1997年7月発売
名探偵が実は犯人であった、という意外さ。被害者と思われていた人物が、本当は加害者であったという面白さ。一人称小説の記述者、つまり私が、真犯人である、という驚きーミステリの難題一人三役に敢然と挑んだ野心作『猫の舌に釘をうて』。007の痛快さと山田風太郎忍法帖の面白さを併せもつ冒険アクションとしても楽しめる『三重露出』。凝りに凝った工芸品のような本格推理趣向の傑作二編。
カフェ、雑貨、花、絵画、オブジェ…優しさと親しみをこめて生活やアートに接しようとする人たちの集うサンライト・ギャラリー。新しいフォークロアを求め、都会を離れ、海と山に囲まれた湘南に暮らしはじめた人たちの喜びと失意の日々を描く、待望の短編小説集。
たとえば、姉の食べ残しに弟が躊躇なく手を出せるーそんなふつうの生活を理加子は夢みている。軍隊にも劣らないほど強権な父親と、一度も家族を愛したことのない母親のもと、理加子は大屋敷家ただひとりの子供として“石の歳月”を過してきた。“不良になるから”という理由で、映画、読書はもちろん電話、手紙に至るまで禁止されてもなお、理加子は両親に逆らえない。そんな彼女の前に粗暴で強引な男性江木が現れ、次第に心を開いてゆくが…。子供から大人へ。集団から個へ。誰もが通過する家=家族との決別を綴った切ない物語。
椿、二十三歳。美貌に生まれた女に恐いものはない。何もかもが思い通りになるはずだった。しかし祖母がボケはじめ、父が破産、やがて家や職場で彼女の心の歯車はゆっくりと噛み合わなくなってゆく。美人だって泣きをみることに気づいた椿。弱者と強者、真実と嘘…誰もが悩み傷つくナイーヴな人間関係の中で、ほんとうに美しい心ってなんだろう?清々しく心洗われる、“あなた”の魂の物語。
あらゆる悪が正気を飲み込もうとするグリーンリバー刑務所。完全に秩序を失った囚人たちの暴動は、情夫をめぐる痴情のもつれから始まった。-本当に狂っているのは誰なのかー暴動で仮釈放が霧散した囚人医師は、ぎりぎりの理性をゆるがせながらも、巨漢の精神分裂症患者の「啓示」の声に導かれ、善悪の彼岸を彷徨する…。黙示録的プリズン・サスペンス。
植木職人の銑次郎は一匹狼の盗賊だったが、岡っ引きの伝造に追われ始める。確証は与えていなかったが、探索の輪は狭まっていく。だが、この二人には、愛しい女、そして、守ってやらなければならない女がいる-。
ホラーを知り尽くした著者が、自信をもっておくる本格的怪奇小説の決定版!とにかく怖い!怪奇実話作家のもとに持ちこまれた一冊の日記帳。赤い羽根を極端に恐れる男の記録に隠された驚愕の真実とは?切れ味するどい第一章「赤い羽根の記憶」から、幽霊屋敷パターンに新機軸をうちだす第三章「黒い家」、今までの登場人物が総登場して百物語をくりひろげる最終章「百鬼譚の夜」まで、奇想と企みに満ちた恐怖の迷宮の中で、怪奇小説ならではの醍醐味をたっぷりと味わっていただきます。
絶望から狂気へ向かっていた反町は深夜のコンビニで天才的な演技力を持つ無名の少女に出会う。彼女は巨大なトラックを運転し、血管の中に虫を飼っているのだと言った。二人の、「ストレンジデイズ」(奇妙な日々)が始まる。果てのないロールプレイの、ゲームではなく、現実の日々…。