1999年6月発売
国姓爺鄭成功、幼名福松は、東アジアの海の実力者を父として、日本人田川氏の娘を母として、平戸に生まれた。七歳のとき福建泉州へと渡り、父のもとで成長、やがて南京の太学に学ぶ。折りしも李自成軍に首都北京を占領された明朝は滅亡、山海関を越えた満洲鉄騎軍は中国大陸制圧に向けて怒涛の南進を開始した。唐王隆武帝を奉じ、父とともに反清勢力を率いることになった若き英雄の運命は。
古墳の闇から復活した大津皇子の魂と藤原の郎女との交感。古代への憧憬を啓示して近代日本文学に最高の金字塔を樹立した「死者の書」、その創作契機を語る「山越しの阿弥陀像の画因」、さらに、高安長者伝説をもとに“伝説の表現形式として小説の形”で物語ったという「身毒丸」を加えた新編集版。
男女両性の長所から生命の芸術をクリエイトする「創造」、谷崎の府立一中時代の友人・大貫晶川をモデルに描く「亡友」と長篇「女人幻想」-器量よしとお洒落とで評判の兄妹。思春期を境により美しくなってゆく光子、女性的の美を羨みこだわり続ける由太郎は、女を騙すことばかり覚えて…。
「夫は吸血鬼かもしれない」-マタニティ雑誌「プレマム」編集部の布施乃理子あてに不審な手紙が届いた。一方、同じ頃、「プレマム」の元モデルが絞殺され、さらに「プレマム」の読者を巻き込む児童誘拐事件が発生する。不審な手紙と二つの事件には、複雑な人間関係と恐るべき事実が隠されていた…。「現代」の吸血鬼をテーマに、人間の“血”と“愛”を描く心理サスペンスの力作長篇。
人でありながら、神の子であったイエス=キリスト。数々の奇跡を起こし、そして人間の罪を負って十字架にかけられたイエスの生涯を、われわれと同じ、ひとりの人間の生涯として描いた本書は、神を求め、その声を聞くことができない悲しみや、信仰に迷いながらも、貧しい者の中に希望を見いだそうとするイエスの姿を鮮やかに甦らせる。ここには、神話の中にではなく、われわれの心の中に息づくイエスがいる。
19世紀末、封建的時代のスウェーデン。貧しさゆえに12歳で農園に奉公に出されたハンナは主人の息子に強姦され、13歳で母親になる。苛烈な差別と過酷な労働にも耐え、息子を明るい子に育てるハンナ。彼女が産んだヨハンナも、奉公先の医師一家に虐待され社会主義に傾倒しながら、豊かになっていく社会と女の地位とのギャップに苦しむ…。-あまりに残酷な運命を生きた、北欧の美しい大地の女たち。母娘の、夫婦の、気高い愛が激動する時代を背景に光を放つ「希望の書」。
全長4000メートルの海峡大橋を支えるコンクリートの巨大な塊“アンカレイジ”。内部に造られた窓ひとつない空間に集まった科学者・建築家・医師の六名。プログラムの異常により海水に囲まれ完全な密室となったこの建物の中で、次々と起こる殺人…。最後に残ったのは、盲目の若き天才科学者とアシスタントの二人だった。犯人は、私?僕?それとも-。
昭和16年3月。萌は故郷・明日萌を遠く離れ、生まれて初めての地に降り立った。そこは大都会・東京-。人の多さと生活リズムの速さに圧倒され、不安になる一方で、東京で母に会えるかもしれないと、淡い期待を抱いていた。そんな萌に襲いかかる災難の数々。あてにしていた働き口がだめになったうえ、すり騒動に巻き込まれ、財布を盗まれてしまったのだ。途方に暮れた萌は、最後に残っていた十銭硬貨を握りしめ、駅近くにあった猫又食堂の暖簾をくぐるのだった。食堂の女将・としは津軽三味線を爪弾く趣味があり、その音色が萌にはなぜか懐かしい。もしや本当の母では…そして、さまざまな出会いを重ねていく中で、萌は結婚相手とめぐり会う。しかし、幸せな生活もつかの間だった。徐々に忍び寄る戦争の影が萌の人生を一転させる。
ヒトラー救出作戦失敗!富嶽隊、壊滅!戦局はついに最終局面に達しようとしていた。米軍は原子爆弾の開発に成功し、テニアン島に実戦配備した。原爆投下阻止のため、日本軍は試作機として残存するたった一機の富嶽で、テニアン島空爆をはかる。護衛機もない富嶽に乗った近藤正己隊長は、はたして日本の“運命の日”を阻止できるのか!シリーズ堂々の完結編。
私立光曜学園高校の二年生・高梨瞭司の恋人は、ちょっとストイックな雰囲気で超カッコいい社会科教師・友利秋洋。でも、どうもこの“教師と生徒”という禁じられた関係が邪魔をして、なんなか先に進めないのだ。なんとか友利とイイ関係になりたい瞭司だけど…。
毒リンゴの罠におちいりながらも、無理に息を吹き返した雪姫。しかし物語は、「めでたしめでたし」では終わらなかった。さて、継母の運命や如何に…。聖書の次に多くの読者に読まれているという『グリム童話』。本編はグリム兄弟の手によって幾度も改訂された後に、ついにできあがった完全版。洗練されていながらも、オリジナルの味わいが息づいている。グリム兄弟が本当に伝えたかったものがここにある。初の完訳版ついに刊行。
不知火(しらぬい)の海辺に暮す土木事業家の主とそれをとりまく三代の女たち。遊女、石工、船頭…人びとがあやなし紡ぎ出す物語は、うつつとまぼろし、生と死、そして恋の道行きー。第三回紫式部文学賞受賞作品。
その時、村は笑っていたのか-’70年代をすぎて、’80年代へ実りの予感と危機への畏れのあいだで家族は時代を見つめ続けた。名作『四万十川』シリーズの作者が女の半生を通じて問う村の運命。