望第三弾。
ある日、ぽっかりと、男の部屋に窓が開いた。その矩形にくりぬかれた風景に誘われて、男の心は自由に駆けめぐる。(「風景」)。時代の流れがあたりの景色を一変させるなか、黙々と仕立屋を営み、泉のように静かな日々を紡ぎ続ける男の密やかな想い(「化粧」)。ほかに「満月」「供物」「祝詞」の3篇をあわせ、市井の人々の哀歓を語って、独自の美的境位と、読む快楽を追求する連作集。すばる文学賞作家の新境地を拓く最新作。
田村正和主演・大人気ドラマのノベライズがついに文庫化。事件が起こると忽然と姿を現わし、犯人を逮捕すると忽然と消えてしまう、バカ丁寧だが捕らえどころのない変わった男ー警部補・古畑任三郎が大活躍。今回、古畑に挑戦するのは精神科医の笹山アリ、歌舞伎役者の中村右近、ミステリー作家の幡随院大、ピアニストの井口薫、超能力少年の黒田聖の五人。それぞれクセのある殺人事件だが、首尾よく古畑をだませるのか。それとも…。
うだつの上がらない弁護士のヘンリーは、ある日、日頃から憎々しく思っている醜い妻を毒殺する決心をした。ところが、妻を狙ったはずが見当はずれの人間ばかりが次々と死んで、のどかな郊外住宅地は一転、上を下への大騒ぎに…。あの『ウィンブルドンの毒殺魔』事件から数年後、ヘンリーは相変わらず妻に頭が上がらず、一人娘との関係もぎくしゃくしている。今年こそはいい年にしようと年頭の誓いをたてるが、雇ったばかりの掃除婦をめぐって騒動が持ち上がり新年早々なにやら前途多難な予感。果たして、山であやうく遭難しかけたり、漫画雑誌の通信講座に加入したために死ぬほどの恐怖を経験したり、老女連続殺人に巻き込まれたりと、さまざまなトラブルが…。妻殺しに失敗し、戦々恐々とする中年男の身辺で起きる一年間の出来事を、ブラック・ユーモアたっぷりにつづった小粋な連作短篇集。
人類は友好的異星人ムルディニと協力して艦艇を送り出し、共通の敵「ハイヴ」の母星探索を続けていた。優れた超能力者ダミアの子どもたちは幼いころからムルディニ人に親しんで育ち、「ハイヴ」探索の貴重な戦力となっていく。ある日、長男ティアンが乗った艦艇が「ハイヴ」の廃船を発見するが…。両親から受け継いだ超能力を生かしつつ、それぞれの個性を開花させていく子どもたちの活躍を描く、人気シリーズ第三弾。
ぼくはロリン・ホウバート、人呼んでヘリクツ屋。ある日突然うさんくさい爺さんに拉致され、やけに三原色が目につく変てこな異世界に連れてこられた。ここでぼくは、まさに怪物に喰われんとしている姫君をヘリクツを駆使して救出したんだが、そのせいで勇者だと勘違いされ、次々に難儀な目にあうことになってしまった…大御所ディ・キャンプの幻の名作とベテラン作家ドレイクのコミカルな短篇を併録した、必笑の一冊。