1999年5月発売
「私」は来週21歳。ウェイトレスとバーの歌手という、2つのアルバイトをしている。「年齢こそ三つちがうが双生児のような」兄がいて、兄には、美しい妻と幼い娘、そして50代の愛人がいる…。ある朝、逃げたやどかりを捜して隣の男の子がやって来たときから、奇妙な夏の日々が始まったー。私と兄をめぐって、現実と幻想が交錯、不思議な物語が紡がれて行く。シュールな切なさと、失われた幸福感に満ちた秀作。
古い祖母の家。草々の生い茂る庭。染め織りに心惹かれる四人の娘と不思議な人形にからまる縁。蛇の夢。竜女の面。クルドの地。呪いと祈り、憎悪と慈愛。リバーシブルの布-私たちの世界。何かを探すためでなく、ただ日常を生き抜くために…。
膨張した変死体は、皮膚が透け、鮮血の中に白骨が見え、どろどろの脳が眼窩から溶けだしていた。高熱を発し、おびただしい出血とともに死を招く魔の奇病とは何か?これは人為か偶然か?アメリカ帰りの若き研究者、高部涼子は真相に迫っていく。連続する変死と最新遺伝子学の闇に隠れた悪とは?新潮ミステリー倶楽部賞・島田荘司特別賞を受賞した現役医師作家による最先端書下ろし推理作品。
週刊誌のキャップをする兄から「私」に電話があった。上海系の麻薬組織を追跡取材しているが、編集部には中国語を話せる者がいないので手伝ってほしいと言う。早速私は大同というデスクの取材に同行することになった。関西の広域暴力団までが絡むからくりが見えてきた。そして、兄の首が切り落とされた!温厚な男の中に眠る戦士の目覚めを、練達の筆致で描き切る。
ーシルヴィアの悪夢は現実のものとなった。将来を約束していた恋人が溺死したのだ。そのときからだった。否定しようのない霊能力が発揮されはじめたのは…(「頭痛と悪夢」)。-’98年度MWA賞短編部門候補作「ダヴィデを探して」を含むスカダーもの3編のほか、軽妙なタッチで読者を楽しませてくれる泥棒ローデンバーものなど13編を収録。作品の幅の広さと、変化に富むシリーズものに冴えをみせるブロックの、上質なオリジナル短編集。
月夜の晩に火事がいて水もってこーい木兵衛さん金玉おとして土(ど)ろもぶれひろいに行くのは日曜日。この予告状から前代未聞の「おもしろこわい」事件が始まった。奇想天外な展開、明るくユーモラスな会話。そのなかで垣間みられる人間存在の深淵。
古都ボストンに探偵事務所を構えるパトリックとアンジー。彼らのもとに二人の上院議員から依頼が舞い込んだ。「重要書類を盗んで失踪した掃除婦ジェンナを探してほしい」たやすい依頼に法外な報酬。悪い予感は的中した。辿り着いた彼女の家はもぬけの殻、そして何者かに荒らされた形跡。書類を探しているのは議員たちだけではなかった。街に銃声が鳴り響き、屍が積み重なる。戦場と化したボストンのストリートを失踪する二人の前に姿を現した澱んだ真実とはー。「探偵パトリック&アンジー」シリーズ、待望の日本上陸第一弾。
海兵隊あがりの冴えない泥棒ティム・カーニーは、服役中の刑務所で正当防衛のためにヘルズエンジェルズの男を殺し、塀の中にいながら命を狙われる身となった。生きのびる道はただひとつ。ティムの容姿が、南カリフォルニアの伝説的サーファーで麻薬組織の帝王、ボビーZにそっくりであることに目をつけた麻薬取締局の要求を飲み、Zの替え玉となることだったー。愛すべき悪党どもに、ミステリアスな女。波の音と風の匂い。気怠くも心地よいグルーヴ。ウィンズロウが新境地を切り拓いた最高傑作。
邸の氷室は十八世紀に小丘を模して造られた。冷蔵庫の出現にともない保冷庫としての役目を終えていたそこで、不意に死骸が発見される。胴体は何ものかに食い荒らされた、無惨な死骸。はたしてこれは何者か?…ここにはすべてがある。悲嘆も歓喜も、幻滅も信義も。これはまさに人生そのもの、そしてミステリそのもの。ミステリ界に新女王の誕生を告げる、斬新なデビュー長編!CWA最優秀新人賞受賞作。
シャワーカーテンの隙間からのぞく仮面のような顔。ぎらつく二つの目。メアリは悲鳴をあげはじめた。が、その声は切り裂かれた…肉切り包丁の一閃で!雨の夜、片田舎のさびれたモーテルでなにが起きたのか?大金を拐帯し失踪した婚約者を探すサムが見いだした、恐るべき真実とは?ヒッチコックの映画であまりにも有名なサイコスリラーの原点、今ここに復活!新訳決定版。
文政七年夏、歌舞伎役者・鶴屋南北が、しのつく雨の中で見かけた浪人者がひとり。菊五郎にも劣らぬ男振りの翳に潜む不吉な匂いが、作者南北の興味に火をつけるー男と女の愛憎と、からみつく因縁が思わぬ結末へと転がりだす。鶴屋南北、一代の名作執筆の裏側を舞台に、芝居者、浪人者、謎めいた淪落の女、大店の娘ら江戸庶民の姿をいきいきと描いた時代小説の傑作。
三人姉妹、新しい神話の誕生。静謐な秋の湖にとどろく雷鳴。魂の成熟と再生、思寵の美しさ!男は水際の砂場に立っていた。風はないのに水際にはひっそりと漣が寄せている。異常なほど透明な水。だが湖の表面は両側の山陰部分だけを除いて、一面赤っぽい黄色に、ほとんど金色に染まっている。その光のきらめきの中に、女は後姿だけ見せていた。肩の広い長身の後姿が、影絵のように水から浮き出している。女がいまここに連れてきてくれたことよりも、前もって話さなかったことに、そしていまも黙って離れていることに、男は女の配慮を、彼女もこの世のものならぬこの光景を大切に思っていることを感じた。魂が不意に真空に晒される思いだ。知覚だけが異様に冴えて、感情の領域より一段下、普段は静まり返っている体の芯に近い暗い領域がひとりでに疼いて、自然に体が内側から開いてくる。
ヴァルダは家柄重視の結婚を強要され継父と口論の末、自立心を示そうと秘かに家を出る決心をする。毎年訪れる顔見知りのジプシーに頼み馬車の一隊に加えてもらおうと高価なカメラを携えて屋敷を出た。実はヴァルダには写真の心得があり将来個展を開けるほどの写真を撮ることが夢だったのだ。キャンプ地であるカマルグに立ち寄った時、この土地に惹かれ、皆と離れた。そして、危険も顧ず窪地に入りこみレンズをのぞいているうち荒馬に乗った男性に蹴ちらされてしまう。奇襲を受けたような出会いだった。
「追え、者ども、逃がすでない。柴田の首はまだぞ!」「退くな、押しとどまれ。兵数では変わらぬぞ。柴田の闘志を見せい!」真上にあった日は、山々を茜色に染めながら長い影法師を作っている。天正六年(1578)三月三十日申の刻。朝の霧中で始まった上杉五万、織田六万による九頭龍川の戦いもそろそろ終盤を迎えつつあった。上杉勢の猛攻に敗走した織田勢はちりぢりに逃げまどい、大将柴田勝家は五層九重の天守を誇る牙城、北ノ庄に籠城すべく、無念の退却を決めた。「乱杭を打て、逆茂木をくくれ。火縄の火をたやすでない」煌々と篝火が焚かれる城内では上杉勢を迎え撃つ準備がなされていく。勝家は天守最上層から外の様子を眺めては、末期の酒を傾けていた。“越後の龍”こと、上杉謙信との決戦の時が目前に迫りつつある-。信長父子の必勝戦策-血戦、賤ヶ岳。
世界最強の名をほしいままにする米第58機動部隊がマリアナへ近づく。昭和19年6月11日、第303航空隊は紫電改を駆って、グラマンを撃破すべく、テニアン島を飛び立った。来襲した敵機を見事に撃破した“空の艦隊”戦闘機群であったが、米攻撃隊によるマリアナ空襲は今日のみでは終わらない。明日は必ずや温存していた強力な戦闘機を繰り出してくる。テニアン地下司令室で、第一航空艦隊の情報参謀中島中佐と、航空参謀の淵田は額を寄せ合い、対応策を練る。一方、レキシントン2では司令官ミッチャー少将と同参謀長のバーク大佐が、優位に迎撃戦を進める日本軍に対して罠を仕掛けるべく、談合を続けていた。日本の航空戦力を無力化する作戦とは…。燃ゆるマリアナ上空-死力を尽くす大航空戦。
元気者の河合朱里は、高校入学直後の体育祭の練習中に足を骨折して入院するハメに。ただでさえふてくされているところへ、見舞いにきたクラスメイト達と一緒に、苦手な日下京平の姿があった。なぜか皆が帰っても残った日下に、河合はなんとか話しかけるが、会話が成立しない。しかも、河合が動けないのをいいことに、いきなりベッドに押さえ込まれて。