2006年2月発売
「ボヴァリー夫人」の後日譚ともいうべき興味あるテーマが、この作品では裏側から眺められて、ひとつの喜劇として辛辣にパロディー化されたが、それとともに人間の愛憎の二重性は、それ自体が1篇の正主題となって、ほとんどモノグラフィー的な探求の対象をなすばかりか、さらにその内部において二重にも三重にも分裂して複雑な様相を示す。
ひくく声をかけて、いきなり女に飛びかかった小平次は、恐ろしい力で首をしめあげ、すばやく短刀で心の臓を一突きに刺し通した。その時、恐怖に引きつった青白い顔でじっとみつめる少女と顔を合わせてしまった。「見られた…。生かしてはおけない」男は江戸の暗黒街でならす名うての殺し屋で、今度の仕事は茶問屋の旦那の妾殺しだったのだ…。色と欲につかれた江戸の闇に生きる男女の哀しい運命のあやを描いた傑作集。
「この世界が腹立たしくってしょうがない。人生の真実なんて、たかが知れている。」ジェイコブ、十九歳。肌にひりつくセックスへの衝動。クスリで濁った頭。身体に染みついたジャズのリズム。この感覚だけが、ジェイコブの真実だ。路上にさまよい暮らすうちに膨れあがった愛と憎しみは、次第に殺意へと転化してゆくー。抑圧に咆哮する魂の遍歴、読む者を焼き尽くす鮮烈な青春文学。
就職活動中の櫂は、耳の不自由なバイオリニスト、沙絵と出会う。同じ大学の3人を加え、5人で「オレンジの会」を結成。忘れられない青春の日々は、友情が恋に変わる季節でもあった。ドラマノベライズ。
流れるような黄金の髪と怜悧に煌く緑潭色の瞳を持つ美貌の貴族シュリルは、隣国の軍人、マクシミリアンに捕らえられた。彼は、妹を死に追いやったシュリルに復讐を企んでいたのだ。シュリルは贖罪のため、マクシミリアンにその身を差し出す。想像したこともない屈辱に翻弄され、貶められるシュリルだったがー。憎しみと禁断の愛に彩られた、官能の美を描く衝撃の耽美ロマン。
高校三年の夏休み、隣家の少年が母親を撲殺して逃走。ホリニンナこと山中十四子は、携帯電話を通して、逃げる少年ミミズとつながる。そしてテラウチ、ユウザン、キラリン、同じ高校にかよう4人の少女たちが、ミミズの逃亡に関わることに。遊び半分ではじまった冒険が、取り返しのつかない結末を迎える。登場人物それぞれの視点から語られる圧倒的にリアルな現実。高校生の心の闇を抉る長編問題作。
定年を迎えたり、親しい友人が亡くなったり、親やきょうだいの法事に集まったりするとき、ふと胸をよぎるのは、幼かった頃のことや、最も輝いていた時期のことだ。人は皆、戻るべき故郷があるというけれど、戻ればそこは、変わり果て居場所さえもままならない。でもまた生きてゆかなければならない。老いに向かう人生の「秋」を叙情豊かに描く短編小説集。
話があるんですー父の葬儀の翌日、一人の若者が訪ねてきた。新潟県警鬼の一課長と呼ばれた父にとって唯一の未解決案件を再捜査しろというのだ。奇しくも時効は葬儀の当日であった。遺品の備忘録に綴られる捜査への飽くなき執念、不審な元同僚、犯人と名指しされた男、そして謎の記号ー父が遺した事件を追って雪の新潟を鳴沢、疾る。
小間物問屋「遠野屋」の若おかみ・おりんの溺死体が見つかった。安寧の世に満たされず、心に虚空を抱える若き同心・信次郎は、妻の亡骸を前にした遠野屋主人・清之介の立ち振る舞いに違和感を覚える。-この男はただの商人ではない。闇の道を惑いながら歩く男たちの葛藤が炙り出す真実とは。
外資系ファンドのゴールドバーグ・キャピタルに勤める野上妙子は、東京支店長の待田顕一から、地熱発電を研究運営する日本地熱開発(地開)の再建を任される。妙子は地開の社長・安藤幸二や研究責任者の御室耕治郎から地熱発電の大いなる潜在力と将来性を説明され、再建の可能性を探る。一方、先進国エネルギー問題会議で、日本は欧米から原子力発電の閉鎖を強硬に求められていた。出席者の川邊勲は、帰国後、総理や“日本原子力の鬼”と謳われた与党の大物・安藤大志郎らと善後策を練るが、安藤は「原発なんぞやめてしまえ」と放言する。安藤の真意はどこにあるのか?最新のエネルギー情報をちりばめて描く大型経済情報小説。石油危機が叫ばれる今、ビジネスマン必読の書。
この男は人殺しですー。仮釈放となった中道隆太を待ち受けていた悪意に満ちた中傷ビラ。いったい誰が何の目的でこんな仕打ちをするのか?孤独な犯人探しを始めた隆太の前には巨大な“障壁”が立ちはだかった…。殺人を犯した者の“罪と罰”の意味を問うサスペンス巨編。