2000年発売
物語は2069年。人類の8割はP2という殺人ウイルスに侵され、迫りくる死の恐怖に脅えていた。唯一の治療法は健常な血液との総交換のみ。健康体の人々は特別地区〈ゾーン〉の中に自らを隔離し、いまや黄金より貴重なものとなった血液を、厳重警備の銀行に保管していた。そうした防犯警備の天才的設計者デーナ・ダラスは、幼い一人娘キャロが重病を患ったのをきっかけに、治安上の危険分子と見なされる。命を狙われる彼はさまざまな能力をもつ仲間を集めて、復讐と自らの生存を賭けた大勝負に出る。それは、量子コンピュータが一元管理する超堅牢な月の血液銀行を強奪することだった。ダラスたち一行は月へ飛ぶが、彼らを待っていたのは、想像を絶する、神の計画にも似た罠だった-。
女王陛下の侍女との恋…イルミンスター公爵にとっては戯れでも女王の激怒は予見される。公爵はロンドンから逃れでた。十年ぶりに訪れたクィーンズホーは愛する祖母との思い出に満ちていた。庭園には小さなギリシャ神殿があり白い柱にもたれる一人の少女と出会う。初対面にもかかわらず、彼女は公爵の夢を見ていた、と告げる。この屋敷にいた若き日の姿が不思議な波動で再現されている、と。途方もない話に、公爵は笑いとばした。だが、様々な事件が解決されるのを見て次第に引きこまれていく。
僕たちは殺人者になることを恐怖した。ゲーム感覚でオヤジを狩る高校生たち。土下座する謎の覆面男。格闘技道場に通う美少女。昔日の女相撲力士「あばらおり」。なぜ僕たちは暴力をふるわずにいられないのか…。暴力とそれを生み出す人間の闇を描き出す。第11回朝日新人文学賞受賞作。
バブル崩壊で会社も金も失い、妻子とも別れたろくでなしの中年男城所安男。心臓病を患う母の命を救うため、天才的な心臓外科医がいるというサン・マルコ病院めざし、奇跡を信じて百マイルをひたすらに駆けるー親子の切ない情愛、男女の哀しい恋模様を描く、感動の物語。
ヒコクミンは処刑せよー暗躍する秘密結社・千年王国の辣腕エージェント、ジャック・アマノは、ある処刑の執行を機に組織に疑問を抱き始める。殺された二人は無実だったのか?千年王国に反旗を翻す伝田家麿の正体は?国家の危うさと時代の深淵を鋭く描く長編ミステリー。
もう若くはないけれど、落ち着いた生活がある。このまま穏やかに年をとっていくことに何の不満もないはず。けれども、ふと感じる空虚感を埋めるように、どこからか微熱のように生じてくる、この甘やかな欲望はなにー。過去に想いをめぐらせれば、はかないときめきをともなって、官能的なまぼろしが幻灯のように立ちあがる。女の心とからだをファンタスティックに描いた短編集。
覚えたてのセックスにはまってた、あたし。ある日の下校途中、薔薇の花束を抱えて派手な女が待っていた。おやじの愛人=由美。そのときから、由美との奇妙な関係が始まった。あたしは学校をふけて、彼女の部屋を訪れるようになったー「熱帯植物園」。“研究”のために同級生と寝たり、自殺に悩んだり、アルコールに浸ったりする、少女たち。クールな10代の性を描く、R指定の処女作品集。
若い女性と燃えあがるような情交を愉しむ。妻の体の奥底まで追求する。男は会社を退き、都市と故郷を往復する気ままな暮しをおくっていた。或る日、河内亜紀と出会う。どこか謎めく女。その躯に惹かれ、逢瀬を重ねた。自宅には、ビジネスの世界で活躍する妻・治子が待つ。彼女も、夫に応じ、開かれてゆく。田園と都会、愛人と妻の間を揺れ動く日々。そして、一片の疑惑。渾身の長編小説。
花屋で働く年下のボーイフレンド、あるおは、逢うたびに同じことを話す。彼はものを憶えられない「病気」だった。あたしは、あるおに抱かれながら、たとえ彼が意識の上で完全にあたしを忘れてしまう日が来ても、それでいいと思うー。性愛を通して人の存在のもろさと確かさを描いた「あたしのこと憶えてる?」、ゼリーにからだをもてあそばれる「ときどき軽い」など、大胆で繊細な九篇。
予備校受験のために上京した受験生・孝史は、二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、そこはなんと昭和十一年。雪降りしきる帝都・東京では、いままさに二・二六事件が起きようとしていたー。大胆な着想で挑んだ著者会心の日本SF大賞受賞長篇。
離婚した妻への未練、やり場のない欲望を抱えながら、マンションの部屋中にタイルを敷き詰める男。金と時間を持て余し、盗聴器に聞き入る老人。タイル貼りの異様な部屋に招かれた女流作家の目の奥で、危険信号が激しく点滅しはじめたー。都会にひそむ狂気と殺意を描きだして絶賛されたホラー純文学の傑作。
徳正の右足が突然冬瓜のように膨れ始め、親指の先から水が噴き出したのは六月半ばだった。それから夜毎、徳正のベッドを男たちの亡霊が訪れ、滴る水に口をつける。五十年前の沖縄戦で、壕に置き去りにされた兵士たちだった…。沖縄の風土から生まれた芥川賞受賞作に、「風音」「オキナワン・ブック・レヴュー」を併録。
天命により慶の国、景王となった陽子は民の実情を知るために街へ出た。目前で両親を殺され芳国公主の座を奪われた祥瓊は、父王の非道を知り自らを恥じていた。蓬莱から才国に流されてきた鈴は華軒に轢き殺された友・清秀の仇討を誓った。それぞれの苦難を抱いて三少女はやがて運命の邂逅の時を迎えるー。
思うままにならない三匹の豺虎を前に自らの至らなさを嘆く景王・陽子の傍にはいつしか祥瓊、鈴、二人の姿があった。“景王に会いたくて、あなたは人人の希望の全てなのだから”陽子は呪力をたたえる水禺刀を手に戦いを挑む。慶国を、民を守るために。果てしない人生の旅立ちを壮大に描く永遠の魂の物語。