2004年3月発売
遠く緑の葉陰に教会の塔が見える。めざすロールベルクの村までは、あともう少しーだが、先ほどから急速に黒い雲が拡がり始め、今にも雷雨の来そうな空模様になった。旅の青年は、街道を離れ、雨宿りを求めて、丘の上の屋敷へ続く道を登り始める。青年の運命は、この時から、大きく変わって行くのも知らずに…。オーストリア・アルプス山麓に美しく建つ「薔薇の家」を舞台に、物語は、ゆっくりと、急ぐことなく、静かに進んで行く。やがて押し寄せてくる激しく深い感動…。トーマス・マンが「世界文学のなかでも最も奥深く、最も内密な大胆さを持ち、最も不思議な感動をあたえるー」と評した作家の最高傑作。
九歳で父母と別れた主人公ズラブは田舎のオルガおばあさんの許、イリコとイラリオンという、はちゃめちゃなおじたちと日々を過ごす。そして十七歳、首都トビリシで下宿先から大学に通う学生生活。卒業しておばあさんの家に戻ってみると…。「私は自由が欲しかった。そのために笑いを選んだんだ」と述懐する作者自身の体験に基づく、笑いに満ちたビルドゥングスロマン。一九五九年に発表されるやロシア語への翻訳、映画化と、ひとびとの圧倒的な支持を受け、特異なユーモア作家の地位を不動のものにした半自伝的作品。
ヴェトナムに行った男、行かなかった男、裏切った女、裏切られた女、二人の夫を持つ女、待ち続ける男…30年ぶりの同窓会に集う男と女。まだハッピー・エンディングをあきらめたわけじゃない。1969-2000感動のクロニクル。
及川恭子、34歳。サラリーマンの夫、子供二人と東京郊外の建売り住宅に住む。スーパーのパート歴一年。平凡だが幸福な生活が、夫の勤務先の放火事件を機に足元から揺らぎ始める。恭子の心に夫への疑惑が兆し、不信は波紋のように広がる。日常に潜む悪夢、やりきれない思いを疾走するドラマに織りこんだ傑作。
九野薫、36歳。本庁勤務を経て、現在警部補として、所轄勤務。7年前に最愛の妻を事故でなくして以来、義母を心の支えとしている。不眠。同僚・花村の素行調査を担当し、逆恨みされる。放火事件では、経理課長・及川に疑念を抱く。わずかな契機で変貌していく人間たちを絶妙の筆致で描きあげる犯罪小説の白眉。
身分を隠して江戸を発ち、国許へ向かった大名の姫君をお護りせよ。主君根岸肥前守の密命を受け、東海道を西進する隼新八郎。箱根では五人の追手が斬りかかり、宇津ノ谷峠では虚無僧姿の刺客が現れる。容易ならざる道行きには意外な結末が待っていた。大人気「はやぶさ新八」シリーズが新たな旅に出立す。
N大学医学部に在籍する小鳥遊練無は、構内で出会った風変りなお嬢様に誘われて「ぶるぶる人形を追跡する会」に参加した。大学に出没する踊る紙人形を観察し、謎を解こうというのだが…。不可思議な謎と魅力的な謎解きに満ちた「ぶるぶる人形にうってつけの夜」ほか、魅惑の七編を収録した珠玉の第三短編集。
牧師の息子ボビイは、ゴルフの最中に崖下に転落した瀕死の男を発見した。男はわずかに意識を取り戻すと、ボビイに一言だけ告げて、息を引き取った。「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」-幼なじみのお転婆娘フランキーとともに謎の言葉の意味を追うボビイ。若い男女のユーモアあふれる縦横無尽の大活躍。
米国が極秘開発中の生物兵器・ナイトメアが奪われ、新種のドラッグとして日本に流入した!人間の能力を増幅させるが、瞬時に未知の物体に変態してしまう未完成のものだ。当局は、軍事顧問の牧原に事態収拾を依頼する。異色バイオ・スリラー。
北陸敦賀の旅の夜、道連れの高野の旅僧が語りだしたのは、飛騨深山中で僧が経験した怪異陰惨な物語だった。自由奔放な幻想の中に唯美ロマンの極致をみごとに描きだした鏡花の最高傑作『高野聖』に、怪談的詩境を織りこんだ名品『眉かくしの霊』をそえておくる。
ヒースクリフと再会した夜、キャサリンは女児を出産、入れ替るように死ぬ。遺された娘もキャサリンと名付けられ、ヒースクリフは着々と両家を手中に収めてゆく…。発表当時から「ページを繰るのももどかしいような面白さ」と評された名作の新訳。