2011年発売
「彼は憎しみでも怒りでも何でもいい、身体に満ちることを願った。…大きなハードルも小さなハードルも、次々と乗り越えてみせる」危機をひたむきに乗り越えようとする主人公と家族を描く表題作をはじめ八〇年代に書き継がれた「秀雄もの」と呼ばれる私小説的連作を中心に編まれた没後の作品集。最後まで生の輝きを求めつづけた作家・佐藤泰志の核心と魅力をあざやかにしめす。
倦まず弛まず書物と格闘し新たな文学作品を生み出した、禅僧たちの営みを明らかにする。また、その後の近世文学への接続、同時代の和歌や説話、公家社会の学問との関わりを探り、孤立しているように見えている五山文学を日本文学の中に組み込むべく、その存在を新たに捉える基礎作業を行う書。
ブラジル・モダニズムを代表し、リオデジャネイロと縁の深い四人の詩人、マヌエル・バンデイラ、カルロス・ドゥルモン・ヂ・アンドラーヂ、ヴィニシウス・ヂ・モライス、セシーリア・メイレーリス、リオを愛し、リオとともに生きた四人の詩を読み解き、ブラジルやポルトガルの詩の核、“サウダーヂ=郷愁”の意味に迫る。
ヨーロッパの小国・アンドラで殺人事件発生。外務省邦人保護担当の黒田は、アンドラからのSOSを受けてスペイン・バルセロナから現地に向かい、一人の日本人女性と出会う。彼女は何者なのか。ふくれあがる疑念とともに、黒田にも危険が迫る。外交官は、どこまで捜査にかかわれるのか。自身のアイデンティティまで問われかねないぎりぎりの状況を切り開いていく黒田だが、そこには巧妙な罠が張り巡らされていた。「外交官黒田康作」シリーズ第3弾、最高傑作。
刑務所から出所したばかりの大男へら鹿マロイは、八年前に別れた恋人ヴェルマを探して黒人街にやってきた。しかし女は見つからず激情に駆られたマロイは酒場で殺人を犯してしまう。現場に偶然居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらました大男を追って、ロサンジェルスの街を彷徨うが…。マロイの一途な愛は成就するのか?村上春樹の新訳で贈る、チャンドラーの傑作長篇。
ボストンで新作映画を撮影中の人気スター、ジャンボ・ネルソンのホテルの部屋で、若い女性ドーン・ロパタが変死した。アクの強い個性でのし上がったジャンボは決して好感度の高い男ではない。マスコミは大騒ぎし、誰もがジャンボを殺人犯であると信じていた。だが、クワーク警部は証拠もないままジャンボを逮捕する気はなかった。クワークの示唆で、ジャンボの弁護士からの依頼という形で、スペンサーは事件の調査にとりかかる。だが不愉快きわまりない人格を有するジャンボとたちまち衝突し、解雇されてしまう。依頼人がないまま、しかし看過できないものを感じたスペンサーは調査を続ける。そしてジャンボとのいざこざの際に、ジャンボの護衛についていた一人の青年と出会った…人気スターをめぐるスキャンダラスな事件の裏には、さらなる深い闇が潜んでいた。そしてスペンサーは、道を見失いつつあった青年を泥沼から救い上げる。初登場から38年、圧倒的な支持を受け続けてきた人気シリーズが、ついに完結する最終作。
染織工芸界の巨匠が破門中の弟子の恨みを買い、メッタ突きされて殺された。しかし、事件はいっこうに報じられない。なぜなら、殺されたはずの男が生きていたからだー。その謎の陰で、ある二つの遺体の不審点が明らかになる。医学の発展がもたらした恐怖と、人間の生命とは何かを世に問うた、医学ミステリーの名作。
救急救命士の織田は、路上で倒れていた少女・笑加を助けるが、彼女は十代前半の少年たちと暮らしていた。実は彼らは、都知事による新宿浄化作戦で両親を中国に強制送還された、戸籍のない子供たちだった。事情を知った織田は、理不尽な現実と社会に復讐するため、彼らとともに無謀な行動を起こし始める。
由美子は久しぶりに会ったいとこの昇一と旅に出る。魔女だった母からかけられた呪いを解くために。両親の過去にまつわる忌まわしい記憶と、自分の存在を揺るがす真実と向き合うために。著者が自らの死生観を注ぎ込み、たとえ救いがなくてもきれいな感情を失わずに生きる一人の女の子を描く。暗い世界に小さな光をともす物語。
世界第2の高峰、ヒマラヤのK2。未踏ルートに挑んでいた翔平は登頂寸前の思わぬ事故でパートナーの聖美を失ってしまう。事故から4年、失意の日々を送っていた翔平は、アマチュア登山ツアーのガイドとして再びヒマラヤに向き合うことになる。パーティに次々起こる困難、交錯する参加者の思い。傑作山岳小説、待望の文庫化。
時は20世紀初頭。ロンドンのマンションの一室に、執事ジーヴズは今朝も流れるように紅茶を携えやってくる。村の牧師の長説教レースから実らぬ恋の相談まで、ご主人バーティの難題をややいじわるな脳細胞が華麗に解決(?)。バーティたちが通うドローンズ倶楽部の愉快な面々も少し顔をのぞかせる、ユーモア小説傑作選第2弾。
大学進学で高知にやって来た篤史はよさこい祭りに誘われる。初恋の人を探すという淡い望みを抱いて参加するも、個性的なチームの面々や踊りの練習、衣装も楽曲も自分達で作るやり方に戸惑うばかり。だが次第に熱中するうち、本番が近づく。憧れの彼女は果たしてどこに?祭りの高揚を爽やかに描く青春小説。
絵双紙本屋の紀の字屋に出入りする浪人・清七郎は、弱い者を見過ごしにできぬ性分。江戸の町に不慣れな者たちが辛い目に遇っていると知り、自分の足で調べ上げた切り絵図を作りたいと夢を抱く。折しも主の藤兵衛が病に倒れ、清七郎に店を譲りたいと持ちかけられる…。清新な時代小説書き下ろし新シリーズ。
「とっておきの探偵にきわめつけの謎を」-臨床犯罪学者・火村英生のもとに送られてきた犯罪予告めいたファックス。術策の小さな綻びから犯罪が露呈する表題作ほか、過去の影におびえる男の哀しさが余韻を残す「長い影」、殺された男の側にいた鸚鵡が真実を暴く「鸚鵡返し」など珠玉の作品が並ぶ人気シリーズ。
高校卒業から十年。元同級生たちの話題は、人気女優となったキョウコのこと。クラス会に欠席を続ける彼女を呼び出そうと、それぞれの思惑を胸に画策する男女たちだが、一人また一人と連絡を絶ってゆく。あの頃の出来事が原因なのか…?教室内の悪意や痛み、十年後の葛藤、挫折そして希望を鮮やかに描く。
心無い主人のもとで使用人として働く、十六歳の少女・秋羽手鞠。そんな彼女の心の支えは、十年前に離れ離れとなった幼なじみ、上総頼重とのあたたかな思い出だった。ある日のこと、手鞠は美しく成長した頼重と運命的な再会を果たす。その後、頼重の勧めに従い彼の住む屋敷に身を寄せることとなった手鞠は、そこで思わぬ事実を耳にする。自分が頼重の「許婚」であると。さらに、頼重に科せられた残酷なさだめを知りー!?頼重を救おうとする手鞠は、いつしか忌まわしい祭祀へと誘われていく。待ち受ける恐ろしい宿命を知らずに…。呪われた宮司と無垢な花嫁の恋愛伝奇。
鬼神不測の術をもつ諸葛孔明は、七星壇を築いて東風を祈り、孫権と劉備の率いる呉・蜀連合軍は、折から吹き出した風に乗じ火攻めによって曹操の水軍を焼き払う。これぞ赤壁の戦いである。敗走に敗走を重ねた曹操は、関羽の義にすがって逃げのびた。
連続幼児殺人事件の捜査本部を指揮する不破は、同期の落ちこぼれ警察官・田村の失敗で真犯人を取り逃す。17年後、田村が新宿歌舞伎町のビルの屋上から転落死する。田村は定年後も単身、連続幼児殺人事件の捜査を続け、真犯人に迫っていた。当時、犯人の顔を見たのは田村一人と思われていたが、じつはもう一人目撃者がいた。そして4人目の被害者の母親も強靱な意志で不破の捜査に協力する。果たして闇に消えた真犯人は誰なのか。