2004年5月発売
伯母の家に預けられた村の子の眼に映る周囲の人びとの物狂いの世界を綴る「白痴群」。ともに五十歳近い初婚夫婦が、一匹の兜虫の生と性のすさまじさ、むごさを見ながらその死を看取る「武蔵丸」(第27回川端康成文学賞受賞)。他に「狂」「功徳」「一番寒い場所」など、「書くことは、私には悲しみであり、恐れである」という著者の、業曝しの精神史としての私小説6篇を収録。
病院の崩壊事故にともなう死傷事件の公判直前。手抜き工事の黒幕バラギュラは、証人を片端から消すよう部下に命じていた。ノンフィクション作家コーソは、彼の悪事を暴く本を執筆中だったが、元恋人が、バラギュラの証拠隠滅工作に巻き込まれ瀕死の重傷を負ったと知る。さらに自分の身辺にまで殺し屋を差し向けられ、ついにコーソの憤りが炸裂する!問答無用のサスペンス名編。
ミサイル防衛を凍結する条約に調印すべくロシアを訪問した合衆国大統領夫妻が、ロシア大統領夫妻とともに銃撃を受ける。取り押さえられた犯人は亡命イギリス人の息子。三国合同捜査が開始されることとなり、例によってチャーリーにお鉢が回ってくる。だが、高をくくっていた彼が調べを進めるうちに、尋常ならざる陰謀の構図が浮かび上がってきた…。好評シリーズ、注目の新展開。
ロシア国内にそびえる幾多の壁。入り乱れる各国捜査陣の思惑。相変わらず冷笑的な上司。困難な状況の中、チャーリーは自身のルールを堅持する。“作戦を立てるときは退路を確保し、必ず他人より先を行く”。だが、検証を進めれば進めるほど疑わしくなってゆく人物がいたーナターリアである。すでに冷えかけている関係をなんとか修復したいチャーリーは難しい判断を迫られた…。
クラスの人気者アンドリアが無惨な死を遂げて以来、7歳だったエリーは、姉との秘密を誰にも明かさなかったことを悔やみ続けてきた。犯罪調査記者となった今もー。憎むべき男は姉の命だけでなく、父も母も彼女から奪った。二人は痛手から立ち直れなかったのだ。魔物は近く仮釈放される。エリーは独自に再調査を進め、葬られた真実をネット公開し始める…。
この男とならもうどうなっても悔いはない。地獄の果てまで添い遂げて…。腕のいい友禅師に惚れぬき、足を洗って幸せをつかもうとした刹那、芸者かおるの前に現れた悪鬼の正体とは!?-表題作「柳橋かよい妻」をはじめ、市井に生きる妖艶かつしたたかな女たちが織りなす、美しくも哀しい恋の数々。情緒纒綿たるエロチシズムを秘めて、流麗な筆致で綴り上げられた大江戸色絵巻。著者会心の傑作時代小説。
大学生、海月の裏稼業はプロ風水師。すっかり道楽にのめりこんでしまった父に代わり、二代目として着実に顧客を獲得中だ。そんなある日、飲食店を経営している二代目若社長の芥川から相談依頼を受け、店に赴いたのだが、どう見ても極道な雰囲気で…押し倒された挙げ句、公私共のおつき合いを誓わされ…。暴走気味の愛に戸惑いつつも芥川に惹かれ始めた海月の周辺で、空き巣騒ぎが!?迸る!開運ラブ書き下ろし。
海外青年協力隊の医療チームへの赴任を目前に控えた若き医師・平井は、いかにもヤバそうな色男、真とその美しい弟の実に攫われ、孤島にある二人の住居に監禁されてしまう。ドクターが必要だと言う彼らは、実の体を使った危険で突拍子もない仕事に平井をいざなうのだが…。その夜、平井は兄弟のインモラルな現場を目撃することに…。スリリングな三つ巴愛が炸裂!デンジャラス・エロチカ書き下ろし。
古い村の因習、戦争、家族の歪な内実、人間の業、性の深淵……昭和13年、岡山県北部で起こった伝説の「三十三人殺傷事件」。狂気か、憤怒か、怨恨か。異形の鬼は満月の夜に凶行へと走り出す。
遺書には、先生の過去が綴られていた。のちに妻とする下宿先のお嬢さんをめぐる、親友Kとの秘密だった。死に至る過程と、エゴイズム、世代意識を扱った、後期三部作の終曲にして漱石文学の絶頂をなす作品。
単純明快な江戸っ子の「おれ」(坊っちゃん)は、物理学校を卒業後、四国の中学校教師として赴任する。一本気な性格から様々な事件を起こし、また巻き込まれるが。欺瞞に満ちた社会への清新な反骨精神を描く
兄を頼って南仏からパリに上ったアリスティッド・サカールは、オスマン計画によるパリ大改造に乗じて不動産投機に着目、巨万の富を得ようと目論み激烈な戦いを開始する。修道院から出るまぎわに男と過ちを犯した美貌のルネを、サカールは金目当てで妻に迎えるが、やがてルネは先妻の子マクシムと官能的な不倫愛を深めてゆくのだった…。第二帝政期の華やかな建築・美術・風俗を背景にくり広げられる壮麗なドラマを、鮮烈に描き切ったゾラの傑作小説。
幕末から明治にかけて一刀正伝無刀流を開き、明治維新では勝海舟、西郷隆盛らと親交をかさね、大政奉還後の官軍と幕軍の衝突を防ぐべく身を挺した山岡鉄舟は、剣の人であると同時に、天皇側近の人でもあった。剣豪小説で定評のある著者が、剣の奥義をきわめた鉄舟の「無我」で虚心、その悠然たる生涯を描く。
書店社長の娘が誘拐されるが、間もなく犯人は捕まり、少女は無事保護される。犯人は書店の従業員だったことが判明するが、七年前に妻殺しと放火の罪で服役していたー。男の情状鑑定をめぐり、家庭裁判所の女性調査官と精神医学者が過去の事件を調べていくうちに、意外な事実が明らかになっていく。
たとえ、自分が生と死の境に立っていようとも、人は恋をする。なぜなら…。傷を傷というふうにも表せない男女が魅かれあう姿を通して、人が人を求める気持ち、言葉にできない寂しさを描いた五篇を収録。人を愛することで初めて生ずる恐怖、“聖なる残酷”に彩られた、最高に贅沢な愛と死のシミュレーション。