2000年10月20日発売
「まるでお稚児さんのようだ」と言われて育った小柄で色白な青年・一。彼と両親、姉、姉の恋人、妻との関係は、微妙にずれながら日々つながっている。酒をモチーフに、現代人の透明な孤独を映し出す連作長篇。
嵯峨敏也は謎の女からの電話を受けた。嵯峨にとって、かつて催眠療法の教師でもあった精神科医・深崎透の失踪を、木村絵美子という患者に伝えろ。女の声は一方的にそう指示し、電話は切れた。癌に冒され、余命いくばくもない深崎と、絵美子のあいだに芽生えた医師と患者の垣根を越えた愛。だがそこには驚くべき真実が隠されていた-。「催眠」を遙かに凌ぐ感動、異色にして胸を打つラブストーリー。リアリズムとファンタジーの狭間に位置する松岡ワールド最高傑作。
冴え冴えとした月光の射し込む夜半の診察室。消毒薬の匂いがたちこめるベッド。視線を上げた幼い私が眼にした二つの影。母の倫ならぬ恋の目撃者は、自らもその人生の秋に狂おしい恋に堕ちていった-。縊死という悲しい手段で不倫にピリオドを打った母の最期の姿を眼に焼きつけたまま私は身悶えする。月の狂気を纏ったこの恋を、一体どうしたらいい。
刑務所を出たのは灰色の雨の朝だった。警官を死なせた罪を着せられ、棒に振った3年半。いまさらろくな職にありつけるはずもなく、妻の稼ぎにおぶさり酒に溺れる日々が始まる。だが、思いがけず偽装誘拐工作の渦中に巻きこまれたことから、すべてが、めまぐるしい急流へと呑まれてゆく。人生から脱落しかけた男の孤軍奮闘を描く手練のスリラー。
警察を追われて二十数年、今は墓職人をしている原島恭介は、墓地での作業中ホテトル嬢テンコと関わりを持つ。彼女を尾行していた探偵永松を締めあげた原島は、逆に儲け話があるともちかけられた。一方テンコも、バンコクで死んだ男が残したメモを見せ調べてほしいと依頼する。「丹沢の狢」が原島と二つの依頼を結びー。長篇ハードボイルド傑作。