2007年8月発売
福岡・飯塚の炭坑町。私の小学生時代、町で知らないものはいないひとりの悪童がいた。その少年、信さんは、内向的で漫画を読むことが唯一の楽しみだった私を、ある日、いじめから助けてくれた。直後、その場を偶然通りかかった私の母は、誰もが恐れる信さんに微笑みかけた。その日から、信さんと私はいつも一緒だった。昆虫の群れる樹木の在りかから、鉄人28号の似顔絵まで、信さんは様々なことを教えてくれる遊びの天才でもあった。しかし、そんな日々も長くは続かなかったー。人生という名の野っ原を全力で駈けた少年が、いた。心に青く沁みる、名もなき魂の物語。
夜が更けても誰も部屋に戻ってこない心細さから、フロリーは一人、城の庭へ出た、そこをタリク大公に侍女と間違われてしまう。とまどいながらも世話をするフロリーの献身的な態度に、大公の心身は癒され、それは恋心に変わっていった。しかしそのことがタリク大公の妻の座を狙う、タイス伯爵の娘、アン・シア・リンに知られることになり、フロリーは監禁されてしまう。悲しみうろたえる彼女の前に、マーロールが現われた。
天下の難曲「笑傲江湖」を奏でる者を探し求め、身の証を立てようとする令狐冲。ようやく探し当てた名手は、竹林に住む老婆だった。神秘的なその女性に胸中の悩みを明かすうち、次第に打ち解けていく令狐冲。しかし彼女には恐るべき秘密が…。
江戸町奉行所に“うぽっぽ同心”二人在り。南町に長尾勘兵衛、北町に占部誠一郎。顔も姿も、まこと瓜ふたつにて、違いといえば、眉間の黒子ほどのもの。その“北町うぽっぽ”、妊婦が大八車に轢かれた一件を預かることになったのだが…。
ルージンの卑劣な工作により窮地に立たされたソーニャを弁護したラスコーリニコフは、その後ついに彼女に罪の告白を…。贖罪をうながすソーニャに、彼はつぶやく。「もしかすると、ぼくはまだ人間で、しらみではないのかもしれない…」。全三冊完結。
その年、いくつもの船が海で“何か巨大なもの”に出くわしていた。それは長い紡錘形の物体で、時に燐光を発し、クジラよりもずっと大きく、ずっと速かった。アメリカ海軍から依頼され、追跡行に加わったアロナックス氏は、ついにその怪物に遭遇した。
朝鮮で植民地官僚の家庭に生まれ、敗戦の年に内地に引き揚げた著者は朝鮮を舞台にした作品を何作も執筆している。創氏改名が朝鮮の人々をいかに蹂躙したかを描いた「族譜」。日本軍の民衆虐殺事件が作品の要となる「李朝残影」。いずれも朝鮮植民地支配と日本人の責任を問いかけ、朝鮮民衆の受難を描いた作品として極めて完成度が高い。昭和二〇年八月十五日を主題にした自伝的小説「性欲のある風景」も収録。
「定年になったら、一緒にこの曲を合奏しよう」妻と交わした約束だった。そのために、ピアノを習った。二人の楽しみのはずだった…。突然の訃報、独りきりの家、人生設計の破綻。それでも「大人のピアノ教室」に通い続ける証券マンに、光はさすのか。混乱の中で立ちすくむ時、懐かしい妻の声がよみがえる-。夫婦の愛の物語。
私、高遠寧々、28歳。実はコネ入社だけど、いちおう大手出版社経理部勤務。彼氏なんていなくても、気の合う同僚もいるし、お気楽な一人暮らしを満喫中。でも、そんな平凡な日々にも、不倫、パワハラ、社内イジメなどなど、いろんな事件は潜んでてー。「やってられない」本音満載のワーキングガール・ストーリー。
名古屋地検の検事・千鳥朱子は、秘めた関係にある服飾MD・郷原の誘いを断れず、飛騨へ旅に出かけた。旅行後、名古屋市内で傷害致死事件が発生。朱子の前に現れた参考人は、旅先で知り合った女性・北沢昌代だった。事件の調べを進めると、背後に女子高生売春グループの存在が浮かび上がってきた。-初めて女性検事を主人公に配した「記念碑的作品」が新装版で登場。
アクション炸裂! 事故死した叔父の後を強引に継がされ、MI6の少年スパイとなったアレックス。今度は相次ぐ実力者の死の真相を探るため、雪山に閉ざされた私立学校に送り込まれる。スリリング度満点の第2弾!
ある日の営業を終えたサラリーマン西谷久太郎を突如襲った大地震。震源は東京湾北部、マグニチュード七・三。高層ビルのエレベーターに閉じこめられ、ようやく脱出した西谷が目にしたものは…。リアルなデータと情報を満載した実用的シミュレーション小説。
天才と賛美される料理人・グレゴアは、人目を避けるかのように森の中にひっそりと佇むレストランを経営していた。人づき合いが苦手で、趣味も生きがいも料理だけ。そんな孤独な暮らしをしていたグレゴアは、ある日、一児の母であるエデンに出逢ったことで、人生に新たな光を見出していくー。ドイツ映画『厨房で逢いましょう』を5編の短篇に編み直したほろ苦い小説集。
囲碁の口論から父を惨殺した笠原孫七郎を追って三十年。信州松本藩の夏目半介は仇討ち費用を人に貸して生計を立てる江戸暮らし。ふとなじんだ娼家のお君の、熟れた体に激しく溺れた。そのお君が悪事を犯しただんなと江戸を出奔、半介は後を追うが、その男こそ…。「うんぷてんぷ」以下、江戸時代の仇討ちをテーマとする八編を収録。仇討ち制度の非人間性と、それに翻弄される人間たちの運命を鮮やかに描く珠玉作品集。
今日、パパが死んだ。昨日かもしれないけど、私には分らない。そんなこと、どっちでもいい。何しろ私のパパは、仕事、仕事で、1年のうち半分は外国を飛び回っている。そんなパパをいわば子供らしく愛せと言われたって無理な話だ。でも私は知っている。本当は、ママがパパを殺したんだっていうことを…。父の死。莫大な遺産をめぐる争い。母の若き婚約者の出現。やがて、13歳の少女、有紀子に残酷な殺意の影がー。
一度しかない16歳の夏、私とママは再び海辺の別荘にやってきた。3年前にあの「事件」が起こった場所だ。ママも私も事件のことは口に出さず、毎日が穏やかに過ぎてゆく。ところが1週間後、私とそっくりの服を着た少女が目の前で殺された。そして次々と届けられる奇怪なメッセージ。誰かが私の命を狙っている…?『殺人よ、こんにちは』から3年、過去の秘密を胸に抱き、ユキがあの海辺に帰ってきた。
晁蓋、暗殺の危機 廬俊義が塩の道を再開しようとしていた。青蓮寺の探索を攪乱するため、晁蓋自らが指揮を執り、史進、朱仝らとともに出陣する。しかし晁蓋に暗殺者・史文恭の魔手が迫るーー。(解説/岡崎由美)
28歳の若き研究者、瀬戸口の計算式は、マグニチュード8規模の直下型大地震が東京に迫っていることをしめしていた。十年前の神戸での震災、あのとき自分は何もできなかった。同じ過ちを繰り返したくはない。今、行動を起こさなければ…。東京に巨大地震が起こったら、高速道路は、地下鉄は、都心のビル街は、いったいどうなるのか。最新研究に基づいてシミュレーションした衝撃の作品。
「水パイプの中の恋と冒険の物語」「優美な宮殿の美しい二姉妹の物語」「坊さんも気絶するナス料理の物語」「ミナレットが空を飛び魔神を滅ぼす物語」…。タイトルだけでも心が躍る、楽しく夢あふれるファンタジー22話。イスラム諸国を幅広く訪ね、その歴史と文化を肌で体験した著者が、愛と薀蓄をこめて贈る、清水義範流・傑作千夜一夜物語。物語に酔いながら、イスラム世界を旅する心地ー魅惑的な作品集。