2000年発売
だれも祝ってくれない誕生日。孤独をかみしめながら、その日彼女は無惨に殺された。現場に残されたダイイング・メッセージが事件の鍵を握る「夜更けの祝電」。不幸な結婚のせいで自殺した友人のため、復讐を企てた女の思い詰めた気持ちが切ない「早朝の手紙」。その他いずれ劣らぬ難事件を、東京地検主任検事、霞夕子が華麗に推理する。
見失っていた。本当に手に入れたいものを。出所したばかりのスリは家に戻れなかった。オケラになった占い師は途方にくれていた。なにかに導かれるように、二人はひとつ屋根の下で暮らし始めた。スリが手を伸ばそうとし、占い師の抜き取ったタロットのカードと交錯した、そのとき二人は身も心も引き裂く嵐に巻き込まれていた。ストーリーテラーの名品。
大橋賢三は黒所高校二年生。周囲のものたちを見返すために、友人のカワボン、タクオ、山之上らとノイズ・バンドを結成する。一方、胸も大きく黒所高校一の美人と評判の山口美甘子もまた、学校では「くだらない人たち」に合わせてふるまっているが、心の中では、自分には人とは違う何かがあるはずだと思っていた。賢三は名画座での偶然の出会いから秘かに想いをよせていたが、美甘子は映画監督の大林森にスカウトされ女優になることを決意し、学校を去ってしまう…。-賢三、カワボン、タクオ、山之上、そして美甘子。いまそれぞれが立つ、夢と希望と愛と青春の交差点!大槻ケンヂが熱く挑む、自伝的大河小説、感涙の第2弾。
あたりを払って誇り高く咲くキレンゲショウマ。「私はこの花に会うため、お山さんに来たのではないか」珠子は心打たれた。吉野川沿いの養護施設で育った珠子は、十五歳で霊峰・剣山にある神社の神官の養女となる。清澄な自然を背景に、無垢な魂を持ち続ける少女の成長と恋を描き、新鮮な感動を呼ぶ長編。
剣道達人のトンキチが通う高校の裏手に、通称“神隠しの森”と呼ばれる立入り禁止エリアがある。そこで行方不明事件が続出しているのだ。トンキチの両親も“向う側”へ連れ去られた。トンキチは、同級生の聖子、新担任で超常現象研究家と自称する具蓮寺センセー、その姪でやたら色っぽい澄子らと協力し、魔界の“影人”に戦いを挑む…。
ガダルカナル島撤退以降も、ソロモン諸島の攻防は激化の一途をたどる。再び小沢中将の下、参謀長に返り咲いた森は、夜間部隊再建に乗り出す。勢いづく連合軍を迎え撃つには、機動部隊による漸減作戦しかない。幾度となく繰り返される海戦で、森の計画はそれなりの成果を収めていくが、艦隊の損害も徐々に無視できぬほど大きくなりつつあった。これまで森の夜間作戦に苦しめられてきたアメリカ側も、次第にそれに対応しうる力を身につけ始めていたのである。ついに、戦場は-日本の絶対国防圏-マリアナ諸島へと移った。マリアナへ迫りくるスプルーアンスの大艦隊。背水の日本海軍、そして森はいかなる戦いを挑むのか?“漆黒艦隊”史上、最大の激闘!感動の完結篇。
「タ、ターレット?櫓か?」土煙の中から姿を現わした巨大な櫓にドイツ兵は驚愕する。「や、やつら、火星人の兵器を手にしやがった!」オーストリア=ハンガリーの皇太子暗殺に始まった戦争の火花は、欧州にとどまらず、今や世界中に広がっていた。後世、世界大戦の名で呼ばれる戦はすべての規模で桁違いだった。むろん、兵器は言うに及ばずだ。それでもドイツ兵が見上げた兵器は、あまりにも異形であった。三本の脚で支えられた櫓。三脚とは別に金属の触手が無数にうごめく。十四年前、突如、地球に侵攻してきた火星人の兵器をイギリスは手にしていた。第一次世界大戦は一九一八年、ドイツの降伏によって終結する。が、それは混沌の時代の始まりでもあった…。
分身、バーチャルな虚構人格、天然のクローン人間…。最先端科学の成果を取り入れた興味深いテーマ、謎につぐ謎、多重的な論理構成のトリック。1995年、衝撃のデビュー作『僕を殺した女』によってミステリ界の熱い注目を集めた著者が、「もう一人の私」をキーワードとして、冴えわたるトリックを繰り広げる傑作連作集。
短篇の名手が贈る凝縮された作品群「モザイク」第3集。忘れかけていた人生の情景が鮮やかによみがえる。あれは、いつ、どこで見た、なんの模様だったろう-。遠い日の父の記憶を描く表題作など珠玉の小説17篇。
政権安定のため孔子が企てた三都毀壊策。その最終段階の成城毀壊は、成の城宰公斂処父の抵抗にあい、膠着状態に。狂巫に身をやつした悪悦の使嗾をうけた処父は、尼丘に二千の兵を向かわせる。そして、その頃、子蓉も尼丘を目指していた…。中島敦記念賞受賞。
自殺か?他殺か?検察は後者と見た。恋人テリの夫・リッチーの殺人容疑で、なんと辣腕弁護士・クリストファ・パジェットは逮捕される。群がるマスコミ。息子・カーロやテリにも芽生える不信。深まる孤独。証言は次々と覆され、陪審員の心証は日々入れ代わる。そして、息詰まる公判はすべて終わったが…。
売れない女流映画監督クリスは、超インテリの旦那がいるのに、売れっ子批評家ディックに一目惚れ。炸烈したオンナ心は、いつしか怒濤の恋文ストーキングに-。ディックからの返事はくるのか?有名ポストモダン批評家の夫は離婚の危機をいかにして「脱構築」するのか?クリスの愛は成就するのか?前代未聞のポストモダン恋愛小説。
コンサートからの帰路、大学教授のイーサンはコネティカットの田舎道にある寂れたガソリン・スタンドに車を停めた。トイレを借りるため、娘は妻とともにスタンド内へ消えていく。一方、息子は車を出て、道へ歩み始めた。その瞬間、カーブを曲がってきた車が息子を襲った。氷が砕けるような音を響かせ、息子は宙へ飛ぶ。そして、路上に打ちつけられた息子の死体が、夜の道に残された。弁護士のドワイトは運転している車のスピードをあげた。助手席には、野球観戦で疲れた息子が眠っている。離婚した妻のもとへ息子を送り届ける途中、門限に間に合わせるため、近道へとハンドルをきった。カーブが終わったその瞬間、目の前に少年の姿が…。鈍い衝撃を感じながら、ドワイトはそのまま車を疾駆させた。夜に沈む道を。息子を轢き殺されたイーサンは、憎むべき犯人を追い始める。罪悪感に苛まれるドワイトは、窮地に追い込まれていく。事故がひきがねとなり、双方の家族は崩壊し、二人は平穏な日常から悲劇が待つ亀裂へ堕ちていく。やがて、互いの運命が交錯する時、物語は終局に向けて加速する。人間心理を深く抉り、全米各書評紙誌に絶賛された出色のスリラー。
19世紀後半のイングランド。ケンブリッジ大学で歴史を教えているコーティンは、旧友に招かれ、大聖堂のある町サーチェスターに住む彼のもとを訪れた。コーティンがここに来た目的は、もうひとつあった。アルフレッド大王に関する貴重な史料が大聖堂の附属図書館にあることがわかり、それを調べたいと思っていたのだ。その夜、彼は旧友から、大聖堂で250年前に起きた殺人事件と、その被害者が今、幽霊になってさまよっているという話を聞く。その殺人事件はいまだに解決していなかった。コーティンは興味を抱くが、数日後、知り合いになったばかりの老銀行家が何者かに殺されるという事件が起きた。やがてコーティンは、過去の殺人と現在の殺人が織りなす悪夢のような迷宮の世界に踏み込んでいく…。趣向を凝らした構成と、幾重にも重なる謎。騒然たる話題を呼んだ『五輪の薔薇』の著者が放つ知的興奮に満ちたミステリ。
横浜の公園で進学塾帰りの女子高校生が刺殺された。残されたノートには「55」という謎の言葉が記されていた。ルポライター浦上伸介は事件の取材に動き、被害者が半月前、姫路で偶然ある事件を目撃していたことをつきとめる。浦上がダイイングメッセージ「55」の意味を解き明かしたとき、女子高校生殺しの犯人として意外な男が浮かび上がってきた。しかし容疑者には、姫路で事件が起きたとき秋田新幹線に乗車していたという鉄壁のアリバイがあった。姫路-秋田間に横たわる時間の壁を、浦上は破ることができるか。