2009年10月発売
桓武帝に始まる平安京。帝に縁を持つ多治比の女の一族は、遠くから帝を見守り、長く都に想いを寄せ続けた。300年後、桓武平氏が歴史の表舞台に躍り出て、多治比一族に再び希望の光が射したのも束の間ー。栄枯盛衰を繰り返す人間たち。ただ平安京のみが、変わらず栄え続けたが…。桓武天皇から平氏滅亡までを、都という存在に託して語る一大叙事詩。
一五五六年。戦国の大名がいまだ未成熟の時代。勢力図を拡大し続ける戸沢家、児玉家の両雄は、もはや開戦を避けられない状態にあった。後に両陣営の命運を握ることになるその少年・小太郎のことなど、知る由もなかったー。
夫の顔を見分けぬ施設の老妻を哀れみ、年少の小説家がかけた自作への賛辞に驚く。切実な老いに日を過ごす90歳の「私」に、「抱擁家族」「菅野満子の手紙」など、かつて問題作と呼ばれた旧作自著を繙く機会が訪れる。ただ、約束の作品を書きあげ、「今を乗り切る」ために…。小説と、自らの家族の半生を巡り、自在に展開する文学者の強靭な思考を鮮やかに結晶化した遺作/最高傑作。
戦国前夜の奥三河。瞬く間に西三河を支配した松平清康の驍名を聞いた町田城城主・菅沼新八郎定則は、帰属していた今川家を離れる決心をする。清康が卓越した戦術と情義の心で勢力を広げる中、新八郎は戦での働きが認められはじめる。一方、綾という女との出会いから、川原で拾った童子・四郎の出自とその周囲の陰謀が明らかになっていく。知られざる英傑たちの活躍を描く歴史巨編。
脂まじりの雨が降る街を、巨大でいびつな銀色の月が照らしだす。銀天公社の作業員が、この人工の月を浮かべるために、月に添って動くゴンドラで働いている。そこは知り玉が常に監視し、古式怪獣滑騙が咆哮する世界だ。過去なのか、未来なのか、それとも違う宇宙なのか?あなたかもしれない誰かの日常を、妖しい言葉で語る不思議な7編。シーナ的言語炸裂の朧夜脂雨的戦闘世界。
作家モブ・ノリオが五年の沈黙を破って放つ、音楽への愛ほとばしる“レペゼン内田裕也”系書き下ろし長篇「ゲットー・ミュージック」。ロックンローラー内田裕也が過激すぎるメンツをゲストに迎え、86年に「平凡パンチ」で決行した伝説の連載対談「内田裕也のロックン・トーク」。この二冊が合体した、空前奇跡のコラボレーション。
科学捜査の天才リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人の罪で逮捕された。自分はやっていない、とアーサーは主張するも、証拠は十分、有罪は確定的に見えた。しかしライムは不審に思うー証拠がそろいすぎている。アーサーは罠にかかったのではないか?そうにらんだライムは、刑事アメリア・サックスらとともに独自の捜査を開始、同様の事件がいくつも発生していることを知る。そう、姿の見えぬ何者かが、証拠を捏造し、己の罪を他人になすりつけ、殺人を繰り返しているのだ。犠牲者を監視し、あやつり、その人生のすべてを奪い、収集する、史上もっとも卑劣な犯罪者。神のごとき強大な力を持つ相手に、ライムと仲間たちはかつてない苦戦を強いられる…。
彼は毎晩“ガラス張りの檻”から海峡の彼方を見つめていた。男は海峡を渡ってやって来た。平穏な生活を襲った運命の亀裂。霧深い北フランスの港町を舞台に、さまざまな人生が交錯する。生と死、罪と罰、欲望と祈り、幸福と不幸…極限の心理の襞を繊細に描ききって人間の存在の本質に肉迫する、シムノン文学の傑作。
昭和34年9月26日。のちに「伊勢湾台風」と呼ばれることになる未曾有の台風が迫り来る非常事態の中、「一刻も早く家族のもとに帰りたい」と思いつつ、節子は職務を全うするため警察署に留まった。だが、それが人生を大きく狂わせる…。伊勢湾台風が引き裂き、そして巡り合せた2組の母子の行きつく先とは?「あの日、すべての終わりが、すべての始まりでした」。
19世紀のロンドン。人間嫌いの老商人・スクルージは、非情で利己的な商売で隣人や商売仲間からも嫌われていた。そんな彼のもとに、かつての相棒マーレイの亡霊が現れて…。格差が広がる産業革命渦中、イギリスの社会的矛盾に挑み、人間の尊厳を描き続けた文豪ディケンズのベストセラー「クリスマス・ブックス」の一編を漫画化。
「遥と、結婚して欲しいんです」。突然現れて、兄の婚約者になる相手との結婚を求める謎の少年ユウ。その望みを叶えてくれるのならなんでもすると、自分の体を差し出すユウに戸惑いを覚える御曹司の誠二。なぜそこまでして…ユウの目的は?遥との関係は?そしてユウの正体は?ユウが囚われている衰しい過去と現在…ほぐれていく謎の糸とともに、二人の関係も次第に深まっていき…。ピュアラブがここに…。
マサチューセッツ工科大帰りで、人工知能の分野では若き天才の異名をとる研究室助手の水嶋。輝かしい経歴に麗しい容貌…なのに自分のことにはまるで無頓着な水嶋だが、ある日、大好きな紅茶が縁で同じ大学の院生、裕哉と意気投合。超絶美形でその上お洒落、研究室でも噂の的…そんな十歳も年下の青年から懐かれまくりのスキンシップ攻撃で、恋愛オンチの水嶋はつい流されるままに…。ギャップだらけの濃厚鬼畜愛。
暴力団・東明会の金を持ち逃げした男が、軽井沢に潜伏している。金額は五億。東明会はもとより、大金の臭いを嗅ぎつけた危険な連中が、この閑静な別荘地に現れ、血眼になって男の行方を捜しはじめた。かつて新宿で「五人殺しの健」と呼ばれ名を馳せたが、今は軽井沢で別荘管理人として静かに暮らす田口健二のもとにも協力を要請する輩が訪れ、事態は急変する。雪山に乱反射する、欲望、復讐、狂気-すべてが暴力に収斂していく。圧倒的な筆致で現実世界に迫る、馳星周の最新長篇。
お笑い芸人のミナミは、ここ数年ですっかり人気も落ち、今はホテトルの運転手をして暮らしていた。年末のある日、以前、ホテトルで窃盗の嫌疑をかけられ、ミナミに助けられた京子が、お金を返しに来た。ちょうどその頃、お笑い学校の同級生だった友人から仕事の依頼が来ていた。稚内の老人ホームの年越しイベントで漫才をやらないかというのだ。断るつもりだったミナミだが、京子が正月に帰るところがないと聞き、最後の舞台をみせようと、京子を北海道へ誘う。自殺未遂をしたばかりの元相方・サカイ、そしてミナミの父・ハツオも同乗し、4人を乗せた車は27日朝、大阪を出発する。それぞれの思いを乗せ、北海道・稚内をめざして、爆走する車。名古屋〜東京〜仙台と、行く手に待ち受けるさまざまな事件を乗り越え、果たして、大晦日、忘れられた漫才師は、最後の舞台に立つことが出来るのか。