2004年9月発売
1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。
交通事故で意識障害となった従兄弟と入れ代わる「分身」、乳児取り違え事件が発端となる「渡された殺意」、結婚詐欺師に騙された女に出会う「婚約者」など、“もう一人の私”をキーワードに自分のアイデンティティを揺るがす恐怖を巧みなトリックで描く9篇ー。最先端科学を取り入れ、現代社会の歪みが生み出した人間の深層心理をえぐり出す新感覚ミステリワールド。
いじめられっ子の少女ソフィーを励ますためにあるゲームをはじめたジュリアン。その遊びとは、相手に条件を出されたら、絶対にチャレンジしなくちゃいけなくて、それがクリアできたら、今度は自分が相手に条件を出せる、というもの。二人のいたずらなゲームは大人になっても続けられた。ただ、お互いの「好き」という気持ちだけは告げられることなく…。ヨーロッパ中が夢中になったラブストーリー。
秋原健一、四十三歳、ふつうの会社員。波多野妙子、OLを辞めた三十歳。それぞれに過去の小さくも苦い思いを抱えた男と女は、通勤の京浜急行で出会い、途中下車した駅の蕎麦屋でせいろをすすり、ただテレビを観る。淡く、不思議な甘さに包まれながらー。爽やかな感性の触れあいを描いた表題作他二編収録。日常に潜むふとした喜びやせつなさを掬い取った可憐な短編集。
「条件さえ整えば、地球上のすべての人間がよろこんで悪をなす」悪魔にとりつかれた旅人が、山あいの平和な田舎町ヴィスコスを訪れた。この恐るべき考えを試すために。町で最初に旅人と知り合いになったのは、ホテルのバーで働くプリン嬢。田舎町での平凡な毎日にすっかり退屈していた彼女こそ、旅人の計画にどうしても必要な人物だったー。魂の作家が世に問う衝撃作。
早稲田大学仏文科教授として学生に敬愛される、西条八十。彼のもうひとつの顔は、当代一流の作詞家である。叙情あふるる童謡、帝都の賑わいを描く小唄。戦時下の庶民を勇気づけた軍歌。そして、日本の新生をともに歓喜する流行歌-。名曲には秘められたドラマがあった。波瀾万丈の昭和とともに生き、1万5000もの詩を残した作詞家の生涯。
大王様、どうぞ永遠にそのままでいらして。わたくしども女こどもは、別の国へ旅立ちますー私の人生を、あんたなんかの思い通りにされてたまるもんか。歪んだ王国の最期を描く、バイアス長編ファンタジー小説。
小劇場演劇のユニット「神戸パラダイス」が公演することになっている姫路城の広場で、劇団の主宰者・永山篤史が死体で見つかった。発見者の桝形浩人は永山とは大学の同級生で、いまは松山で劇団活動をしているが、この日の公演を見るために姫路にきていたのだった。警察の実況検分がつづくなか、公演は予定通り行われた。ところがその舞台を見た桝形は、驚きと怒りで身を震わせた。なぜかといえば…。
少女「六六(リュウリュウ)」には出生の謎があった。大飢饉の直後に生まれ、凄惨なスラム街に育ち、あたかも生まれながらの飢餓の魂をかかえた娘だった。18歳の誕生日が間近かに迫った1980年から物語が始まる。彼女の家は重慶のスラム街にあり、狭い部屋に父母と6人の姉妹兄弟がひしめき合って暮らしていた。末っ子の「六六」は、しばしば余計者、邪魔者として邪険に扱われてきた。家族が住む凄惨なスラム街の様子、作者自身の生身の痛切な体験-影のようにつきまとう男の気配、自らの出生の秘密、恋。人間としとての尊厳を求めてこの町から絶対に抜け出す決意をしたときに運命的に出会う「詩」と才能の目覚め…。飢餓の魂は救われるのか?深い感動とともに読者の魂も癒されていく。
山奥のクラシックなホテルで、毎秋開かれる豪華なパーティ。その年、不吉な前兆とともに、次々と変死事件が起こった。果たして犯人は…。巧妙な仕掛けで読者に挑戦する渾身の一作。
骨董とは美か、ゲテモノか、はたまた妖怪か?古物に魅せられた3組の男女が幻のお宝を追って、九州の山里から萩、ロンドン、フィレンツェへとさすらいの旅に出た。盗掘や贋作など、なんでもアリの骨董世界に生きる人間たちの泣き笑いを、切なくおかしく描く長編小説。
近江商人の末裔たる誇り高き田舎者にして大隈重信の末弟子、政治家らしからぬ政治家にして専横独裁の実業家、徹底した現実主義者にして時代の理想を追求し続ける者、私の父にして私の宿敵-。果して何者なのか?地縁と血の絆、修羅と栄光の狭間をひたすら生きたこの男は?この男の血を受けた運命から逃れきれないでいるこの私は?最大の「宿命」に挑む長篇小説。
太朗の様子がおかしい。夏だから?奴も恋した?それとも…?予定外の妊娠で子宝を授かってしまった私。母ひとり子ひとりの毎日はにぎやかで、香ばしい。でも、ひと夏の終わりはどこか危うい…。こどもの天国と大人の現実を描く表題作と短篇「ボーイ ミーツ ガール」。