2004年9月発売
『家康はふしぎな人だ。…この人に果して父性愛があったかどうかということである』家康の密命を受け、豪快にして凶暴なその六男松平忠輝を倒すべく秘術を尽す伊賀のくの一とその房術指南役雪ノ外記の闘いを描く「倒の忍法帖」他、多彩な忍法万華鏡全七篇。
偉大な作家たちは、時代に深く沈潜、その時代の「精神」を捕捉し、作品に封じ込めようと格闘してきた。20世紀前半、その努力は頂点に達し、巨大な作品が群生、雄大な山脈となって現れたのだった。仏語圏のプルーストしかり、英語圏のジョイスしかり…。そして独語圏にも驚異的な膂力を持った作家が現れたー名はヘルマン・ブロッホ。ヒトラー登場へと続く時代の危機を、その淵源にまで遡り省察。本書は、その独創的な省察、「価値崩壊」論を背景に、時代風俗の中で“夢遊”する人々を活写する。雄大な構想、精緻な分析、斬新な描写手法は、圧倒的だ。読者は究極、「時代精神」の確かな彫像を見ることだろう。「全体小説」を唱えた巨匠の一大金字塔。
横浜の領事館で暮らす十七歳のベン・アイザック。父を捨て、アメリカを捨て、新宿に向かう。一九六〇年代末の街の喧騒を背景に、言葉、文化、制度の差を超え、人間が直接に向き合える場所を求めてさすらう柔らかな精神を描く野間文芸新人賞受賞の連作三篇。「日本人の血を一滴も持たない」アメリカ生まれの著者が、母語を離れ、日本語で書いた鮮烈なデビュー作。
狂気と正気の間を激しく揺れ動きつつ、自ら死を選ぶ男の凄絶なる魂の告白の書。醒めては幻視・幻聴に悩まされ、眠っては夢の重圧に押し潰され、赤裸にされた心は、それでも他者を求める。弟、母親、病院で出会った圭子ー彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。現代人の彷徨う精神の行方を見据えた著者の、読売文学賞を受賞した最後の長篇小説。
人生は演技だ!どうせつかむならどデカい夢を。冴えない男が国家最高の地位につくまでのスリル満点の冒険。エディ・デービスは売れない役者。エージェントにも馬鹿にされ、食料品店のツケはたまる一方で、にっちもさっちも行かない。ブロードウェーの舞台で端訳をもらってはその日暮らし。エディを励ますのは妻のメアリーただひとり。その妻が妊娠して彼はいよいよ父親になる。たいへんだ!稼がなくては!独裁国への公演旅行が、インディ・ジョーンズも顔負けするような大冒険になるとは!そして、大冒険が導く頂点とは。
「妖怪」はいずこより来るのか…。人の心は闇にあらねども、揺るぎないはずの世界が乱れたとき、その裂け目から恠しきものが湧き出し、取り憑く。他人の視線を畏れる者、煙に常軌を逸した執着をもつ火消し、「海」を忌む小説家…。日常に潜む恐怖を描く十の短篇から成る「京極堂サイドストーリーズ」。
伝説の名女優・神名備芙蓉が二十八年ぶりに復活。伊豆の会員制高級ホテルで三島由紀夫の『卒塔婆小町』を演じ、老婆から美女へ見事に変身してみせる。だがその後、演出家の失踪、ホテルオーナー天沼龍麿の館の放火、芙蓉への脅迫と怪事件が相次ぎ、さらなる惨劇が!?京介の推理が四十年に亘る愛憎を解く。
2024年本屋大賞発掘部門「超発掘本!」に選出されて続々重版中! 「フロッピーディスクやワープロなど、令和の時代ではピンとこない人達もいるであろう 単語が並ぶ作品ですが、謎が謎を呼ぶその展開は、今読んでもガツンと脳みそに 突き刺さる衝撃がありました。(推薦者・ページ薬局 尼子慎太さん) 54個の文書ファイルが収められたフロッピイがある。冒頭の文書に記録されていたのは、出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書きこんだ日記だった。その日記こそが、アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる! 謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドが展開するサスペンスミステリー
白昼、渋谷のスクランブル交差点で爆弾テロ!二千個の鋼鉄球が一瞬のうちに多くの人生を奪った。新興宗教の教祖に死刑判決が下された直後だった。妻が獄中にいる複雑な事情を抱えた刑事鳴尾良輔は実行犯の照屋礼子を突きとめるが、彼女はかつて公安が教団に送り込んだ人物だった。迫真の野沢サスペンス。
36歳の美貌の精神科医・花塚氷見子。その女医に憧れる年下の看護師・北向健吾。二人の恋は徐々に進展をみせるが、氷見子の特定の患者に対する不可解な治療に北向の困惑は深まっていく…。現代の精神医療に光をあてながらキャリア女性の秘められた心の闇に迫る、著者渾身の意欲作。
戒律を冒した神父はそれでも神聖なのか?酒を手放せず、農家の女と関係を持ち私生児までもうけてしまう通称「ウィスキー坊主」は、教会を悪と信じる警部の執拗な追跡を受け、道なき道を行く必死の逃亡を続けていた。だが、逮捕を焦る警部が、なじみの神父を匿う信心深い村人を見せしめに射殺し始めた時、神父は大きな決断を迫られるー共産主義革命の嵐が吹き荒れる灼熱の1930年代メキシコを舞台にした巨匠の最高傑作。
亡くなった叔母の遺品、一幅の風景画を見たタペンスは奇妙な胸騒ぎをおぼえた。描かれている運河のそばの一軒屋に見覚えがあったのだ。悪い予感を裏づけるかのように、絵のもともとの所有者だった老婦人が失踪した…初老を迎えてもますます元気、冒険大好きのおしどり探偵トミーとタペンス、縦横無尽の大活躍。
山寧大学の楊教授が、脳卒中で倒れた。夫人はチベットに赴任中、娘の梅梅は北京で医学院受験に追われている。愛弟子で梅梅の婚約者でもあるぼくは、学部を取り仕切る彭書記から教授の付き添いを命じられた。病床で教授はうわ言を口走り、高潔で尊敬を集める人とは思えぬその言葉にぼくは驚く。どうやら経費の問題、不倫の疑い、何者かにゆすられている節もあった。意識の混濁する教授に翻弄され、迫る大学院入試の準備もできず、ぼくの苛立ちは募る。どんなに学問を究めても役人より格下でしかないと、学者の人生を悔いる教授の激しい憎悪と惨めな姿を目にするうちに、ぼくは自分の進路に疑問を抱く。そんなぼくを梅梅はなじり、去っていく。折りしも北京では自由を求める学生が続々と天安門広場に集まっていた。すべてを失ったぼくは北京へ向かうが…。全米図書賞受賞作家が天安門事件を題材に、非情な現実に抗う人間の姿を描く渾身の書。
発端は航空機の墜落事故だった。その直後に、胸を刺し抜かれた首なし死体がチャイナタウンで発見される。アニマル・セラピーの研究者である晃子は、墜落現場から奇跡の生還を遂げ、自ら事件の渦中に突き進んでいく。そこで目にしたものは…新たなる神話の序曲にすぎなかった!今なお残る吸血鬼の伝説…神話の封印を解く旅が始まる。神秘の歌声を持つ少女を救え。愛と再生のスペクタクル巨編。
市役所に勤務する綾子は28歳。かつての不倫相手を忘れるために見合いを繰り返しながらも、どこか満たされない思いを抱いていた。エリート銀行員、杉下にプロポーズされるが、答えを見つけられずにいる毎日。そこへ、5歳下の従弟、達也が現れて…。幸せをつかむための一歩をふみだそうとする女性の姿を描いた、美しく静謐な物語。
ある朝目ざめると青年ザムザは自分が1匹のばかでかい毒虫に変っていることに気づいた。以下、虫けらに変身したザムザの生活過程がきわめて即物的に描かれる。カフカ(1883-1924)は異様な設定をもつこの物語で、自己疎外に苦しむ現代の人間の孤独な姿を形象化したといえよう。20世紀の実存主義文学の先がけとなった作品である。