1997年7月発売
失踪した猟犬探しを専門とするアウトロー探偵・竜門卓。相棒の猟犬ジョーとともに、北大阪の山林の丸太小屋に事務所を構える。犬探しの依頼が、数々の事件を巻き起こしていくー。野性、狩猟、そして男の生き方と友情を綴った、ちょっと泣かせるハートウォーミングな連作短編4編。惜しまれつつ逝った“永遠の不良老人”作家の遺作にして、ハードボイルドのひとつの到達点である。
ジョージア州の老人ホームで余生を送るポールが、生涯のなかでもっとも忘れがたい1932年の出来事を回想しながら書いているこの物語も、そろそろ終わりージョン・コーフィの処刑が目前に迫った時、ポールは恐るべき真実を知った。そして…。死刑囚舎房で繰り広げられた恐怖と救いと癒しの物語もいよいよ完結。分冊形式ならではの幾重にも張られた伏線と構成が導く感動の最終巻。
刑事専門の弁護士ダンはフィラデルフィアに法律事務所を開いている。ダンはマラと別れた日に、スーザンと出逢い、いつしか孤独なふたりは恋に落ちていた。ヘラルド新聞の社主ピーターは自社の売却を考え、妻スーザンの強い反対にあい彼女と別居、共有財産とひとり娘の養育権までも奪おうと妻を破滅させるためにあらゆる手段を用いた。が、ある日、泥酔して階段から落ち死亡した…。
ピーターの死は他殺であると、一族のボルター家の人々は、殺人犯として妻のスーザンを告発した。ヘラルド新聞の女社主になったのも束の間、スーザンはダンに弁護を依頼、ダンは一瞬、躊躇したが彼女の弁護を引き受けた。恋人でもあるスーザンの無罪を立証するための調査をしていくうちに、ボルター家のスキャンダルが暴かれていく。そしていま、思いもよらぬ真実が明るみに出る…。
スパイは砂漠を越えてやって来た。ロンメル将軍が送りこんだアレックス・ヴォルフは、イギリス占領下のカイロで活動を開始する。切り札は花形ベリー・ダンサーのソーニャ。ヴォルフとコード・ブック『レベッカ』の謎を追うイギリス軍のヴァンダム少佐も、自身に想いを寄せるユダヤ人女性エレーネに危険な使命を与えたー。軍略と情欲が鮮烈に交錯する鬼才の秀作、満を持して復活。
異形の壁に閉じこめられた高校生たち。だがその壁からは逃げ出すわけにはいかない。その壁に触れると、姿形、記憶や考え方まで完璧に同じコピー人間ができてしまうからだ。そんな密空間での殺人事件。犯人は誰?オリジナル人間か、それともコピー人間か。
材木問屋・和泉屋甚助-みずからの号を反物に染め、馬子唄に折り込ませる。あの手この手で名を広めようとするこの男、ただの売名か大粋人か?(「憚りながら日本一」)高名な画人・池大雅と玉瀾夫妻-二人を訪ねた男は、あまりに風変わりな生き方に仰天するが、この訪問には裏が。(「あやまち」)講釈師・馬場文耕-美濃郡上藩の騒動を高座にかけ、お上の手前まずいと知りつつ、しゃべりだしたらとまらない…(「いのちがけ」)など、奇にして潔なる人々を描く傑作集。
八十歳の母を祝う花見旅行を背景にその老いを綴る「花の下」、郷里に移り住んだ八十五歳の母の崩れてゆく日常を描いた「月の光」、八十九歳の母の死の前後を記す「雪の面」。枯葉ほどの軽さのはかない肉体、毀れてしまった頭、過去を失い自己の存在を消してゆく老耄の母を直視し、愛情をこめて綴る『わが母の記』三部作。「老い」に対峙し、「生」の本質に迫る名篇。ほかに「墓地とえび芋」を収録。
アメリカ南部の名門コンプソン家が、古い伝統と因襲のなかで没落してゆく姿を、生命感あふれる文体と斬新な手法で描いた、連作「ヨクナパトーファ・サーガ」中の最高傑作。ノーベル賞作家フォークナーが“自分の臓腑をすっかり書きこんだ”この作品は、アメリカのみならず、二十世紀の世界文学にはかり知れない影響を与えた。
隠された意味の仮装を剥ぐ。デビュー以来、新たな小説世界を提示し続け、絶賛を浴びる気鋭作家の短篇集。ふたつのストーリーが呼応する表題作ほか、“全身キズだらけの男”が、自身の右瞼の傷の由来を語り始める「ヴェロニカ・ハートの幻影」を収録。
いつかきっとまた、会えるよねー。三年前の初夏、邪霊たちの手から救い出した少女・水野美香。最後に交わした言葉は現実のものとなり、優人は女子大生になった美香とばったり出会う。きれいになった美香に驚く優人。再会を約束し、別れたとたん、優人の携帯電話が鳴る。『協会』からの調査の指令だった。三日前、新宿で行き倒れた青年医師が、実はゾンビだったのだという。さっそく医師の住んでいた部屋へと向かうが、そこで優人が見たのは…。ホーリーハンター優人が最後の事件に挑む。
荒事専門のトラブルバスター、鈴木さやかは、イリヤから仕事を依頼される。内容は、マルスシティを訪問する、アラビフタン国王子ラシャイの護衛。報酬につられたさやかは、ついついそのメンドくさそーな仕事を引き受けてしまう。一方、正義感の強い悪党、チュチェ・フェレイラは、アパートの大家、マダム・ツァイの訪問を受ける。彼女は、亡夫セイ・ツァイ画伯の遺作を盗んで欲しいと、チュチェに頼む。その絵の持ち主はなんとラシャイ王子で…。さやかとチュチェの痛快活劇第二弾。
世界的ピアニスト、ライダーはヨーロッパのとある「町」に降り立つ。「町」は精神的な危機に瀕しており、市民たちは危機克服の望みを演奏会「木曜の夕べ」の成功にかけていた。「町」を蘇生させる重責を担わされたライダーに市民がもちかける相談とは…。イシグロが冒険的手法を駆使して現代の苦悩に取り組んだ異色問題作。
心をかきむしられる既視感、薄明の記憶の底から揺らぎ現れる人物や風景。夢魔に魅入られたような状況のなかで、ついに「町」の蘇生をかけた「木曜の夕べ」が開幕する。ライダーと市民は危機を克服できるのか。世界の読書界を騒然とさせた野心作は思いもかけない結末へとむかう。イシグロが同時代におくる渾身のメッセージ。