2001年発売
過去を持たず、空虚な存在として生まれた精神科医ジャックモール。その精神分析は、他者の欲望・願望を吸収して自己を満たすために施される…本書は、軽みとペシミズムが同居するいつもながらのヴィアン風味を保ちながらも、後者により比重のかかった著者最後の長篇小説である。ジャックモールのうつろで行き場のない姿を、発表後50年経った現在を生きる若者に重ね合わせてみるのも、決して無謀な試みとは言えないだろう。
打ちのめされても絶望しても、生きていれば愛にめぐりあう。学業を途中で投げだしたウブな乙女が男だけの修羅場に乗りこんで…彼女が花火だと思ったのは戦場の砲火だった。平和に慣れきった目に映る、まさかの連続。這いつくばって逃げ延びた彼女に残されたものは…。ぎりぎりの愛の強さと純粋さ。あなたの知らない世界がここにある。増えつづけるダニエル・スティールファン必読の傑作。
北朝鮮の女性将校で美人パイロットの柳英姫は、大連に留学した時に日本人商社マンの西山哲男と知り合い、恋仲になる。哲男への思いを募らせる英姫は、ソウル奇襲作戦に参加し、そのまま亡命することを決意した。一方、哲男は台湾人の叔母から、旧ソ連の怪鳥艇に関する極秘文書を託されていたが、その書類を入手しようと、中国のスパイが彼の周辺に出没する…。
韓国に亡命し、インド空軍外人部隊へ出向した柳英姫は、怪鳥艇の謎を知る哲男と再会するが、二人は、北朝鮮、中国の双方から執拗な襲撃を受ける。一方、ロシアのカスピ海に「鷲の息子」と呼ばれる強襲上陸艇があることを突き止めた中国軍は早速、その売買契約に着手。英姫と哲男も、中国の契約を阻止すべく、カスピ海へ…。アジア情勢に詳しい著者が挑んだ“大冒険ラブロマンス”。
九州制覇、文禄・慶長の役と、後半生を常に戦場で過ごしてきた薩摩の太守・島津義弘は、政局を読み取り、敵の作戦を察知する才に長け、大胆な攻撃で敵を打ち破る戦略家として、内外に恐れられた。小心者の徳川家康、官僚主義者の石田三成、保身に走る兄・義久という思いきった人物設定で、戦国武将の内面に鋭く迫り、現代の指導者たちにも熱い共感を呼んだ大作。柴田錬三郎賞受賞。
秀吉の朝鮮出兵後、景気は急速に衰え、戦後不況が猛威を振るう中、戦国末期の日本は、東西両軍が対峙する関ヶ原の戦いで活路を見出そうとしていた。薩摩の太守・島津義弘は兵力不足にもかかわらず、わずかな家臣を引き連れて関ヶ原へ向かう。劣勢を承知の上で戦いに挑んだ義弘の真意とは?現代政治の不毛と重ね合わせながら「関ヶ原」を再現し、指導者のあるべき姿を示した傑作。
ポルトガル語圏初のノーベル賞作家が独自の文体で描く異色作。孤独な戸籍係の奇妙な探求を通して、人間の尊厳を失った名も無き人の復活劇を描く! ●『あらゆる名前』は一見、この上なくシンプルなプロットの動きの少ない小説である。しかし、そのなかにはカフカに通じる官僚化する現代社会を見つめる視点や、人間と人間との関係について、そして背景には、やはり歴史的につくられたポルトガルの風景や言葉などがある。あるいは、あるひとりの人を追い求め人間の心の内を心理学的コンテクストで読むこともできるし、他人を求める人間という視点から、他者あっての自分を考える材料ともなり、ひとつひとつの出来事を社会学的視点から解読していくことも、また全体を包括する広い宇宙という観点から哲学的に楽しむこともできる。聞き手がどのような方向から、どのような距離からアプローチしても相応に答えてくれる小説と言える。
暴流。自分も刻々、瞬きする間もなく過ぎる時間とともに、命の暴流の中にいる。ここでなにをしているのか。若く、異様な激しさを潜めた娘に執着し、しかも相手に大した支援も保障もせず、こっそり家庭を保っている。その渇愛と欺瞞の底に、沈んでいる。小説家の中には破天荒に生きた祖父の血が流れていた。著者渾身の長編小説。
高級なモンが食べたいわけやない。おでん、きつねうどん、すきやき、お好き焼き、くじら、たこやき…なのになかなか理想の味に出会えない。せつない。それだけに、それに出会えたときのしあわせ、気の合う異性と顔寄せて「うまいなあ」と言葉かわしながら食べるときの心の弾みは…。人生練れてきた年頃の男の切なさと心ときめきを描く、極上の連作小説集。
お役目とはいえ、今日も“八州廻り”の桑山十兵衛は関八州を駆け巡る。尽きることのない悪党、難事件…。大好評第二弾は、剣豪・千葉周作が、初恋の女性が、捕り物の背後で、彼の心を掻き乱し、微妙な影を落とす。決して恰好良くはない。が、人間味溢れる男やもめのヒーロー・十兵衛の見事な手腕と侠気をお楽しみあれ。