2011年7月発売
昭和二〇年八月六日、広島は雲ひとつない快晴だったー東京の女学校に通う十五歳の珠紀。戦争の影が濃くなるなか、友人たちは次々軍人に嫁いでゆき、珠紀は従弟の担任教師と結婚する。だが突然、夫は軍に志願したため、二人で過ごせる時はたった一週間しかなかった。珠紀は姑と暮らすため広島へ移り、やがてその地で運命の日を迎えることに…。少女たちの目から原爆を描き話題となった名作。
「殺人ビジネス、始めます。新規開業につき、最初の三人までは、特別価格三〇万円でご依頼お受けします」-左胸にアイスピックを突き立てられた死体の口には、赤いリボンで結ばれたチラシが突っ込まれていた。殺された男の名は…雪平夏見、最も哀切な事件が幕を開ける。
テムズ河口の寒村で暮す少年ピップは、ある日大きな屋敷に連れて行かれる。女主人の婚礼で時が止まったままのその家では、昔日の花嫁と美少女エステラが奇妙な隠遁生活を送っていた。やがて莫大な財産を約束されたピップはロンドンに旅立つ…。巨匠ディケンズの自伝的要素もふまえた最高傑作、抜群に読みやすい新訳版。
ロンドンで暮らし始めたピップは、同宿の青年の教えを受けながら、ジェントルマン修業にいそしみ、浪費を重ねる。恋いこがれるエステラとは次第に疎遠となり、虚栄に満ちた生活に疲れた頃、未知の富豪との意外な再会を果たす。ユーモア、恋愛、友情、ミステリ…小説の醍醐味が凝縮された、天才ディケンズの集大成。
無名の陶芸家が生んだ青磁の壺が 売られ贈られ盗まれ、 十余年後に作者と再会した時ーー。 人生の数奇な断面を描き出す名作! シングルマザーの苦悩、すれ違う夫婦、 相続争いに悩む娘の言葉を聴いてドキリとする親… 人間の奥深く救うドロドロした心理を 小気味よく、鮮やかに描き出す絶品の13話! 第一話 青磁ひとすじに制作を続ける陶芸家の省造。ある日デパートの注文品とともに焼きあがったその壺は見る者を魅了した。 第二話 定年後、家でぼんやりする夫を持てあました妻は、世話になった副社長へのお礼にデパートで青い壺を買い、夫に持たせた。 第三話 副社長の夫の部下の女性と、甥っ子を見合いさせるため二人を自宅に呼んだ芳江は、今どきの人たちに呆然とする。 第四話 青い壺に美しく花を生けようと奮闘する芳江。孫を連れた娘の雅子が急に帰ってきて、婚家の醜い遺産争いを愚痴るのだが。 第五話 老いて目が見えなくなった母親を東京の狭いマンションに引き取った千代子。思いがけず心弾む生活だったが…… 第六話 夫婦ふたりで、戦後の焼け跡から始めたこじんまりとしたバー。医師の石田は、「御礼」と書いた細長い荷物を置いて帰った。 第七話 息子の忘れ物としてバアのマダムが届けてくれた壺をみて、老婦人は、 戦時中の外務官僚だった亡き夫との思い出がよみがえり、饒舌に語りだす。 第八話 長女が嫁ぎ、長男はアメリカに留学。姑は他界したある日、夫にレストランに誘われ…… 第九話 女学校の卒業から半世紀、弓香は同級生たちと久しぶりに京都で集まる。戦争を経て子育ても終えた彼女たちは、家庭の状況も経済状態もそれぞれで……。 第十話 母校だったミッションスクールの初等科に栄養士として就職した、弓香の孫娘の悠子。野菜を食べさせたいと工夫を凝らすが、ある日… 第十一話 世話になったシスターが45年ぶりにスペインに帰郷するときいた悠子は、青磁の壺をプレゼントする。壺はついに、海をわたる! 第十二話 スペイン旅行中に急性肺炎になったという入院患者の男は、病室に飾った青い壺に触られそうになると、怒鳴るのだった。 第十三話 高名な美術評論家を訪ねた陶芸家の省造。スペインで見つけた「12世紀初頭の」掘り出しものとして、青い壺を見せられたが……。 解説 平松洋子
博奕に溺れたせいで夫婦別れしたおきくが、半年ぶりに訪ねてきた。再婚話の相談で、もう自分には関係ないと一旦は突き放す民次だったが、相手がまぎれもないやくざ者と分かるや、危険を顧みず止めに出る…雪降る江戸深川の夜の橋を舞台に、すれ違う男女の心の機微を哀感こめて描いた表題作他八篇を収録。
北新地のホステスと欧州視察旅行に出かける理事長を誘拐した美術講師の熊谷と音楽教諭の菜穂子。私学助成金の不正受給をネタに正教員の資格を得ようとするが、二人を操る黒幕の狙いは理事長の隠し財産だった。教育現場の闇は百キロの金塊に姿を変え、悪党たちを翻弄する。元高校教師の著者が描く痛快ミステリー。
「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。
神田須田町の大店を焼け出され、浅草御厩河岸に越してきた十七のおちえ。失意の日々の折々に大川を眺めるのは、水の流れがやる瀬ない気持ちをなだめてくれる気がするから…。情緒豊かな水端を舞台に、たゆたう人々の心模様を描いた宇江佐流人情譚。大好評の前作『おちゃっぴい』の後日談も交えて、しっとりと読ませます。
転校が決まった“相棒”と自転車で海へ向かう少年たちの冒険「僕たちのミシシッピ・リバー」、野球部最後の試合でラストバッターになった輝夫と、引退後も練習に出続ける控え選手だった渡瀬、二人の夏「終わりの後の始まりの前に」など一瞬の鼓動を感じさせる「季節風」シリーズの「夏」物語。まぶしい季節に人を想う12篇を収録。
「カジュアル・フライデー」に翻弄される課長の悲喜劇を描く表題作、奇矯な発明で世の中を混乱させるおもちゃ会社の顛末「犬猫語完全翻訳機」と「正直メール」、阪神ファンが結婚の挨拶に行くと、彼女の父は巨人ファンだった…「くたばれ、タイガース」など、ブームに翻弄される人々を描くユーモア短篇集。
進学校に通う陸には本当の友がいない。校内模試の順位に一喜一憂する日々のなか、幼なじみの嘉人を思い出す。中学の頃、乱暴な他校生から守ってくれた奴。札つきのワルだった。潔癖で繊細な少年たちの交流がひかる傑作「大富橋」ほか、水の都・深川で昨日と少し違う今日を生きる彼と彼女を描く秀作六篇。
南米の富豪ルノーが滞在中のフランスで無惨に刺殺された。事件発生前にルノーからの手紙を受け取っていながら悲劇を防げなかったポアロは、プライドをかけて真相解明に挑む。一方パリ警視庁からは名刑事ジローが乗り込んできた。たがいを意識し推理の火花を散らす二人だったが、事態は意外な方向に…新訳決定版。
嫌われ者の老退役大佐が殺された。しかも現場が村の牧師館の書斎だったから、ふだんは静かなセント・メアリー・ミード村は大騒ぎ。やがて若い画家が自首し、誰もが事件は解決と思った…だが、鋭い観察力と深い洞察力を持った老婦人、ミス・マープルだけは別だった!ミス・マープルの長篇初登場作を最新訳で贈る。
東京・雑司ヶ谷霊園の裏に教会を構える神霊壽血教。教主・印南尊血の様子がおかしいとの相談を受け、心理学を学ぶ大学院生・夷戸武比古は教会を訪れる。あらゆる用事を放り出して、ひたすら観覧車に見入る教主に戸惑う夷戸、やがて教主の娘が密室で変死を遂げ、血塗られた惨劇の幕が切っておとされる。吸血神・ストリゴイを崇拝する奇怪な教団に巣食う邪悪な殺意に、心理学的推理で挑む夷戸。総本部教会でくり返される自殺の連鎖。だがー探偵小説とB級ホラー映画をこよなく愛する新鋭が贈る傑作心理学ミステリー。