2006年2月発売
裁かれるジャンヌ・ダルクは、ほんとうに神より遣わされし者なのか?国王シャルル七世の寵臣ジョルジュは、自らの地位を脅かしかねぬ女の素性を洗い出そうと心を砕く。そして最後に彼が気づいたある戦慄すべき事実とは…。西欧中世史に材をとった表題作のほかに六篇を収める、才気横溢の傑作短篇集。
若くして成功した夫との新しい生活。だが予期せぬ妊娠に中絶という答を出した時から、夏樹果波の心に異変が起こり始める。自分の中に棲みついた別の女ー精神の病か、それとも死霊の憑依なのか。治療を開始した夫と精神科医の前には想像を絶する事態が待ち受けていた。乱歩賞作家が描く、愛と戦慄の物語。
猫殺しの少年「まー君」と僕はいかにして特別な友情を築いたのか(『熊の場所』)。おんぼろチャリで駅周辺を徘徊する性格破綻者はゴッサムシティのヒーローとは程遠かった(『バット男』)。ナイスバデイの苦学生であるわたしが恋人哲也のためにやったこと(『ピコーン!』)。舞城パワー炸裂の超高純度短編小説集。
中年男パルの頭を吹っとばされた死体は、内側から鍵のかかった書斎で発見された。自殺だろうと思いつつも、現場に到着したパスコーには気になることがあった。普段は頼まれても足を運びたがらない上司ダルジールが早々と駆けつけているのだ。しかも自殺を強く示唆する言動を…だがパルの父親が十年前に同じ書斎で自殺しており、さらにはその自殺の状況と今回の事件があまりにも酷似していることから疑念が生じる。後妻と子供たちの確執、父子二代にわたる因縁、そしてダルジールの過去までが複雑にからみあい、事件は迷宮へと突入してゆく。
グインは、ガウシュ村を襲った「光の騎士団」の跡を追い、彼らの狙いがフロリー母子であることを知る。騎士団を率いる「風の騎士」こそ、誰あろう、元モンゴールの赤騎士隊長アストリアスであり、アムネリスの無念を晴らす人質として、イシュトヴァーンの隠し子を捜索していたのだ。憎しみに燃えるアストリアスは村に火をかけ、いったんはフロリーを捕えるのだが、グインは、リギアの助けを得て、すぐさまフロリーを奪還する。
大店の箱入り娘と咲くことのない恋に落ちた手代が、妾殺しの濡れ衣を着せられた…。暢気同心の長尾勘兵衛は手代を救うことが出来るのか?町人と武士との間に、人情という橋を架けて渡る同心の生き様を、情緒ある筆致で巧みに描く。
殺しの探索から帰ってきた同心の文之介は、好いている大店の娘お春に縁談が持ち上がっていると、隠居の丈右衛門から聞かされ、気が気でない。落ち着きを失くした文之介を心配する仲間の勇七…。そんな折、手習所の弥生に闇の手が迫る。
蘇我家の秘宝がどうなったのか?志摩人は、誰に、どのようにして殺されたのか?千二百余年の歴史を秘めたこのような謎には、利敬としても、極めて興味を掻き立てられる。利敬の手にした蝋燭の揺れ動く淡い光芒の中に、古代衣裳を纏った父と娘の悲劇的な対面の情景が、ぼんやりと浮かんでいる。それは、この世のものとも思われない美しくも異様な眺めであった。
売れないミュージシャン・音無のもとに、アーティストとしてCDデビューする話が舞い込む。これが世に出る最後のチャンスと、音無はアルバム制作にすべてを賭けるが…。自分が、何者でもなかったことに気づいた時、夢は静かに消えてゆく。黄昏の残照のように-。夢、焦り、絶望、そして孤独…、青春の残酷な結末は。
初期の作品一八篇を収めた国木田独歩(一八七一ー一九〇八)自選の短篇集。ワーズワースに心酔した若き独歩が、郊外の落葉林や田畑をめぐる小道を散策して、その情景や出会った人々を描いた表題作「武蔵野」は、近代日本の自然文学の白眉である作者の代表作。
ある日、鼻が顔から抜け出してひとり歩きを始めた…写実主義的筆致で描かれる奇妙きてれつなナンセンス譚『鼻』。運命と人に辱められる一人の貧しき下級官吏への限りなき憐憫の情に満ちた『外套』。ゴーゴリ(1809-1852)の名翻訳者として知られる平井肇(1896-1946)の訳文は、ゴーゴリの魅力を伝えてやまない。
アウステルリッツ戦で負傷し行方不明だったアンドレイが帰還した夜、妻リーザは男子を出産し死亡する。ピエールは愛のない結婚をして妻の不貞で決闘へ。ロストフ家の恋する若者たちは…様々な人生の一方でナポレオンはロシアを屈辱の講和へ導く。
明治の終り、故郷を追われ北九州若松港に流れてきた男と女。二人は最下層の荷役労働者となり、度胸と義侠心で荒くれ男を束ね、波止場の暴力と闘う。男は玉井金五郎、女はマン。男の胸の彫青は昇り龍に菊の花。港湾労働の近代化を背景に展開する波乱万丈の物語。著者は本名玉井勝則、金五郎・マンの長男、実名で登場する。
大好きな人が死んじゃうよりも、世の中にはもっと悲しいことがある…。つらくって一睡も出来なくても、朝は来るし。涙が涸れるほど泣いてても、やっぱりお腹は空くもので。立ち直りたいなんて思ってなくても、時間はいつでも意地悪で、過ぎ去った日々を物語に変えてしまうー。玄関でしか眠れないわたしと、おバカな僕と、優しすぎる彼を繋ぐ「死」という現実。深い慟哭の後に訪れる、静かな愛と赦しの物語。
たとえ世界中の誰もが君を忘れてしまっても、ぼくだけは君を憶えてる!君の存在を証明するのは、ぼくの手元に残されたたった数分の映像だけ。高校時代。優等生だったぼくの心を一瞬にして奪い去った君。大好きで、いつも一緒にいたくて仕方がなかった。なのに、いま、ぼくは君の顔さえも思い出せないんだ…。いったい、なぜ?君はホントに存在したの?-時の裂け目に消えゆく少女と、避けられない運命を変えようと必死にもがく少年の恋を描いた、激しく切ない恋愛小説。