2009年発売
超兄貴サイズの体格に白薔薇のごとき心をもつ大学生作家・矢野俊彦は、同性の百合小説作家・千里を「世界一美しい人」と崇拝していた。しかしある日、千里の作品に感動した漫画家の彩子が、彼を女性と思い込み、同性愛のターゲットにしてしまう。横暴で好戦的な美女・彩子に、クールな毒舌漫画家・志木、さらには小悪魔的な美少女・美穂に翻弄されながら、俊彦は愛する千里を守れるのか?伝説の恋愛コメディ、ついに復活。
若く美しく学を身につけたモロッコの青年アゼルは、職につけず、姉の稼ぎをあてに細々と暮らしていた。閉塞感漂うこの国ではもう生きられない。彼は富豪の男の愛人になり、スペインでの豊かな生活を夢見る。さらに富豪を自分の姉と偽装結婚をさせ、姉をも脱出させようとするが…。策謀をめぐらす青年、密航の果てに溺死する男たち、秘かに春を売る女たち、エビ加工工場で働く小さな少女-出てゆくことを望む者たちが絡み合う苦闘と彷徨の物語。
気がかりな夢から、頭痛とともに目覚めると、男は記憶を失っていた。そばには炎上するバスと見慣れない少年。さらにそこは言葉の通じない外国だった。俺はここでなにをしようとしていたのだろう?少年とともにヨーロッパをさまよいながら、男は徐々に自分の過去と犯罪を思い出してゆく。どういうわけか、くさい食べ物を食うと記憶が蘇るのだ。味覚と記憶の深淵に切りこむ、奇妙な味のクライムノヴェル。
出所まであと五日。三年の服役を終え、残りの日数を数えるシャドウ。あと、四日。あと、三日。そして…。その日まで四十八時間と迫ったとき、看守に呼び出されたシャドウはこう告げられた。今朝、愛する妻が自分の親友と浮気の末、自動車事故で亡くなったとー。呆然と立ちすくむシャドウの前に、奇妙な男が現れる。彼の持ちかけた仕事を引き受けた瞬間から、シャドウの数奇な運命の歯車が回り始めた。
恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る“鳴鱗琴”について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る「ひよこトラック」、思い出に題名をつけるという老人と観光ガイドの少年の話「ガイド」など、静謐で妖しくちょっと奇妙な七編。「今は失われてしまった何か」をずっと見続ける小川洋子の真髄。著者インタビューを併録。
あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが…。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録。
アイルランドの首都ダブリン、この地に生れた世界的作家ジョイスが、「半身不随もしくは中風」と呼んだ20世紀初頭の都市。その「魂」を、恋心と性欲の芽生える少年、酒びたりの父親、下宿屋のやり手女将など、そこに住まうダブリナーたちを通して描いた15編。最後の大作『フィネガンズ・ウェイク』の訳者が、そこからこの各編を逆照射して日本語にした画期的新訳。
「女だけの帝国」が誇る最強のハンター。その名はマリア。彼女の身体はそのすべてが戦いのために作られた。堅固な鎧をまとい、疾風のように飛ぶ。無尽蔵のスタミナを誇り、鋭い牙であらゆる虫を噛み砕く。恋もせず、母となる喜びにも背を向け、妹たちのためにひたすら狩りを続ける自然界最強のハタラキバチ。切ないまでに短く激しい命が尽きるとき、マリアはなにを見るのか。
叛乱の地・シッパルで神の娼婦が微笑む頃、バービルムの王宮に眠る秘密は目を覚まし、東では、エシュヌンナの太陽・皇太子イバルピエルと傭兵王の息子・イシュメ=ダガンが激突する。オリエントの凪は去った。人は、少年であり続けることはできないー。
暴力団・天狼会の息のかかった法律事務所に勤める弁護士、榛名は、少年時代に抗争で父と兄を亡くしたヤクザ一家の生き残り。そんな榛名に、ある男の渡航に力を貸してほしいという依頼が…。だが、そこに待ち受けていたのは戦慄の罠。榛名は、獰猛な瞳を持つ獣…幹部の赤城から、屈辱に満ちた“落とし前”をつけられることに…。婀娜めく裏切りと驚愕の真実…闇に狂い啼くミステリアスラブ書き下ろし。
鏑木流若宗家の瑛介は、秀麗な美貌と典雅な芸風で人気の若手能楽師。そんなある日、養父の宗家、彬光が事故で意識不明となり、急遽、ただ一人の孫、祥彦がロンドンから戻ってきたことで浮上した跡目問題。気鋭の能楽プロデューサーである祥彦は、破門され不遇のまま一生を終えた父の復讐のために帰国したのだと嘯き、瑛介を蹂躙し尽くすのだった。憎しみは淫猥な色に染まり…雅なるサスペンスエロス書き下ろし。
都会の小さな空間で、五線譜の果てを歌い続ける。男でも女でもなく、ただ美しき、「名もないバラの君」として。誰かにきらわれたら、それはおれがすばらしいということだ。信じるべきは自分の美意識のみ。ステージの上か下か。人は二つに分けられる。仲間を裏切っても、三十路をすぎても、おれはビジュアル系でしかいられない。
残酷。-それは人生そのものか。酷薄なる運命のことか。積み重なりし理不尽に対し、怒りと共に選ぶ道のことか…残酷号と呼ばれる謎の怪人が戦火の絶えぬ世界に降り立つ。無敵の力をふるい暴虐の軍と闘うその正体は、心を喪失したひとりの少年、義賊ロザンは少年を救おうとするが、その前に立ちはだかるのは、怪人を生み出した元凶ー邪の極ともいえる敵だった。歪んだ世が悪を生むのか、人の性が悪ゆえに世が歪むのか。なくした心を探し求める残酷号に未来はあるか。