2004年9月発売
晩餐後、科学者サー・クロード・エイモリーは家の者を集め「この中に極秘書類を盗んだ者がいる」と叫んだ。部屋を暗くしている間に書類を返すことを彼は勧めたが、明かりがつくと殺されていた。彼から国家的大問題について相談したいと言れていたポアロは、真相を追うが…巧みな構成による、同名戯曲の小説版。
「どんなに、おれのまわりを見まわしても、見なれたものばかりだ」。米軍基地の化学研究所に勤める男が、朝起きてから夜寝るまでのことを書き出してみようと思い立つ。家での朝食、通勤風景、米兵たちとのやりとり、時間を盗んで翻訳している小説…何のへんてつもない日常の出来事が一体となって、類例のない小説が誕生した。
直木賞作家が贈る青春グラフィティ。 1978年4月、親の反対を押し切って上京した久雄は、バブル期を迎えた80年代の東京で、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく。眩しくて懐かしい、青春グラフィティ。(解説・豊崎由美)
交通事故で意識障害となった従兄弟と入れ代わる「分身」、乳児取り違え事件が発端となる「渡された殺意」、結婚詐欺師に騙された女に出会う「婚約者」など、“もう一人の私”をキーワードに自分のアイデンティティを揺るがす恐怖を巧みなトリックで描く9篇ー。最先端科学を取り入れ、現代社会の歪みが生み出した人間の深層心理をえぐり出す新感覚ミステリワールド。
いじめられっ子の少女ソフィーを励ますためにあるゲームをはじめたジュリアン。その遊びとは、相手に条件を出されたら、絶対にチャレンジしなくちゃいけなくて、それがクリアできたら、今度は自分が相手に条件を出せる、というもの。二人のいたずらなゲームは大人になっても続けられた。ただ、お互いの「好き」という気持ちだけは告げられることなく…。ヨーロッパ中が夢中になったラブストーリー。
秋原健一、四十三歳、ふつうの会社員。波多野妙子、OLを辞めた三十歳。それぞれに過去の小さくも苦い思いを抱えた男と女は、通勤の京浜急行で出会い、途中下車した駅の蕎麦屋でせいろをすすり、ただテレビを観る。淡く、不思議な甘さに包まれながらー。爽やかな感性の触れあいを描いた表題作他二編収録。日常に潜むふとした喜びやせつなさを掬い取った可憐な短編集。
早稲田大学仏文科教授として学生に敬愛される、西条八十。彼のもうひとつの顔は、当代一流の作詞家である。叙情あふるる童謡、帝都の賑わいを描く小唄。戦時下の庶民を勇気づけた軍歌。そして、日本の新生をともに歓喜する流行歌-。名曲には秘められたドラマがあった。波瀾万丈の昭和とともに生き、1万5000もの詩を残した作詞家の生涯。
大王様、どうぞ永遠にそのままでいらして。わたくしども女こどもは、別の国へ旅立ちますー私の人生を、あんたなんかの思い通りにされてたまるもんか。歪んだ王国の最期を描く、バイアス長編ファンタジー小説。
小劇場演劇のユニット「神戸パラダイス」が公演することになっている姫路城の広場で、劇団の主宰者・永山篤史が死体で見つかった。発見者の桝形浩人は永山とは大学の同級生で、いまは松山で劇団活動をしているが、この日の公演を見るために姫路にきていたのだった。警察の実況検分がつづくなか、公演は予定通り行われた。ところがその舞台を見た桝形は、驚きと怒りで身を震わせた。なぜかといえば…。
少女「六六(リュウリュウ)」には出生の謎があった。大飢饉の直後に生まれ、凄惨なスラム街に育ち、あたかも生まれながらの飢餓の魂をかかえた娘だった。18歳の誕生日が間近かに迫った1980年から物語が始まる。彼女の家は重慶のスラム街にあり、狭い部屋に父母と6人の姉妹兄弟がひしめき合って暮らしていた。末っ子の「六六」は、しばしば余計者、邪魔者として邪険に扱われてきた。家族が住む凄惨なスラム街の様子、作者自身の生身の痛切な体験-影のようにつきまとう男の気配、自らの出生の秘密、恋。人間としとての尊厳を求めてこの町から絶対に抜け出す決意をしたときに運命的に出会う「詩」と才能の目覚め…。飢餓の魂は救われるのか?深い感動とともに読者の魂も癒されていく。