1998年12月発売
石見に参り、かの地の動静を調べて参れー遠国御用の密命を帯びた幕府のお庭番・土屋与三郎は箱職人に姿をやつし、出雲から石見銀山に入った。四万八千石の天領内には、幕府直轄のお囲い村が三十二、間歩(坑道)が二十本あり、毎年五百貫の銀が江戸に送られている。この銀山の実権を握る代官代理の小栗市太夫が、長州藩から謀反の誘いを受けたというのだ…。
不世出の実業家、根津嘉一郎。県会議員時代に同郷甲州政財界の重鎮、若尾逸平から示唆された言葉「株をやるならば、これからは『乗りもの』か『明かり』だ」が彼の関心を実業界へと向けさせた。倒産寸前の東武鉄道再建に乗り出し、強気の経営哲学のもと消極派を押し切って成功に導く。数多くの企業に関わりながら一族経営を排し、利益の社会還元を忘れなかった嘉一郎の波乱の生涯を辿る。書下し評伝小説。
1942年8月15日、日米両国はついに交戦状態に突入した。開戦と同時に、フィリピンのマッカーサーは台湾への戦略爆撃を敢行する。しかし、日本軍の反撃で甚大なる被害を受ける。逆に日本軍は、空母航空隊による比島南部一帯への連続空襲に成功。マッカーサーをコレヒドール島に追いつめた…。開戦から3カ月、キンメル司令長官率いる米太平洋艦隊と連合艦隊の決戦の時が刻一刻と近づいていた。独立作戦行動を許可された猛将ハルゼーが、空母部隊を率いて南洋諸島に布陣した日本軍部隊を引っかき回す作戦に出た。迎え撃つ海軍航空隊と戦火を交えている、その頃、キンメルは小笠原諸島攻略を最優先する決断を下した。
奇しくも開戦一周年を迎えた昭和17年12月8日、ビアク島をめぐる戦いで戦死した吉村真理子中将の葬儀がしめやかに行なわれていた。一方、母艦兵力に甚大なダメージを受けた米太平洋艦隊ではあったが、正規空母エセックス級の就役で息を吹き返しつつあった。翌18年夏、アメリカは“超空の要塞”B-29の完成と共にマリアナ諸島を日本本土空爆の出撃基地にすべく準備を開始する。これに対し日本は、基地化を断固阻止する作戦を企図した。浅井めぐみ中将を新長官に迎えた第一機動艦隊はグアム島を目指し、攻略部隊をふくむ大船団で、沖縄名護湾を出撃していく。日本の新鋭空母群を迎え撃つは、猛将ハルゼー中将率いる高速機動部隊。日米両機動部隊の激突は、どちらに凱歌が上がるのか。
冬の京都で現金輸送車が襲われ、一億円が強奪された。犯人たちは車で逃走、その後一味と思われる男の絞殺死体が発見された。だが初動捜査の遅れから有力な手がかりも得られないまま、事件は膠着状態におちいり、九年の歳月が流れた。焦る捜査本部は数々の未解決事件を手がけたベテラン警部に最後の望みを賭けた。時効成立まで捜査陣に残された時間はあとわずか…。
“智久は、「僕はどこにでもいるんだよ」と、謎めいた台詞を口にした-”インド古代遺跡での火災事故、六本木路上での殺人、巣鴨での質屋の女主人の失踪。まったく関連性が見えず、次々におこる事件に、若き天才囲碁棋士・牧場智久の影がちらつく。智久本人は大事な対局を控え、ほかのことを考える余裕はないはずなのに…。智久の姉・典子をも巻き込んだ、面妖な事件の真相は何処に?色とりどりの風車に囲まれた、長くゆるやかな坂を歩いた幼き日の記憶。それはいつしか白い壁に塗り込まれて…。
愛と憎しみ、友情と裏切り、そしてジャズのもの悲しい調べ。男の双眸に宿る暗い陰は…。過去を背負って生きる男たちの世界を、哀愁に満ちたタッチで見事に描ききった、「泣かせる」アメリカ人情物語!-名手の短編集をアメリカに先駆け世界初出版!MWA最優秀短編賞受賞作を含めた珠玉の10編を収録。
「家老職はお家の引け際(改易、断絶)に役に立てばよい」昼行灯といわれた大石内蔵助が、時代の分水嶺となった元禄に、易きにつきがちな心を励まし、片落ちな裁定に生命を賭け、人間としての一分を貫き通すため四十六人の同士たちと共に立ち上がった戦いの日々を描く。
わずか一片のパンを盗んだために投獄され、十九年もの年月を獄中で過ごしたジャン・ヴァルジャン。長く過酷な服役のため、荒れ果てた心のまま出獄したヴァルジャンだが、ミリエル司教によって施された“慈愛”によって生まれ変わる。過去を葬ったヴァルジャンはマドレーヌと名乗り、富と名声を得、ついに市長にまでなる。しかし彼の過去を疑うジャヴェール警部の登場により、ヴァルジャンの人生に再び転機が訪れる…。いつの世に生きていようと、誰にでも当てはまる人間の真理を見事に描ききった、不朽の名作。
星新一氏の文庫本39冊にわたる全短編、さらに文庫未収録ショートショートを加え、全1048編を収録。第1巻「1961-1968」、第2巻「1968-1973」、第3巻「1974-1997」の3巻構成。年譜、五十音索引を付す。
嵐が過ぎ去るのをただ待つは、人の上に立つ将の器にあらず。われに救国の知謀、秘策あり。国もとから援兵は届かぬ。恃むは己の才智と志を一つにする家臣のみ。いざ、一大決戦の関ヶ原へ。太守・島津義弘の窮状を知った薩摩隼人は国抜けの汚名を覚悟して三百里の山海を奔った。そして屍山血河の関ヶ原から国もとへ義弘は生きて帰らねばならぬ。さもなくば、故国は関ヶ原の勝者にたたき潰され、時代の奔流にのまれてしまう-。卓抜な着想と深い洞察が冴える関ヶ原合戦史の決定版。
ポルトガルがスペインと鎬を削っていた18世紀。時の国王ジョアン5世は、フランシスコ修道会士と、王妃に世継誕生の祈祷が成就すればマフラに修道院を創建するという取引をする。一方、王の信任篤いブラジル生まれのローレンソ神は空飛ぶ機械『大鳥』を、戦争で左手を失った退役兵士バルタザルと不思議な透視術をもつブリムンダ夫婦の助けを得て試作するが、異端の嫌疑をかけられる。音楽家スカルラッティと王女マリーアなども絡んだ一大歴史ロマン。98年度ノーベル文学賞受賞作家サラマーゴの代表作、本邦初訳。
カナダは移民の国だ。時代や地域によってそこに移り住んだ人々は異なる。本書は、マニトバ州出身の作者が、教員経験を活かして書いた中篇連作。移民の子供たちの物語を通して、過去が豊穣に蘇り、個人的な体験が普遍的価値に昇華されている名作。