2010年5月発売
空から太陽が消え、世界から風が失われたー世界が復活する日を待ちながら暮らすハロゥウイン・ダンサー市の市民たち。窮屈なルールに縛られながらも生きる喜びを知ったエドとメラニーは、「季節のない街」のミステリーを追求しはじめる。すべての秘密は、絶対に開けてはならない「雲の門」に?人生を賭けた冒険の果てに待ち受ける「運命」とは。
ようやく故郷銀河への帰還をはたしたペリー・ローダンに、ポスビ研究者ガルトは驚くべき提案をした。ラール人と超重族による圧政から銀河系の人類を救ってくれる太陽の使者、ヴラトがいずれ到来することを信じるヴラト信仰が興隆している。ガルトは、そうした惑星のひとつデンモルク2にローダンがヴラトとして降りたてば、ラール人への反攻の第一歩となるというのだ。そこで、ローダンたちはデンモルク2をめざすが…。
三十七年の短い生涯を旅と作歌に捧げ、妻子をもつことなく逝った長塚節。清潔な風貌とこわれやすい身体をもつ彼は、みずから好んでうたった白埴の瓶に似ていたかもしれない。この歌人の生の輝きを、清冽な文章で辿った会心の鎮魂賦。新装版刊行にあたり、作品の細部をめぐって著者が清水房雄氏と交わした書簡の一部を掲載した。
亡き父の借財を抱えた大学生、井領哲之。大阪にあるホテルでのアルバイトに勤しむ彼の部屋には、釘で柱に打ちつけられても生きている蜥蜴の「キン」がいるー。可憐な恋人とともに、人生を真摯に生きようとする哲之の憂鬱や苦悩、そして情熱を一年の移ろいのなかにえがく、青春文学の輝かしい収穫。
火事の怪我で視力を失った呉服太物店「美濃屋」の主・信太郎と、その身を案じるおぬい。眼も回復しないまま、美濃屋では手代頭の助四郎が店を飛び出し、別家・菱屋とも義絶するなど揉め事が続く。そんなある日、江戸を大きな揺れが襲うー。崩れゆく町と揺るがぬ家族を描く、静かな迫力に満ちた好評シリーズ。
夜鷹の女に産み落とされ、浅草の侠客・浜嶋辰三に育てられた神崎武美は、辰三をただひとりの親とあがめ、生涯の忠誠を誓う。親の望むがままに敵を葬り、闇社会を震撼させる暗殺者となった武美に、神は、キリストは、救いの手をさしのべるのかー。稀代の殺人者の生涯を描き、なお清々しい余韻を残す大河長篇。
奇策で人心を掴み、壊滅状態の会津藩財政を、数々の殖産興業で立て直した田中玄宰をはじめ、名家ゆえに責任を取ることになった悲劇、才気ゆえ主君から遠ざけられた者など、戦国期から幕末にかけて、幕藩体制が確立する過程で、家中の舵取りを任されることになった六人の家老たちの人生を記した歴史小説短篇集。
「池波さんのことを語れるのは生涯の誉れ」と言い切り、青年時代から愛読していたほど池波ファンの山本一力氏。その氏が、なによりも愛する「鬼平犯科帳」の中から悩みぬいて選んだ傑作六篇と、鬼平作品の素晴しさを綴ったオリジナルエッセイ、池波正太郎記念文庫での講演を収録した、山本一力版「ベスト・オブ・鬼平」。
父が痴呆症で徘徊をするようになった。ミサコという人を探しているらしい。記憶が断片になり、ある時は小学生、ある時は福祉課の課長にと次々変身する父に困惑する幹夫。だが介護のプロの佳代子に助けられ、やがて父に寄り添うようになり、ともに変化してゆく。無限の自由と人の絆を、美しい町を背景に描く。
ある日、あなたのもとに届いた一通の呼出状。それはあなたが裁判員候補者として選ばれたという通知だった。もちろん裁判など初めての体験。芒洋とした弁護士、森江春策と女性敏腕検事、菊園綾子が火花を散らす法廷で、あなたは無事評決を下すことができるのか。本邦初の“裁判員”ミステリー、ここに開廷。
後醍醐天皇から錦旗を賜った祖先を持つ三宅弥平次はその出自を隠すべく、明智家の養子となって左馬助を名乗り、信長方についた主君とともに参謀として頭角を現すようになる。秀吉との出世争い、信長の横暴に耐える光秀を支える忠臣には、胸に秘めたある一途な決意があった。『信長の棺』『秀吉の枷』に続く本能寺三部作完結編。
「愛宕山に詣でて、戦勝祈願のために一夜参篭する」。朝廷との密会を重ねる光秀の暴走を止められない左馬助。そして本能寺の変ー。大ベストセラーとなった本格歴史ミステリー長編は、すべての謎を解き明かしながら、明智家の壮絶な「死の門出」で終局を迎える。宴を彩る「落城の譜」の調べ、そして左馬助と綸が貫いた真実の愛とは。
モトクロスに人生の全てを賭ける貞二は、思うような結果が出せず、また、若い天才の出現に焦りを覚える。やがて、愛する洋子のため引退を決意し、最後の戦いに挑むが…。オール讀物新人賞受賞の表題作をはじめ、逡巡する青春の終わりの日々を瑞々しく描いた、作家・佐々木譲の原点である初期短篇五篇を収録。
戦後、虚脱と混乱の世相を体現するかのような烈しい生を、「可能性の文学」に殉じて壮絶な死で終わらせた織田作之助。三高での出会い、関西から東京へと共にした街歩きの青春、文学への熱情とデカダンスに駆られ自滅への道をひた走る流行作家の貌…。四篇の実名小説は、著者が親友に捧げた鎮魂の書であり、その文学の火種を九五歳でなくなるまで燃やし続けた“最後の無頼派”青山光二自身の青春の書である。
若くして亡くなった在日韓国人女性作家。日本で生まれ育ち、韓国人の血にわだかまりつつも日本人化している自分へのいらだちとコンプレックス。母国に留学し直面した、その国の理想と現実への想い。芥川賞作家の女の「生理」の時間の過程を熱く語る長篇と、「私にとっての母国と日本」という1990年にソウルで、元原稿は直接韓国語で書かれた講演を収録。
現代化の波が押し寄せるギリシャの街アルカディア。パンデリス親子もまた、さらなる利益を求めて観光客誘致に躍起となり、人里離れてひとり静かに暮らしているガブリリス老人の土地を、ヴィラ建設地にしようと目論んでいた。そんななか、ガブリリスがひき逃げ事故で命を落とす。折しも故郷に戻ってきた太った男ヘルメス・ディアクトロスは、友人ガブリリスを偲びつつ、真相の究明に乗り出す。地元の警察、マスコミ、開発者…各々の利権や欲望が露呈し、事件は意外な結末を迎える。娘を黄金に変えた古代ギリシャのミダス王の悲劇が、再び現代に繰り返される。
江戸のかたぎ長屋にやってきた浪人・瀬能宗一郎。剣の腕はたつが、どこか素っ頓狂。形見の銘刀「國房」を質に入れ、代わりに差しているのは竹べらに銀箔を巻いた「竹光」だ。もの珍しい江戸の生活を満喫していた宗一郎だが、生来の性格からか、はたまた隠された素性故か、様々な厄介事に巻き込まれる。やがて宗一郎をつけ狙う怪しい影が!侍とはいえ、剣を抜かなくなった平和な時代。それでも剣に憑かれた男たちの人生が苛烈に交錯する。漫画表現の最先端を走る松本大洋の同名ベストセラーコミックス原作者が書き下ろす小説シリーズ第一弾。