1998年発売
日本陸軍のガダルカナルからの撤退で幕を閉じたソロモンの空海戦の後、アメリカは連合艦隊を追い求めていた。1947年11月、日本空母に初めて搭載されたカタパルトから機体が弾き出された。改造なった航空母艦・伊勢の誕生だった。姿を現わした連合艦隊はニューカレドニアの攻撃に成功した…。その頃、アメリカ軍内部では対立が激化していた。ニミッツを中心とする海軍とマッカーサーをいだく陸軍の対立である。ヒトラー大統領の焦燥は深まる…。日本に戻った伊勢を待ち受けていたのは、水平線の彼方から現われた1000機近い航空機の大編隊だった。それは再建なった全連合艦隊の新たなる姿だった。対米戦勝利を期待され、連合艦隊司令長官に就任した山口多聞が、日本の全勢力をつぎ込んだその勇姿を旗艦から見つめていた。
比島攻略戦がはじまって一ヵ月、作戦は暗礁に乗りあげていた。芳しくない戦況は陸海軍の齟齬を来たし、両者の溝は深まりつつあった。「陸軍はできるだけのことをしている…」「…海軍部としては動きかねますな」田中新一参謀本部第一部長と黒島亀人軍令部第一課長の互いに譲らぬ主張は連絡会議を紛糾させ、混迷をきわめた。「もうよかろう、今は駆け引きなどしているときではない」山本五十六軍令部総長の凛とした声が響き、軍令部が頭を下げることで陸海軍一触即発の危機はかろうじて避けられた。思わぬ内憂に野分礼二首相はため息をつくばかりであった。さらに新たなる敵が野分、そして日本の前に立ちふさがろうとしていた。
荷風の激賞をうけ颯爽文壇に登場した谷崎。-清吉と云う若い刺青師の腕きゝがあった。彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む事であった。官能的耽美的な美の飽くなき追求を鮮烈に描く「刺青」ほか、「麒麟」「少年」「幇間」「飆風」「秘密」「悪魔」「恐怖」の七篇を収める、初期短編名作集。
徳川の禄をいただくものであっても、心の地にはやすのは八王子の人情と文物-。武蔵・八王子に逃れた武田家旧臣の小人衆。武田家再興を図るか、徳川体制に従うか、千人同心を組織した彼らが選んだ道は!?郷土色豊かに描く書下ろし長編歴史小説。
「舞台女優連続殺人事件」の犯人の目星をつけた伊集院大介は、「ゾディアック」に狙われる身となった竜崎晶を事務所に匿い、自らは横浜へ向かう。そこで浮かび上がった「ケイ」をめぐる意外な事実-。さらにその夜、六本木のゲイバーで大介を待ち受けていたものは!?ついに、シリーズ最大のクライマックスへ。
際どい和歌のために貴族社会のタイトロープを踏み誤った母。焼死したと噂される幻の母を追って宮中奥深く入りこんで機を窺う娘。愛憎と権世欲の逆巻く世界が生み落したシリアルキラーは果して何者か。幽鬼が出没し狂人の彷徨う京の都は、一体どんな悪霊に支配されているのか。まやかしの都を舞台に、サイコサスペンス風味でたっぷりと描く超絶時代小説。
非行少年と更生保護司の格闘物語!今日的問題の核心に迫り、家庭、学校、社会に問いかける迫真の話題作!この物語は、二十五年に渡って非行少年達の更生に尽力してきた、1人の気骨ある保護司をモデルにして書かれたものである。人物、地名、事件の内容等はすべてフィクションであるが、実際にあったさまざまな出来事をヒントに書かれたものである。
同じマンションに住む長谷川真佐子の依頼で、久しぶりに郷里を訪れた村田和子は、真佐子との不思議な縁の糸の存在を知る。だが、その真佐子が密室で殺害され、さらに第二の殺人が同じ縁の線上で起こった。戦後二十数年後の安定した日本の社会情勢を巧みに取り入れ、周到な構成で描く墨野隴人シリーズ第五作完結編。そして、墨野隴人の意外な素顔が。
放送部のプリンス・鷹取秋良がもらった一本のボイスレター。愛の言葉を囁くその下半身直撃ボイスに、すっかり骨抜きになった秋良だが、送り主がわからない。幼なじみで秋良のファン第一号を自称する凪には心当たりがあるらしいけど…。
あるのどかな昼下がり、レストランで食事をしていた片山義太郎と晴美。二人が食事を終えて席を立とうとした時、突然窓ガラスに亀裂が走り、テーブルの上の一輪ざしが砕け散った。それと同時に客の一人が倒れ、店内は大騒ぎに!狙撃事件かと被害者に駆け寄った片山だったが、検死の結果は意外にも「毒殺」。しかも現場からは銃弾が消え失せていた…。遁走曲のように、次から次へとつながる連続殺人の環。片山とホームズはそこに隠された真実を見つけることができるのか?大人気シリーズ21弾登場。
半年がかりの長編の見本を見るために珀友社へ出向いた推理作家・有栖川有栖は同業者の赤星と出会い、話に花を咲かせる。だが彼は〈海のある奈良へ〉と言い残し、福井の古都・小浜で死体で発見され……。
ペンネームは覆面作家ー本名・新妻千秋。天国的美貌でミステリー界にデビューした新人作家の正体は、大富豪の御令嬢。しかも彼女は現実に起こる事件の謎までも鮮やかに解き明かす、もう一つの顔を持っていた!春のお菓子、梅雨入り時のスナップ写真、そして新年のシェークスピア…。三つの季節の、三つの事件に挑む、お嬢様探偵の名推理。人気絶頂の北村薫ワールド、「覆面作家」シリーズ、第二弾登場。
バロウズの遺作長編。本書は、断片的に書かれてきたものを、とりまきたちが集めて編集したものである。これまで、ノスタルジックな形以外ではあまり触れられなかった家族との関係(特に老いてからの父母や兄との関係)、先立たれた息子に対する感情が、かなりストレートに出ているし、昔の恋人たちに関する記述も無防備なまでにはっきりしている。その意味で、本書はバロウズの諸作の中でもっとも内省的かつ自伝的要素の強いものとなっている。