1997年2月発売
呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たちーふたりの友人、姉ーを核に、ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。第四十四回日本推理作家協会賞を受賞し、覆面作家だった著者が素顔を公開するきっかけとなった第二作品集。
ヤクザのダミー会社との巨額の取引を警察が内偵との情報に、おびえ浮き足だつ銀行会長。この不祥事を契機に一挙に会長一派の追放を仕掛ける頭取派。会長の懐刀で、銀行の暗部を担当し実力をつけた“高卒”専務を通して、不良債権という「ババ」が抉り出す、銀行首脳の抗争を描く、衝撃的な長編経済小説。
愛する妻のキャルは法医学者、死体の解剖が仕事ときた!解剖が何より苦手なプラトーも、可愛い妻のためならばと、落ちこぼれ学生たちに解剖学の個人指導をするはめに。ところが、実習用に献体された遺体は、なんと殺されていたのだ!かくして二人は殺人事件に首をつっこむことに!?抱腹医学ミステリー。
時は2220年。植民衛星ローターの天文学者ユージニアは、太陽からわずか2光年のところに未知の恒星を発見した。おりしも地球からの独立を望んでいたローターの指導者ピットは、秘密裡に太陽系脱出を計画。独自に開発したハイパー・アシスト駆動を利用して、衛星の住民ごと新世界へ旅立った。だが、人類の新たな故郷になるはずのこの星ーネメシスは、やがて太陽系におそるべき打撃をもたらすことになる災厄の星だった。
平穏な軌道を描いていると思われたネメシスは、実は太陽に向かって直進しつづけていた!太陽系に達するのは5000年後だが、人類の避難はすぐにも始めねばならない。だがローターの独立に拘泥するピットは、この事実を地球に報告することを拒否。対立するユージニアとその娘をネメシス系の衛星エリスロに追放してしまう。しかし、そこには新たな驚異が…巨匠アシモフが未来史の設定を離れて描いた最後の本格宇宙SF。
かつてのアル中弁護士ギャルヴィンは、今や一流法律事務所で出世街道をひた走っていた。ある朝、巨大製薬会社相手の勝ち目のない薬害訴訟を、若い女性弁護士ティナに持ちこまれる。だが、訴訟の相手が事務所の顧客だったため断わらざるをえず、彼は年老いた恩師をティナの陣営に送りこんだ。そして、心ならずも自分は製薬会社側の弁護に立つがー名作『評決』に続き、硬骨の弁護士ギャルヴィンが活躍する法廷サスペンス。
CIAの協力者が未発表の回想録を遺して死んだ。その葬儀の直後から、息子の元刑事グラニーの周囲の状況は急変した。父の愛人、旧友が殺され、CIAと匿名の人物が回想録の買収を申し入れてきたのだ。内幕暴露を恐れる者が暗躍しているらしい。命をも狙われ始めた彼は、回想録を餌に反撃の罠を張るが…虚々実々の駆け引きをスリリングに描く巨匠屈指の傑作。
賭博場に似た熱気とともに、歯切れ良い英語が飛び交う中、オークションにかけられた品は、絢爛豪華な刀剣だった。おそらく隋唐の皇帝の佩刀だろう。激しい競りに終わりを告げ、遂にその品を手に入れたのはビンセントであった。会場を後にする車中で、懐かしい古剣の感触を確かめる彼の意識は千古の時を遡りはじめた。天下を統一した隋と、華やかな時代を築いた唐とがともに存在した遙か彼方へとー。特別篇。
三日月城・森家に伝わる白い秘玉には、白蛇を誘う妖気がこめられ、凶事を招くと伝えられていた。最初に玉を手にした森蘭丸は本能寺の変に果て、次に得た者も災いに見舞われた。その秘玉が盗まれた。参勤交代の折、将軍綱吉に帯同を命じられた矢先のことだった。ついで森家の家臣が次々と斬殺された。陰には隻腕の武士の姿が。謎の武士が携える蛇彫の小太刀と秘玉の妖しの縁とは(表題作)。傑作時代小説集。
慶応元年伊万里に産声をあげ、陶器問屋を営む伯父の下で、幼いころから学問と商人の道をたたき込まれた森永太一郎。コンニャクの行商からはじまり、幾多の艱難辛苦を乗り越えてきた二十三歳の年、ある事情から九谷焼を携え渡米することになった。唯一残ったのは借金であったが、彼の目の前に現れた女性が差し出した、たったひと欠片のキャンデーが彼の人生を大きく変えていくことになった。書下し起業家伝。
孤児院を設立し脚光を浴びる男の愛人問題。工場をつくった男の金銭欲。戦闘で活躍した男の名誉欲。グルメ団体会員の美食ぶり。嫉妬のすえに決闘を申し込む男。彼らの行状を見た隠者が魔王に命じた。「魔王よ、人間から七つの罪を消滅させよ」こうして七罪は消えた。工場は閉鎖され、美貌の女はみすぼらしく、金持ちは貧乏に、世界は一変する。すると人々は叫び始めた。「魔王よ魔王、罪を返してくれ」人々はわかったのだ。傲慢でなければ国王はなく、強欲でなければ文化は発達せず、色欲がなければ女は男の気を引いて子を産むことも忘れ-人間にとって、社会にとってこの罪こそがかけがえのない大事な柱であることが。
二人は隣同士の家で、双子の兄弟のように育った。親の期待どおりの人生を歩んだ男と、親を裏切るように道を外れた男。彼らを結ぶものは、友情と嫉妬と一人の女。そして嵐の晩、一人は海で溺死する。突然の死の理由は?ふたつの家族を結びつける過去の事件とは?神戸、鎌倉、東京を舞台に、見えない糸が繋がってゆく。
「人斬り鍬次郎」「隊中美男五人衆」など隊士の実相を綴った表題作の他、稗田利八翁の聞書、近藤勇の最期を描いた「流山の朝」を収載。菊池寛賞に輝いた幕末維新作品の出発点となった新選組シリーズ完結。