2001年9月発売
ドイツの音楽大学で教鞭をとるぼくに、一枚のディスクが持ち込まれた。ブエノスアイレスで活動するというそのオルガニストの演奏は、超絶的な技巧に溢れ、天才の出現を予感させたのだが…。最上の音楽を奏でつづけるために神に叛いた青年、そして哀切な終焉。バッハのオルガン曲の旋律とともに、音楽に魅入られし者の悦びと悲しみを描出する第10回ファンタジーノベル大賞受賞作。
2030年。玉井潔は、60年前の“あの事件”のために死刑判決を受けた後、釈放された過去を持つ。死期を悟った彼は、事件の事実を伝え遺すべく、若いカップル相手に、自分達が夢見た「革命」とその破局の、長い長い物語を語り始めた。人里離れた雪山で、14人の同志はなぜ殺されねばならなかったのか。そして自分達はなぜ殺したのか…世を震撼させた連合赤軍事件の全容に迫る、渾身の長編小説。
神社爆破と警官殺害で独居専門棟に収監された過激派政治犯Sは、その処遇をめぐり「担当」と呼ばれる看守部長と常に対立。苦情を申し入れても却下され、リンチ同然の暴力を受けるなど絶対服従を強いられた。小説を書くことで生きる望みを見出すSはやがて、看守も所詮、刑務所という閉鎖社会でしか生きられぬ「囚人」に過ぎないと考える。凄まじい獄中描写が大反響を呼んだ問題作。
憤怒ーそれを糧に、ボブは追う。別れた妻を惨殺し、娘を連れ去った残虐なカルト集団を。やつらが生み出した地獄から生還した女を友に、憎悪と銃弾を手に…。鮮烈にして苛烈な文体が描き出す銃撃と復讐の宴。神なき荒野で正義を追い求めるふたつの魂の疾走。発表と同時に作家・評論家の絶賛を受けた、イギリス推理作家協会最優秀新人賞受賞作。
「動くな」。終電帰りに寄ったコンビニで遭遇したピストル強盗は、尻ポケットから赤ちゃんの玩具、ガラガラを落として去った。事件の背後に都会人の孤独な人間模様を浮かび上がらせた表題作、タクシーの女性ドライバーが遠大な殺人計画を語る「十年計画」など、街の片隅、日常に潜むよりすぐりのミステリー七篇を収録。
維新後も龍馬の妻として生きたお龍。三味線を抱いて高杉晋作の墓守を続けるうのー。幕末動乱の時代に、駆け抜けるように死んでいった志士を愛してしまった女たち。新しい時代にとけ込めず、世間から逃げるように生活する女たちの胸の中に生き続ける男の姿。その想い出が鮮烈であるがゆえに悶え苦しむ女たちの悲しい物語。
失踪した男の捜索を依頼された上海生れの浦上隆志。男の行方を追ううち、浦上は日中戦争の裏面を探る運命に迷いこむ。激動の歴史に隠された出自の謎を識る感動の長編快作。多感な青春を描く著者自伝的作品「青雲の軸」を併録。
偶然か故意か?次々に不慮の死をとげる米国の名門一家。「一年のあいだに家族5人もが変死するなんてぜったいにおかしい」謀殺説を信じて調査にのりだしたうれっ子ニュースキャスター。彼女の行くてをはばむものは?世界の見えないところで、こんな恐ろしいことがおこなわれている。
アカザ・クリスティーの代表作として、またミステリー史上最大の問題作として知られる『アクロイド殺害事件』の犯人はその人物ではない-文学理論と精神分析の専門家バイヤール教授が事件の真相に挑戦、名探偵ポワロの「妄想」を暴き出し、驚くべき(しかし十分に合理的な)真犯人を明らかにする。「読む」ことの核心に迫る文学エセーとしても貴重なメタ・ミステリー。