2007年6月発売
無頼の生活に明け暮れた太宰自身の苦悩を描く内的自叙伝であり、太宰文学の代表作である「人間失格」と、家族の幸福を願いながら、自らの手で崩壊させる苦悩を描き、命日の由来にもなった「桜桃」を収録。
妹の婚礼を終えると、村の牧人メロスはシラクスの市めざして走りに走った。約束の三日目の日没までに暴虐の王のもとに戻らねば、自分の代わりに友セリヌンティウスが殺される。メロスは約束を果たすことができるだろうか?日はすでに傾いている。メロスよ、走れ!-身命を懸けた友情の美しさを描いて名高い表題作のほか、「富嶽百景」「駈込み訴え」「東京八景」など、執筆活動の充実ぶりを示す、太宰中期の佳作9篇を収録。
昭和のはじめ、瀬戸内海の小島に赴任したばかりの大石先生と、個性豊かな12人の教え子たちによる人情味あふれる物語。戦争のもたらす不幸、貧しい者が常に虐げられることへの怒りを訴えた不朽の名作。
おれは産業スパイとして研究所にもぐりこんだものの、捕らえられる。相手は秘密を守るために独断で処罰するという。それはテレポーテーション装置を使った地球外への追放だった。傑作ショートショート集!
大政奉還から戊辰戦争へ…。幕末の争乱は最後の激動を見せ、慶応は明治と改元された。中村半次郎、改名して桐野利秋。日本初代の陸軍少将として得意の日々を送るが、国情はなお不穏。征韓論をめぐって新政府は二つに分かれ、西郷は鹿児島に下った。その後を追う桐野、刻々と迫る西南戦争の危機…。城山での壮絶な最期を終章に中村半次郎の後半生を描き、爽快な感動を呼ぶ完結編。
「今に見ちょれ。俺はこの腕一本できっと…」。半次郎の口ぐせだった。姓は中村、鹿児島城下の藩士に“唐芋”とさげすまれる貧亡郷土の出ながら剣は示現流の名手、精気溢れる美丈夫で、性剛直である。時は幕末、ふとした機縁で西郷吉之助に見込まれ、国事に奔走するが、卓抜の剣技は血なまぐさい暗殺を重ね、“人斬り”の異名は、次第に高まってゆく。激動する時代の中に一快男児の熱血の半生を描く、傑作小説の前編。
辻山は探偵事務所に勤める43歳。責任感もありまじめだが、やることはドジばかり。そんな彼が命令された仕事は、あと5日で親のいるアメリカに出発する、元気が過ぎる女子大生直美の監視兼ボディガードとおもり。気づかれないように後をつけるが、あっという間に尾行はばれてしまう。直美に翻弄される辻山の許に、元妻の幸子がギャングに追われ飛び込んで来た。跡取りを殺した疑いをかけられ、狙われているのだというー。
父親の残した傾きかけた小さな船の修理工場を継いだ弘人は、亜裕太、甲と高校時代からの仲間だ。三人はお嬢様大学に通う菜緒と、その親友の裕子と知り合う。菜緒は横浜の老舗ジュエリーショップの娘。最初は反発しあう弘人と菜緒であったが、いつしかひかれあうようになり、お互いなくてはならない存在になっていく。しかし、ひたむきでまっすぐな二十歳の恋には、乗り越えられない障害があったのだ。
16歳の明帆は同級生の藍子と付き合っている。だが二人はすれ違ってばかりで、明帆は藍子の幼なじみの少年・陽に近づいていく。ある日、藍子のアパートが火事で全焼し、藍子も焼死体で発見される。不可解さを感じ、真相を探る明帆と陽だがー。「死んでほしゅうない。おまえに生きていてほしい。おれは、おまえを失いたくないんや」友情でもなく、同情でもなく、仲間意識でもない。少年たちの絆と闇に迫る、著者渾身の物語。
超有名進学校の、さらにエリート中のエリートだけが選りすぐられたクラスが、正体不明の武装集団に占拠された。人質とされた性格最悪の担任教師を救うには、広大な校舎の各所に隠された2,000ものピースを探し出し、パズルを完成させるしかない。タイムリミットは48時間。狂気のパズルは果たして完成するのか?武装集団の目的とは?いま始まる究極の死のゲーム。
僕は《在日韓国人》に国籍を変え、都内の男子高に入学した。広い世界へと飛び込む選択をしたのだが、それはなかなか厳しい選択でもあった。ある日僕は、友人の誕生パーティーで一人の女の子に出会ってーー。
親友を突然うしなった男の子、リストラに晒され、息子に侮蔑されながらも日常に踏みとどまり続ける父、不登校を続ける少年が出会った廃品回収車の老人、女手一つで仕事を抱えながら育てた息子を襲った思いがけない病ー苦しみから立ちあがり、もういちど人生を歩きだす人々の姿を鮮やかに切り取った短篇集。たくさん泣いたあとは、あなたの心にも、明日を生きるちいさな勇気が戻っているはず。
脳の病を患い、ほとんどすべての記憶を失いつつある母・千鶴。彼女の心に残されたのは、幼い頃に経験したという「凄まじい恐怖の記憶」だけだった。突然の白い閃光、ショウリョウバッタの飛ぶ音、そして大勢の子供たちの悲鳴ー。死を目前にした母を今なお苦しめる「最後の記憶」の正体とは何なのか?波多野森吾は、母の記憶の謎を探り始める…。名手・綾辻行人が奇蹟的な美しさで紡ぎ出す、切なく幻想的な物語の迷宮。
若き会社社長の麻生陶子は、誰もが憧れる存在。だが、その美貌とは裏腹に、「完璧な人生」を手に入れるためには、恋も仕事も計算し尽くす女だ。そんな陶子には、彼女を崇拝し奴隷の如く仕える妹の久恵がいた。しかし、ある日から、二人の関係が狂い始め、驚愕の真実が明らかになっていく…。『女神』の著者が「女の心理と狂気」で描く現代サスペンスの傑作。
タイタンの首都メカルーク。市警警部のネルバルと広域宇宙警察の実習生サティが現場で目撃したのは、八体の惨殺死体と「海賊を始末した」という犯行声明だった。いっぽう海賊課刑事のアプロとラテルは、「海賊に間違われた」という同僚刑事セレスタンの通信を受け、貨客船ハウバウアー号に急行する。それは、海賊課の存在意義を葬り去るべく〓(よう)冥が仕掛けた周到なゲームの始まりにすぎなかったー。待望のシリーズ第7作。
1820年、ロンドン。町はずれに捨てられていた赤ん坊を、名門ラヴオール家の当主が連れ帰った。彼はその男の子を最愛の亡妹の生まれ変わりと考えローズと名付け、館の司書との間に生まれた継嗣とした。ローズは両親の愛と無二の親友ハミルトン姉弟の友情に包まれ、何不自由なく育った。だが思春期を迎え、“幸運の娘”の完璧な世界は崩れ去る。男であることを自覚しての激しい苦悩、父の死。財産を狙う親戚に正統な嫡子ではないと非難され、ローズと母は館を追放された。だが、ローズは放浪の旅の果て、ある物語詩に自らの出自究明の希望を見出す。一方、ハミルトン親子は代々伝わる暗号で記されたラヴオール家の年代記の解読を、母は館の図書室に収集されていた謎の詩人メアリー・デイの作品に隠された秘密を探っていく。やがてすべてが解明され、驚くべき事実が明らかに…。気鋭のミュージシャンが、壮麗な領主館を舞台に詩情豊かに紡ぐ、ディケンズ風サーガ。
見目麗しく、知性も備えた娘ミシルは、外祖母からありとあらゆる媚態術と性の技芸を仕込まれていた。彼女の一族「大元神統」は、皇帝の一族に「色」を供することを至高の使命とし、皇太后や後宮を輩出してきた名門なのだ。ミシルは新羅の宮廷に上がるやいなや、純朴で繊細な皇帝の弟・世宗の寵愛を受ける。先には、宮廷での薔薇色の未来が待ち受けているかに見えた。だが、恋に狂った息子の姿を案じた皇太后はミシルを疎み、追放を画策するのだったー世界文学大賞を受賞し韓国で大ベストセラーを記録した官能歴史ロマン。
幼なじみの相棒エヴァンとともに深夜、無人のはずの質屋に忍び込んだダニーは、そこで質屋の主人と鉢合わせしてしまう。逆上したエヴァンが持っていた銃をぶっ放し、ダニーは一人、その場から逃げ去った。そして七年が過ぎた。犯罪世界からは完全に足を洗い、建設会社に勤め、恋人のカレンと同棲するダニーの前に、質屋の事件で刑務所に送られたエヴァンが現れる。事件直後に逮捕されながらも、ついに共犯者であるダニーの名前を出さなかったエヴァンは、それを恩に着せ、自らの犯罪に加担することをダニーに強要する。今の生活を守りたいダニーは拒むが、エヴァンはカレンを脅すことで圧力をかけてきた。ついに屈したダニーは、エヴァンの誘拐計画に力を貸すことになる。だが、誰も傷つけぬようにしようというダニーの思惑とは裏腹に、エヴァンは暴走を始める…自らの人生を賭けた、自らの過去との闘い。信じられぬ輝きを放つ、注目のデビュー作。
運河が縦横に流れ、輝ける硝子の塔が街を見下ろす美しい水の都カモール。この都の秩序は、表の政治を司るニコヴァンテ公爵と、裏社会を統べるカパ・バルサヴィが結んだ秘密の不可侵協定によって保たれている。だが、ちかごろ秘密協定にそむいて貴族を狙う詐欺師集団が暗躍しているという噂があった。その詐欺師集団の正体こそ、天才ロック・ラモーラ率いる悪党紳士団であった。生まれながらにして巧みに人を欺き、変幻自在に姿をいつわり、嘘を真実に見せかけてしまう才能に長けたロックは、力自慢のジャン、一卵性双生児のカーロとガルド、ちびの少年バグら仲間とともに、貴族を相手に大規模なコン・ゲームを仕掛けては莫大な財産を手に入れていた。そんなとき、カパ・バルサヴィに仕える盗賊団の頭たちが、灰色王と名乗る男に次々と殺される事件が起きる。姿を見せずに殺戮を繰り返す灰色王の目的はなんなのか…そしてついに、その魔手がロックの身にも迫る!著者の華麗なるデビュー作。