2002年発売
病院で医師から、ウィルを助けられなかったと告げられた。助けられなかった。その言葉は銃弾となってわたしの心臓を貫いた…赤ん坊の頃、実の父親に硫酸をかけられ顔面に大火傷を負ったジョーは、施設にいるところを政界の実力者ウィルに引き取られる。ウィルは慈愛に満ちた養父としてジョーを育て、見事に彼を立ち直らせた。成長したジョーは21歳になり、今はウィルの仕事を手伝いながら、保安官事務所に勤務している。その大恩ある養父ウィルが、ジョーの目前で何者かに射殺される。ウィルの政敵でもある男の娘が誘拐され、その身代金取引を買って出たウィルが娘を保護した直後の出来事だった。養父の仇を討つべく、ジョーは一人真相を追及する。それが、ウィルの、人には知られたくなかったであろう暗い部分を、白日のもとに晒すことになろうとも。そしてその事件が、ジョーに途方もない試練と、大いなる成長を与えることになるとは予想もせずに…2002年度アメリカ探偵作家クラブ賞で最優秀長篇賞を受賞した、感動のミステリ。
生まれてすぐに母を亡くし、貧困の中で父親に育てられたお玉は、高利貸末造の妾となり、上野不忍池にほど近い無縁坂にひっそりと住んでいる。やがて、散歩の道すがら家の前を通る医学生岡田と会釈を交すようになり…。鴎外の哀感溢れる中篇。
山 椒 大 夫 魚 玄 機 じいさんばあさん 最 後 の 一 句 高 瀬 舟 高瀬舟縁起 寒 山 拾 得 寒山拾得縁起 解 説(斎藤茂吉) 森鷗外略年譜 注
家庭があり知識も分別もある、世間に名を知られた中年の作家の女弟子への恋情ー花袋は、主人公の内面を赤裸々に暴き立て、作者自身の懺悔録として文壇に大きな衝撃を与えた、日本自然主義文学の代表作。日露戦争の最中ひっそりと死んでゆく哀れな一兵卒を描いて読む者の胸をうつ小品「一兵卒」を併収。
新しい思想を持ち、人間主義の教育によって不合理な社会を変えて行こうとする被差別部落出身の小学校教師瀬川丑松は、ついに父の戒めを破って自らの出自を告白する。丑松の烈しい苦悩を通して、藤村は四民平等は名目だけの明治文明に鋭く迫る。
岩松家は、新田家、足利家という武家の二大名門の末裔だが、徳川家康の勘気にふれ、「大名格ながら石高わずか百二十石」という不遇をかこっていた。岩松家幕末の当主・満次郎俊純の波瀾万丈の人生を、当時の世相とともに描く痛快時代小説。
行方不明の娘を探してほしいという依頼を受けた私立探偵ゼルプは、女子大生の彼女の生活から手がかりを掴もうとするが、関係者は非協力的、さらに“父”だと名乗った依頼者の男も正体不明だった。そして彼女の知人である医者が殺されたとき、闇に葬られた過去の基地爆発事件が浮上してきた…。ベルンハルト・シュリンクがあの『朗読者』に先だって一九九二年に発表し、翌年ドイツ・ミステリ大賞を受賞した話題の長編小説。
不妊治療、妊娠中絶、出生前診断…。人の「いのち」に関わる日々の中、ボストンの病院で働く女医・久保田春生の悩みは深い。人が神の役割を演じることは許されるのか?生殖医療の現場を舞台に、連続する日本人女子留学生の変死事件を縦糸にして、生き方を模索する女性の姿をミステリー・タッチで描く書下ろし長篇。
中学最後の春、東京からの転校生で、クラスの人気者だった桑島佳史が無惨な姿で発見された。それが、撓田村連続殺人の発端だった。しかも、犠牲者たちの下半身は、村の伝承をなぞるように、噛み切られたかの如き傷跡を残して消え失せている。やがて一連の出来事は、三十年前の忌まわしい事件と同じ様相を呈し始めた-。
その夜、「僕」は、奇妙な名前の強烈なカクテルを飲んだ。ガールフレンドの南雲みはるは、酩酊した「僕」を自分のアパートに残したまま、明日の朝食のリンゴを買いに出かけた。「五分で戻ってくるわ」と笑顔を見せて。しかし、彼女はそのまま姿を消してしまった。「僕」は、わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。失踪をテーマに現代女性の「意志」を描き、絶賛を呼んだ傑作。