2009年5月発売
男はもうここに戻ってくることはないだろうと女は思ったー。三年間、食事をともにした男との永遠の別離を描く「食卓」他、恋によって炙り出される男と女の孤独が、かなしさとせつなさを孕んでゆらめく十一篇。短篇よりも短い「掌篇小説」には、小さく切り取られているがゆえの微妙な宇宙が息づき、無限の時間へと読む者を誘う。長篇よりもいっそう濃密な闇と静謐な光を湛えた作品集。
産業革命以降、さまざまな商品で溢れかえる現代社会。経済バランスが崩れることが予想されるとしても、なお利益を追求する資本主義社会が抱える矛盾とは?なぜ不況が起こるのか?なぜ失業者が増え、貧富の格差が広がるのか…?『資本論』第1部をベースにした『まんがで読破資本論』の続編として第2部・第3部を漫画化。
春休みなのに…とぼやく三枝のバイト先に突然現れたのは、恋人で華僑の実業家・王。なんと部下の小野や楊も一緒の“社員旅行”のお誘いが…。そうして週末、連れていかれた先は北海道ー完全オフのスキー旅行…デンジャラスな日常を離れ、至れり尽くせりのサービスや料理…と浮かれ気分の三枝だったが…。やはりお騒がせカップル、またもや旅先で命を狙われるハメに…。剣呑ラバーズ激甘ハネムーンの顛末は…。
新人アナウンサーの蒼は、クイズ番組のロケ地エジプトで精悍な美貌をもつ豪族、サラディーンと激しい恋に堕ち、今はともに日本で暮らす仲となった。あれから三ケ月、今度は特番のため再び遺跡にやってきた蒼。取材の最中、暗号の書かれたパピルスを偶然手にして…。謎の紙片は、特殊部隊に属する恋人サラディーンと何かつながりが…?そんな折、蒼たちは砂嵐に巻き込まれ…。蜜色うるうるロマンスミステリー。
材木問屋の若旦那、栄次郎は、絵草紙の作者になりたいと死ぬほど願うあまり、自ら勘当や手鎖の刑を受け、果ては作りごとの心中を企むが…。ばかばかしいことに命を賭け、茶番によって真実に迫ろうとする、戯作者の業を描いて、ユーモラスな中に凄みの漂う直木賞受賞作。表題作のほか「江戸の夕立ち」を収録。
生誕100年を迎え、再び注目を集める無頼派作家、太宰治。その退廃的な作品群の中から、1947年に刊行され、何度も映像化された大ヒット作「斜陽」と、終戦の年から河北新報に連載された佳作「パンドラの匣」を収録した愛蔵版。破滅的とも称される作風で多くのファンを獲得する太宰文学の頂点の文庫化。
世界的な評価を得た画家・宇佐美の個展で、財界の大物である義父を描いた肖像画が、切り裂かれ硫酸をかけられるという事件が起きた。犯人はどうやら少女で、「これは予行演習だ」と告げる。宇佐美の妻は、娘を前夫のもとに残していた。彼女が犯人なのかー。著者の代表作といえる傑作中篇など全3篇収録。
自らの特殊能力ー男をひと目で見抜くーを生かし、東京で女ひとり闇のコンサルタントとして、裏社会を生き抜く女性・水原。その能力は、「地獄島」での彼女の壮絶な経験から得たものだった。だが、清算したはずの悪夢「地獄島」の過去が、再び、水原に襲い掛かる。水原の「生きる」ための戦いが始まった。
その音楽は神のものか、悪魔のものかーカレーの海辺でひとりの熱狂的なモーツァルティアンと出会った伽椰は、情事の果ての長い逃亡生活に終止符を打ち、日本へと舞い戻った。そこで待っていたのは、ケッヘル番号を会員番号とする会員制旅行代理店の奇妙なツアーであり、依頼人の失踪に始まる恐るべき復讐劇の幕開きだった。
ウィーンからプラハ、マンハイム、ベルリンへと、モーツァルトゆかりの土地へアマデウス旅行社のツアーは続き、復讐は重ねられる。モーツァルトしか弾かない美貌のピアニストとの恋が伽椰を更なる悲劇のうねりに巻きこんでいくのだがー過去と現在、複雑に入り乱れた愛と憎しみが生み出した絶望に差しこんだ一筋の光とは。
戦時中の大阪で小さな町工場を興した八谷泰造。財界重鎮の永野重雄を口説いたり、旧満鉄技術者をスカウトするなど、持ち前の大胆さと粘り腰の八谷は、難題を乗り越え、会社を発展させ、ついには世界的な石油化学工業会社「日本触媒」を築きあげたー伝説の経営者を描く経済小説の第一人者、高杉良の名作が文春文庫に初登場。
元OLが営業の仕事で鍛えた話術を活かし、ルイーズ吉田という名前の占い師に転身。ショッピングセンターの片隅で、悩みを抱える人の背中を押す。父と母のどちらを選ぶべき?という小学生男子や、占いが何度外れても訪れる女子高生、物事のおしまいが見えるという青年…。じんわり優しく温かい著者の世界が詰まった一冊。
“犯罪被害者家族の集い”に参加した女性2人の惨殺死体が、東中野の教会で発見された。捜査に当たる刑事たちは“集い”に参加していた中条弁護士が、20年ほど前、14歳の時に同級生を殺害し首を学校の門にさらした猟奇殺人犯だったことを知り驚愕するー。サイコサスペンスに新たな地平を切りひらくド迫力の1700枚。
“犯罪被害者家族の集い”を舞台にした殺人事件の捜査は、暗礁に乗り上げた。被害者の一人、目取真南美の夫・渉の挙動に不審を抱いた大河内刑事には、公安から圧力がかかる。事件の裏には沖縄の悲劇、そして警察内部の腐敗が黒々と横たわっていた。猟奇的殺人者、狙撃者、孤独な刑事の三つ巴の闘いの結末はー。
貞右衛門殺しの容疑で捕らえられた義父・長右衛門。それは、岩田屋勘助の仕組んだ罠だった。岩田屋は自らの権力拡大のため、前の将軍のご落胤である桂助を、次期将軍にして自分の思うがままに動かそうとしていた。義父の命の鍵を握る岩田屋の命じるままに、次期将軍争いを繰り広げる南紀派と一橋派の両領袖の治療にあたった桂助。そして、側用人の岸田が襲われ、叔母とその孫が連れ去られるに至って、桂助は出生の証である“花びら葵”を、岩田屋に差し出すことを決意する。岩田屋の野望は達せられたかに見えた…。長年の因縁に決着が付く、シリーズ第八弾。
時は江戸・享保年間。八代将軍徳川吉宗の側近である御用取次・加納久通より「目安箱改め方」を拝命した想身流柔術の使い手、竜巻誠十郎に新たなお役目が言い渡された。来る六月二十二日、真宗・幸徳寺において、幕府の実力者たちも参列する大規模な法式が開かれる。その門主・栄如に、いかがわしき女たちと通じ、妖しげな加持祈祷を行なっているという噂が立っているのだという。その真偽を探るうち、誠十郎は幸徳寺の近隣で狐憑きなど様々な怪異が起きていることを知る。政で救えぬ人々のため、天涯孤独の侍が江戸を奔る。長編時代小説シリーズ第二弾。
ピアニストの由起子は、病気療養のために訪れた沖縄の離島で漁師の龍二に出会い、恋に落ち、やがて女の子を身篭もる。しかし、娘・涼子を産んだ後、由起子は他界。やがて涼子は美しく成長し、島の幼馴染の漁師・一也と愛し合うようになる。だが、一也は結婚に反対する龍二に反発。漁師のプライドを賭けて深く海に潜り、帰らぬ人に。ショックで心を病んだ涼子は、心を閉ざしてしまう…。『花宵道中』で鮮烈なデビューを果たし、“新官能派”の旗手として活躍中の著者が等身大の若者の愛と苦悩、親子の愛情を描ききった意欲作。
「のぶ!まだ泣いちゃだめだ!もっと泣きたいこと、いまからいっぱいあるぞ!」時は一九七〇年代。田舎町に住むヤンチャでムチャでワンパクな男子高校生と町の駐在さんが“あいかわらず”繰り広げるイタズラ合戦第四弾。ある日、ママチャリ達は「ザリガニ池」で泣いている少年を見つける。少年はつい最近、近所の小学校に越してきた、いじめられっ子ののぶくん。のぶくんに、いじめられていた自分の過去をかさねた西条は、徐々に彼との交流を深めていく。ブログ小説「ぼく駐」の中でも人気の高い感動巨編『のぶくんの飛行機』を収録した、ファン待望の一冊。
小田原に住み、湘南ライナーで新橋の経済研究所に通勤する武藤の前に現れた美女・小早川恵。彼女は武藤に、週に一度、平塚にある自分のマンションで一夜をともにしてほしい、ただしセックスは抜きで、と持ちかける。恵はこうして、川上、大杉、岸川、仲という湘南に住む五人の三十代エリートに声をかけ、それぞれ月曜日から金曜日まで「一夜同棲契約」を結ぶ。岸川の美人秘書が殺され、捜査に乗り出した十津川警部の元に、恵と男たちの奇妙な関係を記した報告書が届く。一方、恵の魅力に翻弄された岸川は、他の男たちに恵をレイプしようと持ちかける。