2009年発売
ある午後、あたしはひたすら山を登っていた。そこにあるはずの、あってほしくない「あるもの」に出逢うためにーー子供という絶望の季節を生き延びようとあがく魂を描く、直木賞作家の初期傑作。
TBNテレビ報道局社会部の布施京一は、看板番組『ニュース・イレブン』所属の遊軍記者。素行に問題はあるものの、独自の取材で数々のスクープをものにしている。時には生命の危険にもさらされるが、頼りになるのは取材ソースのひとりでもある警視庁捜査一課黒田裕介刑事の存在だ。きらびやかな都会の夜、その闇に蠢く欲望と策謀を抉り出す。
「泥棒?」アパートに入ると、仕事道具の紙や画材が散らばり、キッチンは卵の殻がへばりついている。自分でやったこととわかっているが、それにしても…。生理前に必ず陥るこのパターン。イライラしたり落ち込んだり。でもこれもやっぱり自分なのだー。彼や友人たちの理解を得ながら、生理を通して、自分を見つめなおしていく秀子。PMS(月経前症候群)と格闘する30代の女性を軽快に描く。
春まだ浅い青森は十和田。高校卒業三日目。肩を壊し野球選手の夢を閉ざされた“ぼく”は同級生の駆け落ちを手伝ううちに相撲取りにスカウトされ就職も取り消しに。初恋の人との再会、釣り仲間との密漁と童貞卒業計画、番長の喧嘩に乱入、米兵との諍いに巻き込まれたり、ドタバタでしょぼいけれど素敵な事件の数々。人生のターニングポイントになった24時間を描いた、青春の疾走感がまばゆい傑作。
行方不明者を捜す専門部署として、警視庁に設立された失踪人捜査課ー実態は厄介者が寄せ集められたお荷物部署。ある事件により全てを失い酒浸りになった刑事・高城賢吾が配属される。着任早々、結婚を間近に控え、なぜか失踪した青年の事件が持ちこまれるが…。待望の新シリーズ、書き下ろしで登場。
空で、地上で、海で。「彼ら」は「スカイ・クロラ」の世界で生き続ける。憧れ、望み、求め、諦めながらー。さまざまな登場人物によって織りなされる八つの物語は、この世界に満ちた謎を解く鍵となる。永遠の子供、クサナギ・スイトを巡る大人気シリーズ、最初で最後の短編集。
埼玉県北西部の田舎町。元警察官のマスターと寡黙な青年が切り盛りするスナック「ラザロ」の周辺で、ひと月に二度もバラバラ殺人事件が発生した。被害者は歯科医とラザロの女性ピアニストだと判明するが、捜査は難航し、三人目の犠牲者が。県警ベテラン刑事は被害者の右手にある特徴を発見するが…。
時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流浪させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。
超兄貴サイズの体格に白薔薇のごとき心をもつ大学生作家・矢野俊彦は、同性の百合小説作家・千里を「世界一美しい人」と崇拝していた。しかしある日、千里の作品に感動した漫画家の彩子が、彼を女性と思い込み、同性愛のターゲットにしてしまう。横暴で好戦的な美女・彩子に、クールな毒舌漫画家・志木、さらには小悪魔的な美少女・美穂に翻弄されながら、俊彦は愛する千里を守れるのか?伝説の恋愛コメディ、ついに復活。
若く美しく学を身につけたモロッコの青年アゼルは、職につけず、姉の稼ぎをあてに細々と暮らしていた。閉塞感漂うこの国ではもう生きられない。彼は富豪の男の愛人になり、スペインでの豊かな生活を夢見る。さらに富豪を自分の姉と偽装結婚をさせ、姉をも脱出させようとするが…。策謀をめぐらす青年、密航の果てに溺死する男たち、秘かに春を売る女たち、エビ加工工場で働く小さな少女-出てゆくことを望む者たちが絡み合う苦闘と彷徨の物語。
気がかりな夢から、頭痛とともに目覚めると、男は記憶を失っていた。そばには炎上するバスと見慣れない少年。さらにそこは言葉の通じない外国だった。俺はここでなにをしようとしていたのだろう?少年とともにヨーロッパをさまよいながら、男は徐々に自分の過去と犯罪を思い出してゆく。どういうわけか、くさい食べ物を食うと記憶が蘇るのだ。味覚と記憶の深淵に切りこむ、奇妙な味のクライムノヴェル。
刑務所から保釈される待ちに待ったその日にシャドウはこう告げられた。愛する妻が自分の親友と浮気の末、交通事故で亡くなったと。絶望の淵に沈むシャドウに持ちかけられた奇妙な仕事とは…? ゲイマンの最高傑作!
アメリカでひっそりと暮らしていたギリシアやローマやヒンズーの神々が、現代の最新テクノロジーに最後の戦いを挑む。否応なしに巻き込まれたシャドウと、神々の運命は? 壮大なスケールで描く究極のファンタジー!
恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る“鳴鱗琴”について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。著者インタビューを併録。
あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが…。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録。
アイルランドの首都ダブリン、この地に生れた世界的作家ジョイスが、「半身不随もしくは中風」と呼んだ20世紀初頭の都市。その「魂」を、恋心と性欲の芽生える少年、酒びたりの父親、下宿屋のやり手女将など、そこに住まうダブリナーたちを通して描いた15編。最後の大作『フィネガンズ・ウェイク』の訳者が、そこからこの各編を逆照射して日本語にした画期的新訳。