1998年発売
幕の内弁当を食べるとき、ついついおかずとめしの配分を考え、食い進み計画を立ててはいませんか?中学生の頃から「何かでひと山当てて大儲けをする」という夢を見続けている友人が周りにいませんか?誰の身近にもいるごくフツーの人々の日常が、ちょっと視点を変えただけでニヤリと笑える小説になりました。あの名作を大胆にもパスティーシュした表題作など八編を収めた短編集。
まり子は美脚を誇るサーカスの花形スター。彼女は、三人の男性に等分に恋をした。ふわふわと甘い綿菓子のような恋を。ところが、恋の魔法は突然解かれてしまう。まり子が妊娠したために。恋は身を軽くするものなのに、どうして生命は身を重くするのだろう。まり子は憂鬱になった。いつまでも恋をしていたい。だけど、どうすればいいの?恋の向こうにある日常の重さ…甘く残酷な恋愛小説。
1839年、アフリカ人シンケはキューバに向かう奴隷船アミスタッド号で52人の仲間と反乱を起こし、成功した。しかし船は迷走し、結局彼らは米海軍の手に落ちて乗組員殺害の罪で裁かれることになった。故郷に帰ることだけを願った彼らに罪はあるのか。そもそも奴隷売買は違法であるはずだ。自由と平等の国アメリカ、その威信をかけた史上最も重要な裁判を扱った感動大作。
見事に初勝利を果たした千代延義正は、1938年南仏・ポーで開催されるレースに向け、トレーニングに明け暮れていた。だが、国際紛争の火種がついにくすぶりはじめる。活発化する列強の謀略戦は、義正の運命をも変えつつあった。駐仏陸軍武官の公職と私情との狭間で苦悩する父・宗平。そして、二人の女性の行く末は?怒濤のクライマックスへ、物語はブガッティの如く一気に駆け抜ける!’95年、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会特別賞受賞。
十月七日午後五時三十分。萩行きの夜行高速バスが品川のバスターミナルを出発した。乗客乗務員は十二人。約十四時間で目的地到着の予定だったのだが…。深夜に乗務員が殺害され、バスは殺人者とともに、何処とも知れぬ闇の中に放り出される。台風接近で風雨も激しさを増しー。それぞれの人生を背負って乗り合わせた登場人物たちの多視点から恐怖の一夜を描く、異色のサスペンス。
新宿・職安前の託老所は、居場所のない老人たちを日中だけ預かる施設。そこでは入所者の首吊り自殺が立て続けに発生していた。警察はボケを苦にした自殺と断定するが、新入りの中村きんは疑念を抱く。果してボケた老人が自分で首を吊ったりできるだろうか?これは他殺ではないのか…。日本推理作家協会賞短編部門賞を受賞した表題作を含む、連作短編集。
アフリカに魅せられた古人類学者ケンは、ケニアの平原で古人類のものと思われる不思議な足跡を発見した。きのう付けられたように見えるその足跡をたどっていくと、何と化石までもが見つかった。人類の祖先、アウストラロピテクスのもののようだ。彼は発掘を始めるが、何者かの罠にかかって不毛の地に置き去りにされる…。300万円の時を超えて冒険と科学とロマンの世界が広がる。
飢えと疲労で瀕死のケンの命を救ったのは、アウストラロピテクスの少年だった。厳しい気候と地形に守られ、自然の恩恵をこうむる術を会得した彼らは、300万年の時を生き延びたのだ。行動をともにするうち、二人の間には友情のようなものが芽生える…。迫り来る密猟者と、名声を追う貪欲な科学者と、残酷な政治情勢から逃れて、アウストラロピテクスの少年は、生きる。
冷戦が終わって、上司も変わった。チャーリーは新人ガウアーの教育係を押しつけられ、憮然とする。一方、新生ロシアで対外情報部門のトップに昇りつめたナターリヤは、幼い娘を育てながら組織内の暗闘に耐え、チャーリーの行方を追っていた。そして北京ではロンドンに情報を送っていたイエズス会士が公安当局にマークされ、彼を出国させることがガウアーの初仕事に。シリーズ第九作。
新人ガウアーは、任務の遂行直前に中国当局に拘束されてしまったが、チャーリーの教えを忠実に守り、獄中生活に耐える。そしてチャーリーは北京行きを命じられた。やったぞ、現場復帰だ!だが、情報と資料を吟味した彼の目には何もかもが不自然に映っていた。ここでしくじれば、本当に未来はなくなる。周到な準備を重ね、チャーリーは運命の鉄道駅へ向かう。恩讐と逆転の大団円は。
十数人に及ぶ人命が易々と奪われた、あの怪奇的で残虐な、血みどろの「人狼城殺人事件」-背後には悪魔以上に怪物的な犯人が必ずいる!美貌と無類の知性で難事件を解明する名探偵二階堂蘭子は、義兄黎人とともに、この超絶的事件解決のため一路欧州へ。幽鬼のごとき殺戮者の魔手は、蘭子にまで伸びるか。
密室と化した社長宅で起きた殺人事件。しかも室内では時間の流れまでも狂っていた!?そんな不可思議な事件の真相解明に現れたのが「超能力者問題秘密対策委員会出張相談員・(見習)神麻嗣子」なるとんでもない少女。-ミステリの可能性を極限まで追求する西沢保彦が紡ぐ奇想が、今年も斯界に衝撃をもたらす。
高校時代の万引事件のためエリート家庭から落ちこぼれた菊男は、ガード下の靴修理店の老夫婦のもとに入りびたっていた。そんなある日、ふとしたきっかけから、菊男は謹厳な祖父や、一流ビジネスマンの父のもうひとつの姿を知ってしまう。人間の本質と家族のあり方を追求して話題を呼んだ名作ドラマの小説化。
「芸妓娼妓紹介業」の看板をかかげ、次々と貰い子をする父と、迎え入れる家族の葛藤、そして貰われてきた娘たちの哀しみ。複雑な家庭で共に暮した人々の人生を描いた表題作のほか、処女作「村芝居」、連作「宿毛にて」など、初期と円熟期の名品八篇を収録。宮尾文学の源流ともいうべき、ファン必読の短篇集。
慶長15(1610)年、駿府で生れ育った伊勢山田の神主・山田仁左衛門長政は御朱印船で長崎を出港、高山国(台湾)から黄金の都シャム(タイ)のアユタヤに渡った。シャムの女性と結婚し、国王の親衛隊として頭角をあらわし、やがて日本人でありながら、シャムの王族にまで登りつめた一代の快男児・山田長政の波瀾の生涯を描く。
シャムに渡ってアユタヤの日本人町の頭領となった山田長政は内戦の鎮圧が国王に認められて、宮廷の武将としての頂点に立った。寛永6(1629)年、リゴール国王となったが、翌年、毒薬で非業の死を遂げる。江戸時代、海を渡って異国で41年の生涯を終えた日本人山田長政の夢と冒険を描いた渾身の歴史長篇。
地中海地方の溢れる光の中をひとりバイクで旅する青年が出会う人々や風景を、明晰なことばを積み重ねてくっきりと描き出した「アポロンの島」「大きな恵み」、キリスト教についての著者の基本的な考えがうかがえる「エリコへ下る道」、戦時中の重苦しい時代に土俗的な雰囲気の中で成長する少年を自伝的に描いた「動員時代」の四つの作品群からなる短篇集。