2004年3月発売
時代は米ソ冷戦真っ只中、強力なKGBとCIAは、鉄のカーテンを挟んで活発な情報戦を繰り広げていた。一方ポーランドの惨状に心を痛めたローマ教皇は、密かに親書を認めたー政府が抑圧を続けるなら、自分は国民のために教皇の座を捨て、祖国に戻る。教皇の挑戦状にクレムリンは動揺する。ロンドンではCIAの若き分析官ライアンが、英SISに招かれてソ連の経済分析を行なっていた…。
KGB本部地下で、通信将校ザイツェフはどうにも容認できない作戦が進行していることに気付いた。罪のないローマ教皇の命を、なぜ奪わなくてはいけないのか?彼は通勤途中でいつも出会うアメリカ人に近づく。CIAに違いないと睨んだからだ。アメリカ本国ではライアンに期待を寄せるCIA長官が、彼に極秘任務を与え、ライアンは妻キャシーにも言えない作戦に従事することになった…。
製薬会社に勤める恋人、匡と同棲中のひなただが…最近、匡は忙しくてすれ違いばかり。そんなある晩、ひなたはバイト先のレンタルビテオ屋で痴漢に遭遇。しかも、数日後また夜道で襲われかけたところを偶然、元カレの康生に助けられ…。温かい匡の腕に抱かれたくて…でも逢えなくて…ふと揺れてしまうひなたの心。ほろ苦甘い大人の関係は思わぬ方向へと…!?じんわりやさしくショコララブ。
冥府の淵に咲く花“あやめ”。その甘い馥りが妖しく誘う。腐敗していく“鰈”の重さ。酩酊と覚醒のレールを地下鉄は走る。白い肉の深部の“ひかがみ”。その魔がすべてを食らい尽くす。生と死の間に存在する恍惚のエロス。その果てのない闇に迷いこみ、帰途を絶たれた三人の男。
冬休み、夜行列車の旅に出た少年が巻き込まれる誘拐事件(『その石を消せ!』)。幼なじみの少女の行方を追って西伊豆へ向った少年の冒険行(『まぼろしの遺産』)。窮地の兄を救う弟の活躍(『白い時間を追え』)。西村ミステリーの原点がここにある。
終戦直後の大阪の混沌たる姿に、自らの心情を重ねた代表作「世相」、横紙破りの棋風で異彩を放つ大阪方棋士・坂田三吉の人間に迫る「聴雨」、嫉妬から競馬におぼれる律儀で小心な男を描いた「競馬」、敬愛する武田麟太郎を追悼した「四月馬鹿」等、小説八篇に、大阪人の気質を追究した評論「大阪論」を併録。自由な精神で大阪の街と人を活写した織田作之助の代表作集。
冬のヴェネツィア、華やかなパーティのさなかに起きた奇妙な殺人事件。偶然目撃者となってしまった日本人留学生藍川芹は、やがて事件の関係者からの招待状を受け取る。北イタリア山中の巌上にそびえる“聖天使宮”。未公開の美術品に満たされた巨大な正五角形の宮殿を所有するのは、謎めいた伝説に包まれた美しい一族の末裔だった。心ならずもそこに滞在することとなった芹の前に、勃発する凄惨な連続殺人。一族の過去に揺曳するナチズムの影。車椅子の少年に導かれて、絢爛たる地獄を巡る女主人公が最後に見たものは-。
山体の膨張、低周波地震の増加、二酸化硫黄濃度の上昇、動物の異常行動、地下マグマの活性化…。富士山の直近の噴火は宝永四(一七〇七)年。それから三百年近くが経ち、富士山は今、三百年分のエネルギーを蓄えている。
戦乱の続く越後の国。守護代・長尾為景を父とする虎千代は、幼くして母を失し、父に故なくして疎んじられた挙句、養子に出されるも、忠臣金津新兵衛や百姓出の娘松江らに守られて武将の子として成長していく。天文五年(1536)に元服、喜平二景虎と名乗った。後の上杉謙信である。
越中との戦いで討死した為景に代わり守護代となった長兄・晴景だが、凡庸な器量のためか、国内に争乱が続く。宇佐美定行の許で武将としての修業を続ける景虎は、幾多の合戦で勝利し武名を挙げ、次第に兄弟の仲は悪化する。兄との戦いに勝利した景虎は、天文十八年(1549)弱冠二十歳で長尾家当主となり、越後統一を実現する。
領土拡張に積極的な武田晴信と北信・川中島で闘った景虎は初めて敗れた。雪辱に燃える景虎の許へ房州の里見氏から北条氏康の横暴の訴えが届く。小田原城を包囲した景虎は関東管領に就任し、上杉の家督も譲られ上杉政虎と名を改めた。そして永禄四年(1561)に、上杉・武田両軍は雌雄を決すべく川中島で一大血戦を企てることに。
江戸の大川端にある小さな旅篭「かわせみ」。そこに投宿する様々な人たちをめぐっておこる事件の数々。その渦の中に巻きこまれながら、宿の若い女主人るいと恋人神林東吾の二人は、互いに愛を確かめ合い、次第に強く結ばれていく…江戸の下町情緒あふれる筆致で描かれた人情捕物帳。人気シリーズ「御宿かわせみ」新装版第一弾。
小さな宿の女主人るいと、次男坊ながら親代々八丁堀与力の家に生まれた東吾。尋常にいえば縁組の成立するわけがなかったー。二人の“忍ぶ恋”を縦糸に、江戸下町の四季の風物を織り交ぜながら描かれる、人情味あふれる捕物帳。今日も「かわせみ」には様々な人が泊り、様々な事件がおこる。人気シリーズの新装版第二弾。
処女作「墓地で」、芥川賞受賞作品「プレオー8の夜明け」から晩年の名品「真吾の恋人」まで、戦争の記憶をつむぐ全短編二十三。三十年にわたるこの作家の貴重ないとなみを一巻集成。戦後はすでに半世紀をこえ、戦下の記憶は風化するにまかされる。名もなく声なき兵士たちは、何を考え死んでゆき、生き残った者たちは何を問うのか。
真打ちを目前に盲となった噺家の円木、金魚池にはまって死んだ、はずが…。あたりまえの夜昼をひょいとめくると、摩訶不思議な世界が立ち上がる。粋人のパトロン、昔の女と今の女、わけありの脇役たちも加わって、うつつと幻、おかしみと残酷さとが交差する、軽妙で、冷やりと怖い人情噺が十篇。谷崎潤一郎賞受賞の傑作短篇集。
「水雷屯」とは占いでいう多事多難の相。子持ちの後家と恋仲になって実家の呉服太物店から勘当中の信太郎は、ある時義兄・庄二郎から相談を持ちかけられた。なんと妾宅で手形を奪われ、妾も行方不明だという。頼った占いでも「水雷屯」の相が出てー信太郎は義兄を窮地から救えるのか?好評シリーズ第2弾。