2008年発売
「大事な人の死は、たぶん決して忘れることはできませんー」ラジオ局で深夜の番組を担当する快活な妹・和貴子と、卒業後も大学に籍を置き続ける勤勉な姉・菜穂子。北の街を舞台に対照的な二人の微妙な距離が丁寧にたどられていく。掛け違ったままのそれぞれの想いの行き着く先はー。清冽な感動を呼ぶラスト。
東シナ海に浮かぶ伊栗島に駐屯する自衛隊の基地で、訓練中に小銃が紛失した。前代未聞の大事件を秘密裡に解決する任務を負い、防衛部調査班の朝香二尉とパートナーの野上三曹が派遣される。通信回線というむき出しの「神経」を、限られた人員で守り続ける隊員達の日常。閉鎖的な島に潜む真犯人、そして真実はどこに。
3人の老婦人が立てつづけに惨殺される事件が発生、犯人は14歳の少年だった。5年後、少年院を退院した彼が何者かに襲われる。殺人犯の息子を恐れる母、その母親を担当する女性カウンセラー、事件に関わりつづける刑事と雑誌記者、そして少年と同世代の被害者の孫たち…事件周辺の人々の心の闇が生んだ慟哭のミステリー。
染み抜き屋のつるのもとに、今日もわけありの染みが舞い込んでくる。様々な染みに宿る人生と向き合うつる。たまの息抜きは、長屋の住人たちが通う「ちぎり屋」の暖簾をくぐること。明治から大正に移り変わる北の街を舞台に、消せない過去を抱えた人々が織りなす人間模様。心に染み入る連作短篇全五篇。
ハンガリーを代表する現代作家エステルハージ・ペーテルによる、ハイブリッド小説。黒い森(シュヴァルツヴァルト)から黒海まで、中央ヨーロッパを貫く大河ドナウ川を「プロの旅人」が下っていく。行く先々から雇い主に送られる旅の報告書は、しかし、旅行報告の義務を軽やかに無視し、時空を超えて自在に飛躍。歴史、恋愛、中欧批判、レストラン案内、ドナウの源泉、小説の起源等々を奔放に語りつつ、カルヴィーノ『見えない都市』を臆面もなく借用するなど膨大な引用(その多くは出所不明)を織り込みながら、ドナウの流れとともに小説は進んでいく……
串中弔士。 彼にとっては全てがゲームーー。 名門女子高校を襲う七不思議殺人事件! 平和だったはずの私立千載女学園で不可思議かつ不可解な殺人事件が起こる。そしてそこに勤務していたのは、こともあろうか倫理教師となったあの串中弔士。病院坂迷路を巻き込んだ事件から14年。探偵ごっこの犯人捜しが再び始動。犯人は一体?!これぞ世界に囲われた「きみとぼく」のための本格ミステリ! なまえ欄 だいいち問 だいに問 だいさん問 だいよん問 だいご問 えんでぃんぐ
幼なじみのロージーとアレックスは何でも話せる親友同士。友情が愛に変わる一線を越えられぬまま、大西洋の両側、ボストンとアイルランドに別れて生きることになる。その後もメールやチャット、手紙で近況を伝えあうふたりだが、近づこうとするたびに運命のいたずらに翻弄され、その距離はなかなか縮まらない。妊娠、就職、結婚、子育て、別れ等を経ていつか四〇年を越える歳月が流れるが…。ふたりの交流が残した記録を通じて描かれる新形式のラヴストーリー。『P.S.アイラヴユー』で鮮烈なデビューを飾ったC.アハーン、前作以上の感動を呼ぶ待望の第二作。二〇〇四年に出版、アイルランド、イギリスでベストセラーとなり、読者投票による二〇〇五年度の独・コリーネ賞を受賞。
嵐の夜、仲間からはぐれて逃げ込んだ小屋で、オオカミのガブとヤギのメイは出会う。暗闇の中、二匹はお互いの姿を見ることもなく、夜通し語り合い、心を通じ合わせる。「嵐の夜に」の合言葉を決めて、翌日、会うことになった二匹だったが、白昼の下、自分たちが「食うものと食われるもの」であることを知る。それでも魅かれ合うガブとメイだったが、天敵同士のオオカミとヤギの群れは二匹に非情な命令を下すのだった。三百万部のベストセラー絵本の著者が、新しいエピソード、異なる結末で描いた小説。
パンクバンド・死怒靡瀉酢の美少女ヴォーカリスト・ミシンは、竜之介の追悼ライヴで最後の曲を歌ったらギターで撲殺するよう傘子に頼む。が、彼女の鈍臭さが原因で死に損なう。死に損なったミシンはバンドを再開、人気は異常なまでにヒートアップするが、ある日のライヴで死人が出たためバンドは休止に追い込いやられる。最高にクールなバンド・ノヴェル。
「どうせなら金を賭けないか? 誰が一番長生きするか」 聡、弘、明男、正輝、博夫、規子の6人は、小学校時代からの幼なじみの76歳。全員ヒマな上、比較的元気なので、時折同窓会を開いている。しかし話題は、暗いものばかり。そんなある日、6人の中でも最も明るくマッチョな明男がそんなラテンな提案をする。皮肉にも、酔狂な賭けを通じて彼らはお互いのことをよく知るようになるのだが……。生と死、老いと人生を切なくもユーモラスに描き、高齢化社会を希望で照らす、ヒューマン・エンタテインメント。賭け金総額五千七百万円、『長生き競争!』ここに開幕。
石川県金沢市の伝統工芸文化館で射殺事件が発生した。死亡したのは、交番勤務の警官・近藤一と警備員の浦田亮介。近藤の携帯していたものも含め、現場から銃が消えているという。警察庁の広域特捜課に勤務する梶山俊介は、部下の叶野幾とともに冬の金沢へ飛ぶ。だが石川県警の捜査は、まったく危機感のないものだった。民俗学に精通した刑事の活躍を描く新・旅情ミステリー。
旧幕府時代は十手取縄を扱い、明治に入っても捕物を生きがいとする「海坊主の親方」こと赤岩源蔵。その異名は、かつて天誅組を追っていたときに左耳を削ぎ落とされたその特異な容貌と相まって称されるが、一本気で豪快ながら、冴え渡るひらめきは、さながら名探偵そのもの。その名解決ぶりに思わず拍手を送りたくなる!本作は、一九七八年、第八十回直木賞を受賞した『大浪花諸人往来』シリーズから、秀作を選りすぐって復刊する全四巻のうちの第二弾。捕物帳作品の中では異色ともいえる明治開化期の大阪を舞台に、当時の社会状況や文化、風俗などが生き生きと甦る。
英国将校の死体が身につけた“機密文書”の真偽を探れ!無条件降伏を突きつけられたドイツ。ヒトラー最後の望みは、地中海沿岸に上陸する連合軍の返り討ちのみ。枢軸国と連合国、史上最大の欺瞞工作が始まった。時代のうねりに引き裂かれる北都昭平とヴァジニアの愛の行方は?傑作長編、イベリア・シリーズ第4弾。
路考お粂と謳われた水木歌仙の下で踊りの稽古に励むお吉。十三で「歌吉」の名をいただいて五年、ようやく大名家の奥向きで踊りを披露するお狂言師の一座に加えてもらえることになった矢先、嫉妬した相弟子に小鋸で頬に一生消えない傷をつけられる。そんな折、公儀の隠密より姉弟子を探れという密命が…。
生命を礼賛する行為には驚くほどに価値がない、生はどこまでも儚(はかな)く朧(おぼろ)で、死はどこまでも切なく幻だ。そしてそれはただそれだけのものでありそれだけのものでしかなく、むしろそこにそれ以上の価値を見出そうとすることこそが冒涜だ。生きること、そして死ぬこと、その両者の意味を誰よりも理解し、そしてその意味に殉ずることに一切の躊躇がない誠実な正直者、つまりこのぼくは、8月、縁故あって奇妙なアルバイトに身を窶(やつ)すことと相成った。それは普通のアルバイトであって、ぼくとしては決して人外魔境に足を踏み入れたつもりはなかったのだけれど、しかしそんなぼくの不注意についてまるで情状酌量してはくれず、運命は残酷に時を刻んでいく。いや、刻まれたのは時などという曖昧模糊、茫洋(ぼうよう)とした概念ではなく、ぼくの肉体そのものだったのかもしれない。あるいは、そう、ぼくの心そのものかーー戯言シリーズ第5弾 第一章 薄幸の少女(薄幸の症状) 第二章 人喰い(人喰い) 第三章 先立つ不考(裂き断つ不幸) 第四章 実体験(実験体) 第五章 癒えない傷(言えない傷) 第六章 不一致(which?) 第七章 戦場吊(千羽鶴) 第八章 執着癖(終着駅) 第九章 無意識下(無為式化) 第十章 壊れる最悪(喰われる罪悪) 終 章 真夏の夜の夢
「わたしは、情報員である前に人間でありたい」。第二次世界大戦下のスペイン・マドリードで、敵同士ながらも愛し合う北都昭平とヴァジニア。二人をつけ回すゲシュタポ将校ハンセン兄弟の魔の手。二人はその愛を全う出来るのか。そして和平への糸口を見つけ出せるのかー。愛と諜報の壮大な歴史サスペンス。
「筋のとおった話は虫が好かねえ」旗本の三男に生まれ、先祖も父も「ばか者」と切り捨て家を出た、岡っ引・半介が活躍する表題作。凶作に苦しむ村人を尻目に米をたらふく食らう村役。それに腹を立てた村の男は、驚きの復讐法を考えた「口増やし」他、全7編。